ロイターの記事 ~ベトナム対タイ~

2021年5月16日(日)

記事に拠るとCOVID-19禍を抑えたベトナム、またタイも感染の抑制に成功した為、両国はWTOから称賛されたとあります。
タイはベトナムよりもいち早く工業化に着手。現在多くの日本企業が進出しており、自動車産業、電機、素材産業を中心に東南アジア最大の製造業の集積地として成長を続けてきました。
いま日本企業は進出先にベトナムを選ぶ傾向が強いけれど、これまで視察に来た企業・経営者はタイに拠点を置くか思案のしどころでもありました。
さて、内容を読むと本年幕開けには様子が少々違っているのでは、というほど差が付き始めたとあり、アジアの主役交代?とまで見出しに書いてある。
せっかくいい線を行っていたタイ。しかし12月には出稼ぎのミャンマー人に大規模な集団感染が確認され、その後も一気に拡大。1月初頭に1万人を超えるという騒ぎからケチが付き始めました。
そこへ昨年のGDP成長が発表されベトナムは2,8%。一方タイはマイナス7,8%になるとの予想という明暗。こうなるとタイは頭打ちか、と思われる。
そして追い打ちが掛かったのが中国で部品生産の一極集中に端を発し、ここぞと自由主義国がサプライチェーンの移転にこぞって声を上げ、その白羽の矢が立ったのがベトナム。分があるというところでしょうか。
日本企業の中で明確な動きが出たのがパナソニック。記事に拠ると昨年9月に洗濯機、10月に冷蔵庫の生産をタイで打ち切り白物家電をベトナムに集約したとあります。何しろタイはパナ社の海外初生産の国。このところタイ企業がベトナムへ大型投資を急速に加速させている動きに政府は歓迎だが、5500社進出している中で日本の大企業が出てゆくのはショックでしかありません。
パナ社の冷蔵庫はかつて松下冷機がマレーシアで、ベトナムへ25年ほど前の初進出時はテレビだったと記憶しているが、冷蔵庫はタイで大型、ベトナムは中容量の機種を棲み分けて造っていたとあります。

・生産拠点の移転には理由が

企業戦略として工場移転には理由がある。即ち市場性と賃金。タイの家電普及率はかなり高く家庭に浸透している。これに対しベトナムはこれからの市場。また人件費も上昇してきているが、まだタイの6割程度だし当面余裕がある。
旧サンヨーがビエンホアに工場を1995年だったか?建設。冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどをいわゆるSPA方式で国内生産、販売していました。ブランド商品で高い人気があり、黒字経営ではあったが、惜しくもハイアールに身売り。
当時はこれらの家電製品など高根の花。新品は買えないので中古品が人気です。
それでも自慢げに見せびらかすほど。しかし電気代が高いからとお飾りの様に置くだけの家もあったという位だし、冷凍食品が普及していないうえ冷蔵もしない。その日食材は、朝に新鮮な野菜・肉魚介を買う習慣が日常の時代です。
私が家を売った際など、購入者に家具家電の全てを置いて行ってと言われた位。
また初めて事業にしたのが、こうした頃での家電製品販売、工事などでした。
しかし発展をしているベトナム。急速に所得が上がり生活が豊かになってきた。こうなると少々贅沢して、今まで手が出なかった家電製品を買いたくなるのが人の気持ち。しかも品質の良いのが欲しくなるため需要が見込めます。

・これからはベトナムが主流と観るのか

メディアや各調査によるとベトナムへの進出を考える企業は多い。日本などは補助金まで出して中国からの移転を促進。中でもベトナムは一番多いようです。
しかし、マクロ経済としての見方は別にして、これまで多くの日本企業の進出や現地視察の際に立ち会ったが、進出する企業の立場からみると必ずしも絶対的にベトナムを固執する企業ばかりでない。専門家の目から見て望むべく基礎的技術水準にも達しておらず、集積という観点からも整っているタイを選ぶ所もある。これも一つの現実。それぞれの企業の考え方、製造に必要な技術基準の到達度を見極め、それなりに合致した結論を出すべき。勘違いはいけません。

・ベトナム国内での見方は

今ベトナムは高い成長を継続しているが、商工省によると、COVID-19禍で逆にベトナムの弱点が曝け出されたとみる節もあります。声高にベトナムへの部品生産拠点の移動が期待されているが、海外企業への依存度が高く部品や原材料は輸入に頼らざるを得ない。GDPに占める工業分野は約18%でしかない実態は他国に比べて低い水準だと分析。さらに工業の競争力や生産能力は低くい上に国内に8万社しかない。しかも財務体質や技術力に弱く限界がある。
従って国内の付加価値創造は低迷し、この解決のためには製造業の誘致しかないとあります。クールな見方をしているのには少々驚きました。これは経済界の期待度とは裏腹にかなり正確に自国の実態を把握していると感じる。
しかし解決策と唯一考える外資企業の導入や技術移転を求める方法では、より首を絞める事になり兼ねないもろ刃の剣です。
商工省は高い付加価値をつけるために、効果的な解決策を成長する可能性の高い産業に優遇策と支援策を講じています。自動車産業、繊維・アパレル製品、電子機器、鉱物資源、これからサプライチェーンを見据えて育成拡大する裾野産業という訳ですが、現在の付加価値は、電子機器は37%、繊維製品は50%と分析しているのが実情で、具体的な到達目標は出ていないようです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生