ヴィンファスト 前期5800億円もの巨額赤字 投資は継続

2026年6月10日(水)

3月に掲載された日産の26年前期決算の見通し。昨年は辛うじて営業利益が約88%減の697億円、経常では約70%減だが利益を計上し、何とか黒字を確保したが、今年度の三月期は大赤字となる公算。主力の追浜工場など7工場を閉鎖した構造的改革で減損となったと云われ、その額はもろもろ入れると、最終損益は6708億円の赤字とか。だが本業も振るわない。かつては技術の日産と言われ、プリンス自動車のロケットを製造できるだけの技術的遺伝子を受け継いだものだが、確かに筆者が初めて乗った名車ブルーバード、中古だったけれど何しろ強かった。何が原因なのか?トヨタと大きく水をあけられた。

・赤字は続くよ 何時までも ヴィンファスト

ところがベトナム新興自動車企業ヴィンファスト。3月に公表した昨年12月期連結決算は97兆VND(約5800億円)という報道。前期から赤字額は約20兆VND増えたのは驚きだが創業以来黒字になった事などありません。
およそ民間企業として考えられない異常事態であり、普通なら倒産はおろか、この国の経済規模からすると極めて膨大過ぎて、経済、殊に部品等を納入する企業などに支障が及ぶと考えられ、本来なら国が放っておけない緊急事態なのだが話題にも上がらない。これを地元新聞など報じずまさに天の声の為せる業なのかは後に述べるとして、この実態が世間に表面化すれば国民の信頼は無くすし、働いている社員や工員はやる気が無くなるのが普通なのだが?そこまでこの国の地場企業、従業員が成熟しているのか、或いは経済や企業経営に無知なのか?資金繰りに問題があるのは紛れもない確かな事実。ところが一旦株価は下がったものの不可思議にも上場廃止にもなっていないのです。
ところが今期も事業を拡大する計画というから恐れ入る。このずば抜けた感覚、強烈な創業者のリーダーシップにも拠るけれど、この国の企業実態、またこのヴィングループの企業形態、さらに創業者の懐事情によるものです。
即ちベトナムの企業、株式上場大企業でも所有と経営の分離がされていない。これは何度か書いたけれど、創業者であり経営者一族が相当の株式を保有し、分社化や新事業を始めても同族で固めて自己増殖を繰り返すから太って行く。社会的責任など毛頭なく個人商店が大きくなった極みで、会社の儲けは自分の金、どう使おうが勝手。先進自由主義諸国がもつ企業価値観はまるで異なる。
訳が分からないのは創業者ヴォン氏、ベトナム一の大金持ちと言われても相変わらず、取り憑かれたように続々と新事業に手を出し事業欲の権化か塊。野心がミエミエもいいけれど、経営者にあって然るべき経営哲学とかロマンが全く見えてこない。もしかしたら国を背負っているとの自負が原動力かも知れない。
鳴り物入りで首相が自ら新工場の完成式に参列したほど政府は大感激、念願であった国家事業に違いはない。しかし何の技術にシステム、生産管理にしてもまともな部品が国内調達できないのはおろか、重要な部品は海外調達、設計やデザインも自社では出来ないので外国人任せ。レシプロエンジンは複雑なので、経験すらなく造れない、」世界情勢と相まって早々と造りやすいEVに急転換。販売は政府の後押しを受けた優遇税制、低率ローンや割引を行ってきた訳です。
さらにアメリカや、他のアジア諸国、さらにEU市場に攻勢をかけようと粉塵の努力をしようと奮闘するのは良いけれど、自国でさえ完全掌握できる訳などなく、いたずらに赤字で生産を続けて来た結果、利益が計上できないのにやせ我慢も良いところ。売れれば赤字がさらに増すという奇怪な現象で、屋上屋を重ねて赤字の垂れ流しとは道楽の限り。これで真の経営者と言えるのか?
さらに輪をかけるのがヴィンファストの会長。運営効率を上げるには、規模の拡大が必要だと御説を披露している。もはや神経を疑いたくなるほど軽々しいのは感覚がずれているかだが、平然と今期も先行投資を続けると宣言。勇気があるのか、経営センスや思考が欠陥しているのか?焦りの極致なのかは不明。
しかしベトナムにおける市場シェアは30%に近づき、世界での販売も19万台を超えたとしているし、電動二輪車も40万台、前期の5,7倍になったのが、凛々の発言を与えているのかもしれないが、この数字だけで企業評価が出来ず、また従業員の必死の営業努力の賜物とはまったく違います。

確かに日本車が苦境にあり、またホンダはヴィンファストが現地で電動バイクを発売して後塵を拝したのは確かな事実。しかし積年の物つくり、一朝一夕で真似ができ、肩を並べられるのが容易でないことに疑いの余地などありません。
かつての様にマレーシアが三菱車の名前を変えてプロトンと称し国民車に仕立上げてバク売れ。インドネシアもそうしたけれどこの間技術をものにして来た。ところがヴィンファスト、勢い政府の後ろ姿よく見習って外国の技術を導入して来た。だけど未だ身についているというものではありません。工場内で稼働するロボットは海外製、EVに不可欠な燃料電池も自国では作れず海外企業と合弁で工場を作ろうとしているとか、研究施設は自国に設けずにヨーロッパで建設した。これは何を意味するのかだが、彼の地にあってこそ海外進出できると踏んだのか、あるいは自国はそうした環境にあらずと考えたのか?
要するに国内で何年も前から声高に叫ばれてきたけれど、必要とされる部品を地場が造れない。特に精密部品は輸入しかなく、裾野産業を創って先進工業国にすると政府は宣言したけれど頓挫してしまった。まして部品作る機械を造るマザー工作機械など百年早いのが現実。借り物競争というゲームがあるけれど、こぞって地を行き自画自賛。VINは南北新幹線計画への事業参入も取り下げた。

・販売は伸長だが増える赤字は雪だるま

年々販売が急伸している一方、赤字は雪だるま式に増えている。理由はEVの普及に向けた先行投資。おまけにまたも購入者に充電を無料にする、ガソリン車からの買い替えにEVを3%、電動バイクは5%の値引きと安易に打って出た。
さらに設備投資に金を惜しまない。見栄ではなく新工場だから当たり前。昨年は10億ドルを投資、バッテリーやモーターなどの主要部品は国外調達なのでコストが嵩む。燃料電池工場を国内に造ることを決めたけれど、日本の自動車産業の様に企業系列や関連部品等を造る企業が歴史的に育って来ていないのでゼロからの出発はコストが大きくのしかかる。まして自社に技術にノウハウの積み重ねが乏しくて海外依存する体質は変わらないが、これで吸収するわけ。
今年度も10億ドルの投資を計画、また中断していたアメリカ工場も建設再開する様で、2030年には年産100万台という突拍子もない計画を発表。
この他には2025年にインドで工場を稼働させ、またインドネシアでも電動バイク販売を地元企業と行うのに合弁会社設立、フィリッピンでも同社のEVタクシーが走り、電動バイクも発売。国内では来年に新工場を稼働させHV車を発売するとかで、急速にアジアから事業拡大を急いでいるのです。
ハイブリッド車も試作段階なので来年の投入に間に合うのか不明だが、先進国メーカーの後を追随するだけ。自社開発など全くできず、眼中にもありません。
時系列に観てゆくと、計画性が無い様にも思える。これはまさにマサンに売った小売部門の店舗展開をそのままを踏襲しているかに感じる。要は急場凌ぎの店舗開発なので内装は張りぼて、利益より売上至上との考えというか経営姿勢そのもの。業種が違い、規模が大きくなっただけで経営理念に思想が見えない。
だが販売計画が強気なのは、ハノイとHCM市で始まるガソリンバイク規制がバックと踏んでいるからで、確かにこれまで排気ガス公害は酷かったので電動化に整合性ある。さらにVinグループが手掛けている全国での不動産開発と組み合わせ、トヨタのウーブンシティの様な未来構想の都市作りを考えているとも言われる。頭の切り替えや情勢判断は早いが、熟慮する余裕はないからか。
問題は何時まで資金が続くか。資金繰りをグループ会社の利益に頼り、創業者ヴォン氏の持つ株式などの資産をも投入するが、流動性は低いので、何処かに落とし穴が待っている。経済成長が続き、不動産価格も二度目のバブルの恩恵もあるし、人口も増加している。だが高齢化の波を避けることはできないし、人口ピラミッドも変化してきている。今の所は表向き好調とも言えるけれど、夢のまた夢になるのか。それとも永続してベトナムが右肩上がりの経済成長と国民の所得が保証され、中所得国から更に高みを実現できるかだがあり得ない。
確かに工場設備は近代化され、さらっぴんの機械が並んでいるとかだが、国内だけでしぼむのか、海外でも先行大手との競争に成功できるのかは不透明。

・国内ではどう報じられたのか

3月の現地経済ニュースは、まさに国民を鼓舞する様な提灯記事が並んでいる。
Vinグループの創業者、ヴォン氏はベトナム一の大成功者であり国家の念願であった自動車産業を興した人物。だから政府の後方支援もすさまじい訳です。
だから経済界や株式市場に与える影響も大きく迂闊なことは滅多に書けません。では、昨年度の業績に関してどのような記事を書いているのでしょうか。
ヘッドに持ってきたA紙、「VinFastは2025年に過去最高の売上高とEV納入を達成」とある。これは製品に対する世界的需要と主要市場での急速な拡大としており、
電気自動車の販売は昨年196,919台で前年から102%増加。歴史上2倍の販売。また財務は前年同期比で105,4%の増加、90兆4300億VND(36億ドル)と戦果を報じている。この結果億万長者ヴォン氏は9兆VNDを稼ぎ出したとしているのです。
また三月に報告した昨年末までの財務報告では過去最高の結果を記録し、多くの重要な指標を発表されて新たな高値(株価)を更新したとしている。
ところが、過去最高の赤字を出している件に関して一切触れていません。もし正式にマイナスの数字が公表されならば株式市場はその様な反応を示すのか?
単年度の赤字ではなく、これまでの累損であれば余計に深刻な数字なのだが、一切報じていません。それどころか国際市場は強い成長を維持しているとして、電動バイク、EVは著しい勢いで成長している、と書いているのです。しかし政府の後押しが無ければ、この企業、一体どうなっていたであろうことか。
またB紙は「収益は強い成長を維持し、利益率も大幅に改善している」と書いており、集積の明確な改善は生産規模の拡大と、コスト構造の最適化を反映しているとあるが、具体性は無くまるで煙に巻かれたような表現となっています。
それどころか見識を疑いたくなるかのように、VinFastはベトナムの自動車市場で引き続きトップの地位を確保しており、昨年末でシェアは36%となったと報じ、一昨年の22%から大幅に増加したとあります。また電動バイクも国内市場でナンバーワンを獲得していると形振り構わずに堂々と書いている。
Vinfastは世界各国に4か所の工場を運営しており、年間60万台のEVの最大生産能力を誇っている。国内50万台、インドネシア5万台、インド5万台、また電動バイクもハイフォンで年間50万台を製造していると案内している。
さらには多様なラインと包括的なエコシステム、そして拡大する代理店でのサービスワーク、パートナーのネットワークを通じてシェアの拡大と市場での地位を強化し続けている、と持ち上げているが、アメリカ工場の着工延期には一切触れず、さらに言い訳がましく財務も販売も好調、海外でも人気があると企業広報誌顔負けPR感を前面に出していた。一般の人は信じて疑いません。

・グループの創始者は世界のお金持ちランキングを9つ順位上げた

ベトナム現地紙は、東南アジアで最も富裕な男性、ファム・ニャット・ヴォンが世界の大物富裕者を凌ぎ64番目、アジアでは13番目の豊かな人物になったと報じました。フォーブスに拠ると世界の長者を次々と抜いて、4月25日には彼の保有する純資産は349億ドルになり、昨年末から23%増加した。
これはVinグループの株価が上昇したためとあるが、現在約22万VNDで取引されており、昨年に7倍に急騰し、今年年初からは30%上昇した事です。
これだけのことでVinグループの総資産は160億VNDを超えたという。
フォーブスではこれらの株式と個人資産である保有する財産を須らく計算して参入するとあるが、一体どうして掴んでいるのか?不思議な話。
彼の億万長者としての初登場は2013年、15億ドルで974位からの出発、13年掛ってここまで来たわけです。彼とその家族の保有する株式は、不動産、EV車、医療に鉄道などに関係して、ベトナム最大のコングロマリットを形成したが、一族はこれらグループの約65%の株式を保有していると報じている。今年のグループ目標は昨年から46%増加し、485兆VNDの売り上げと3倍の純利益である35兆VNDとある。
しかしこの人が、保有する株式を従業員に何らかの形で分配したという話は聞かない。かつて一般に市民が手を出せる価格の範囲でアパートを分譲し、今では農産物や畜産に進出したホアン・アン・ヤーライの社長は功績のあった社員に気前よくアパートを贈与した、なんてこともない。仮に自らが保有する株式を時価であっても、積み立て方式でも、賞与時に分配するなら社員の企業に対する帰属意識は高くなり、これが業績に反映するという好循環を考えないのか。
こんな所に成金的で会社の儲けは自分のモノという概念が見えて来るのです。
社員はあくまでも労働力の提供であり会社との関係はまさに資本主義的な搾取にしか見えて来ません。これが一般的なベトナムの経営者の思考であり、其処には経営哲学や理念は存在せず、経営者と従業員の間での労使関係があっては、所有と経営の分離が行われていない前近代的な個人商店の延長が実態です。
こういう所に社会主義国の企業というだけでなく、経営に於ける組織の硬直化が何れ明確になり、意識改革が出来ない単なる企業になるだけです。

4月に地元経済紙のインタヴューでヴォン氏は、ヴィンファストは二度とガソリン車を生産しないと公言。距離を伸ばしたEV開発に専念するとしたとある。また2027年には最近設立した航空宇宙企業ヴィンスペースは初の小型衛星を製造し、翌年に軌道に打ち上げる事としていると報じた。チャレンジするのは良いし、機会があれば失敗を重ねることも成功への道しるべになる可能性もあるが、この人の辞書には地道に成功するビジネスなどあり得ないのでしょう。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生