中国進出した外資系大企業がベトナムに生産拠点を移している

2023年1月4日(水)

中国の大手メディアは、アップルやサムスンなどの国際的に有名なメーカーが、製品の生産を中国からベトナムへ一部移転しているとし、こうした状況に関して専門家の見解を含めて分析した記事を掲載していました。
この内容とは日経などの海外メディアの報道記事を引用する形で、アップル社のベトナムでの生産計画について、米中間の緊張や台湾をめぐる中国の動きと地政学的なリスクを減らすため、中国以外で生産を増やそうとしていると述べています。さらに同社の意向を受けてサプライヤーである台湾のホンハイ精密工業と中国のラックスシェア社がベトナム北部に進出し、アップル・ウオッチの生産を始めたと報じている。
実の所2020年にアップル社はベトナムに進出しており、今後さらなる移転も考えられるとしています。
中国以外でこれを造るのは初めてであり、それだけではなくノートパソコンMacBookの製造を試験的に行うラインも計画しているが、アップル社が公表している主要サプライヤーの約半数は実に中国企業。音響部品のAACテクノロジー、ディスプレイを製造するBOE社などがあるとある。
またMacBookなどの製造には多くのサプライヤーの存在があるけれど、これも中国企業が担っており、そのネットワークは中国国内にあるが、製造は比較的容易なので如何にコストを低減できるか競争力がカギだとしている。
またサムスン電子については、タイグエン省の工場で2023年度から半導体の製造を開始する計画としていると報じています。
こうした生産拠点移転の動きに関してベトナム事情に詳しいコンサルタントは、COVID-19の影響によるリスクマネジメントと関連性が高く、部品調達の分散化と多元化、さらに政治のリスクを避けたいという理由が浮き彫りになっている。またベトナムについては、政府の積極的で戦略的外資企業誘致と労働コストの安さは背景にあるが、取り分けハイテク産業とか情報通信産業の研究開発拠点をベトナムに持ってきて、単なる工業国ではなく先進の技術を海外企業に求めている思惑が反映されているとみている。従ってこうしたアップル社やサムスン電子の動きもベトナムの政府の意向に沿った形で進められていることに違いは無く、半導体のコア部分の生産地になる可能性が高い。しかし実現には時間が必要で、こうした技術者も不足しており育成をするにしても最低10年はかかるのではと考えているとあります。残念ながらベトナムの高等教育は世界的にみて必ずしも進んでいる訳でなく、海外に留学した若い人が活躍しているけれど、これはその兆しに過ぎない。またこれから問題となるのは賃金の更なる高騰であり、高齢化社会に突入するという人の問題。またベトナムに資源が無く、精密部品の製造など地場企業で出来ないというデメリットもある。
即ち生産拠点の移転は時代の流れかもしれないが、必ずしも全ての企業が成功するとは限らないとしているのです。したがってベトナムに投資をしようとする外資企業はこうした現地事情を十分調査、把握したうえで結論を出すべき。
これまで世界の工場として来た中国。しかしこの所は不動産問題から露見した隠れた財政不安も顕在化する可能性がある。かといってベトナムが中国の代わりになり得るのか。これは少々疑問でもあるのです。
労働生産性が低く工業化を国家戦略に挙げたものの裾野産業は思ったほど整備されていない。そこにいきなりのハイテク化は無理がある。従って中国の補完的役割としての機能が限界となることに意識した方が良い。

・他の報道をみると

アジアの中でベトナムはCOVID-19から復活の気配が高く、世界の期間や銀行などから今年の経済成長に関してはかなり高い評価を得ています。
先の政府系環球時報とは異なり同じ中国メディアは、英語版でベトナムは次の中国かとし、世界の工場として中国の地位を奪うかもしれないと論評し、その可能性を警戒しています。
またドイツの有名新聞に「さようなら中国、こんにちわベトナム」という見出しでベトナムはより良くて安い中国の様だと記事を掲載。アップルとサムスンの移転例を紹介し中国の懸念も紹介している。
これには実例を挙げ中国の企業がベトナムへ巨額の投資をしたとか、中国国内のスマートフォン工場では携帯電話の需要が落ち込んだため、一部のメーカーが東南アジアへ生産拠点をシフトしたので工場が閉鎖され、多くの工員が職を失い経済に活況が見られない例を挙げています。
ベトナム統計局によると、今年第一四半期は5,03%の成長で、これは中国の4,8%を上回った。また貿易も前年比で14,4%増加、中国は10,7%となっているとしています。しかし単純に数字だけを比較するのは誤りがあり、中国の経済専門家で大学教授は、中国の製造業が東南アジアへ工場を移転している。ベトナムの製造能力が向上したのは確かだが中国は少なくとも過去30年間に亘る実績があり心配することはない。と猛アピールする。
またグローバルタイムズは、ベトナムは外資企業にとって魅力的な市場であり、またサプライチェーンの多様化の目的地でも続けるだろう。だが中国の製造業のシェアに食い込む能力は限られていると、否定的立場を書いている。
現地でローカル事業を経験したことや、地齋の地場企業の製造現場を見た事が無い外国人記者が、ヒアリングで記事を纏めるのには限界があると思います。
経済成長を数字だけで判断してはいけない。大切なことは具体的な内容を把握できているかです。日本の新聞社でさえ現地に駐在する記者の赴任期間はそんなに長くなく、また駐在者も一人。そうなれば国内の様々な出来事を取材できることなど限られており無理がある。そうした事情からも断言することは理に適っていると思えない。どの記事が正しいとかでなく、近隣諸国の状況も知り、グローバルな視点で物事を捉え、また身贔屓や風潮に惑わされず自社・個人で現地の実態や実情を確認、判断するのが近道だと考えます。 いくら世界的事情からサプライチェーンのベトナムへ移転が喧伝されているといえ、国内地場企業が造る製品には格差があるのが実情。基礎的能力は思う程高くはなく、人材の教育や育成にもそれ程積極的ではない現実がある。日本の高専システムをベトナムにと首相自らが来日時に懇願するのは国内事情が分かっているからなのです。事実日本の様に中小企業の製造する部品の方が品質も優れ精度が高いという訳ではなく、製造している環境もいいとは言えないし、機械を見ても高性能だとも思わないが、これなど短時間の視察では分りません。
確かに一部に外国製の機械を入れ、海外で研修した方も居るがそんなに多い訳ではありません。裾野産業が考えるほどには育っていない。数多くのローカル現場を見てきたからこそ現地の本当の事情が分かるのです。また職人が自分の作る製品への誇りや物をつくるという気概にもかなり差があるのが事実。機械があって図面通りの製品や部品が出来るものではなく、もの作りの原点、必要な道具や機械を自ら造ることもある。最終工程には職人の長年の伝統や経験に基づく勘、体や指先が覚えていて完璧な製品が出来る。なんて聞く事もない。    
企業には社員を教育することは先ずない。元々は基礎教育が出来ていないうえ、実務でさえこんな状況。時間をかけて育成するなんて事をしないのは、殆どが組み立てや二次産業でも生産性の低い産業に携わる仕事が多いからで、これは彼らにとっても不幸なこと。
報道に流されるのは禁物、現地を知らず高額な費用を請求するコンサルタントを鵜吞みにしてはいけない。長く在住して真の事情を知る人に聞き、自ら現地へ赴き自分の眼で判断するのが正しいと考えます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生