このほどHCM市に属するトゥードゥック市の開発用地の競争入札で、驚くべき金額が出て不動産業界に衝撃を与えた事例があります。
地場大手不動産企業が応札したのは1㎡/日本円換算で約1200万円。総額だと約1850億円(約1万㎡)での落札価格。
これは市中心部一区ドンコイ通りをもさえ大きく上回っており、常識ではあり得ない異常価格なのです。
今回の事例はただでさえ住宅価格の高騰に拍車が掛る可能性が高くて象徴的。一般ワーカーの平均賃金で飲まず食わず40年働いてやっと1㎡が買える価格。この物件の所在地とは、サイゴン川の東側でかつてはフェリーで渡ったところにあるトゥーティエム地区。かつて道路は舗装されず土埃が舞う交通不便な地。住民の多くは中部から移住した人が多い。川を一本挟んで物価は安く、名物のブン・ボー・フエは美味しく本場の味。大きな児童施設も近くにありました。
此処の地区に超高層アパート等を建設、中国・上海の浦東を目指すとあります。
一体誰ための開発なのか。意味するのは一部の富裕層への供給であり、これで社会格差が一層拡大し、さらなる分断が起きるであろうことに違いありません。
HCM市の不動産価格に与える影響は多大だが、何れはハノイや他の省にも波及する可能性は大きい。驚異の落札価格は自然発生的なバブルというものではなく、政治主導でもない。それ以上に想像する事がある。それはいったい何を意味するか。
政府・行政の無策が露呈したけれど、予定より歳入が増えたなんて安易に喜んではいけない。インフレが加速し賃金も高騰する切掛けや、兆候とも言えなくありません。だがそれ以上に飛躍した仮定の範囲を超えないが、資本主義街道まっしぐらと映らなくない。こんな別の視点(見方)が浮かんで来ます。
ベトナムは戦後ドイモイ政策を採用し、外交を全方位に渡って展開。経済発展を行う為に改革を行ない、外国資本の導入を積極的に図り、各国・各地域との経済連携協定を締結してきました。これが成果を生み長い間の苦境から脱して貿易黒字国に転換、外貨準備高も1000億ドルを超えるまでになっています。
しかし成長するに連れ様々な格差は拡大する一方であり、都市部と地方との間に厚く高い壁が出来。ビジネスセンスがある人と一般給与所得者、貧富に学歴や医療の格差等々が知らず知らずの間、為されるままに拡がってゆきました。
これまで株式高騰、不動産バブルなど仕掛けは何度かあったが、鮮明になったのはここ10年ほどか。この中からほんの一部の私的企業が巨大資本力を蓄積。具現化したのが今回のハプニング。即ち不動産を商品とした市場に於ける拡大生産であり、更なる莫大な価値増殖が起きている事象が明らかになりました。
こうなると資本を持つ事業家とワーカーという収奪される側の構図がはっきり見えてしまう。これは資本主義社会における階級関係としか思えないのです。
もはや貧しさを分かち合い、分け前を公平に分配してきた社会は存在しない。先の現象からみて社会が発展して一般市民が豊かさを享受できる様になったと誰が感じるか?そうではなく競争社会に転じてから大きく時代が変容している証であり格差が拡大。能力があっても生まれながらにして富の格差で働かざるを得ず、多くの人は高等教育を受けられない。人は選別され分断が生じると考えます。これは明らかな社会損失だがより明らかになっただけに過ぎません。
また民間企業の能力が政治や行政より先行してしまったと言え、これに先進的な技術や経営管理が加わるなら、やがて政府を凌駕する存在に成り兼ねません。その兆し。ビングループは外国人の知恵を借りて車を製造。コングロマリット化を行なう資産家でなく、もはや資本家と言える、こうした複数の経営者企業が顕在化するまでに至っているのは明白な事実で、益々富が集中するとみます。
既に市場経済化がより進展している。であれば積極的に受け入れ、上手く改革してこそ国家・国民の豊かさと安寧の実現可能には早道なのかも知れません。
それにしても先進国が歩んできたトレンドを踏襲するだけで、環境に配慮した経済活動など出来るわけがない。豊かになれば成るほど歴史的教訓として先の失敗例を学習効果として学ばなければならないが表面的に繕うだけ。何れの国でも環境保護は後回し。資金、能力に理念があればこそだが、それ以前に其処までの余裕がないのは明らかです。私権がこのまま成り行きのまま拡大するか、公益は増すかだが、両方とも恐らくない。見て見ぬ振りが当面続くせめぎ合い。
中国の様に民間企業が巨大化し存在が目に余り目の上のタンコブ。もはや理想とする社会主義ではなく利権を求めての全体主義傾向。考えすぎでしょうか。
資本主義社会が高度に発展しやがて限界が来て崩壊。ようやく理想とする社会主義が構築される過程、とする論理からすると来るべくして来ただけの話かも。
後はどの様に進化してゆくのか。シナリオ通り百年二百年先か。とんでもない空論か暴論なのか?または想像すらつかない新しい社会が来るのかもしれない。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生