保有期間固定に反対 ベトナムの住宅はリスクが高いと業者が言うほど

2023年6月27日(火)

多くの人は黙っていなかった。不動産アナリストは購入者にとれば大きな資産であり、政府も認識していることなので現在のまま自由に保有する条項は変更されないことを望んでいる。人の財産を勝手に決めるなと言うべき。
そもそも住宅法と土地法を分けている所に問題が生じる必然があり、であれば統合して根本的に見直して一体化すれば整合性を担保するのが筋なのです。
また不動産開発事業者も改正案に反対している。HCM市不動産開発業者協会は明確に反対を表明。このような提案そのものが住宅の既購入者や購入予定者を不安に陥れ、アパートの価格は下落し、リスクヘッジで戸建て住宅が高騰し住宅市場を混乱させるだけ。より多くの行政手続きが必要となると怒り心頭。
彼らもこれが普通と思っていて海外の状況とか法律を知っている訳でもなく、国内法の範囲での解釈でしか対応できない。法整備が出来ていないのであれば、法律を制定するべく動かなければならないけれど、これも簡単ではありません。
私権の制限は何れの国でもあり、最終的には裁判に委ねられるが此処では望み薄でしかありません。最も効果的なのは国民の反対。これを代弁するのが業者。

ベトナム人の旧知の社長に、度々来日するのならばいっそ日本でマンションを買えばと良いと話したが、其処までは踏み切れなかった。しかし中国人はいま日本の宅建免許を取る人が増えたと報じている。日本の不動産価格は安過ぎて今が買い時だと先々のキャピタルゲインを狙っています。だが実用であってもベトナム人が、日本国内に居住する人は何人も居て別なのだが、この様な動きを聞いた事はありません。思考の差が大きすぎて理解できない。

・建設省は固定化を断念

建設省がなぜ頑なに使用期間を決めようとするのか。もちろん民主主義的な考えなど一切なく、権力社会構造そのまま。だが一応は論理として建物の安全性を確保して住民の生命を護るという訳でいわば親心。
実際ベトナム国内に老朽化した危険なアパートが沢山ある。HCM市内中心部にもこうしたアパートを結構目にするが、崩壊寸前とまでは行かないにしても、もはや建て替える時期に来たと思えるような建築物も多いのが実態です。
中を一度拝見したことがあるけれど、一見何もなさそうだがこれは幾度となく内装を重ねているからで実は構造部分に問題があるかも知れません。また設備はすでに今の時代に通用しないし、配管等が腐っているとか、機能していないことは戸建ての改装を行ってきたので推測は容易に出来ます。

建設省がとなえるところ、社会的観点から長年にわたって課題に直面してきたのは、数十年も前に建築され、老朽化した建物は危険で改修を加速させたい。或いは解体して建て替える事でより多くの人が安全に住めるようになる可能性がある。また都市景観とか、大都市にとって最適な有効利用をしてゆきたい。整然と正当性を論理展開するが、即ち住宅より経済性を優先し、都市の発展を促進するため再開発を行いたいのが本音だが正当性を謳っている。

建設省はこの期間固定化は憲法上の問題はないと法務省に確認したとしている。用意周到になんとしても国会を通過させたい腹のうちが丸見え。そこに不動産業者、専門家へのヒアリングや一般国民の民意反映などありません。
同省はこうした反発を無視。繰り返して所有期間を制限する必要性を安全面の観点から繰り返して強調するだけでした。即ち安全に建物の使用が出来る期間に拠って決定されると住宅不動産局が会見で強硬姿勢。
しかし世論を考慮。仮に新法が成立すればそれ以前の許可証があれば無制限に住むことが出来るとして、一応の配慮(逃げ道)を表明しました。
だけど安全を確保するというのであれば、今のベトナムでの建築品質をみれば分かるのだが決して堅固とは考えられません。然るに構造計算を見直して強化、また使用する建材などの規定を明確にするなどでより建設基準を高くすることを事業主に要求して審査する。監督を強化するなど幾つもの方法はあります。さらにレッドブックさえないアパートは全国に何千棟もあると言われており、これらを含めこの国のアパートの品質は高くない。従って期間の上限を決めようが、その時には限界を迎えている筈と考える向きもあります。
それよりも先進国の高層住宅状況を参考にしながら新しく法律を構築するべきと不動産関係者が意見を述べているのはまさに正鵠を得ている。

・反対意見は多い

仮に期間満了して、住人が新しい建築プロジェクトに参加しない場合、政府は住民に対して補償を行い、移転を手配されるとしました。即ち土地の使用権を買い取るとしたのだが、僅かの持ち分ではどうしようも無く詭弁に過ぎません。
HCM市不動産協会は殆ど人々が長く住むために購入するので、この政府提案はアパートの市場価格を下げ、需給バランスが崩れる。さらに先に書いた通り、此の所有権の期間を制限すると嫌気がさして戸建てにシフト、そうなると価格が上昇する矛盾が起きると不動産コンタント会社・SVILLS VN社が指摘。
また土地使用権がどうなるか明確ではないと不信感を述べ、このまま採決されると不動産の流動性に影響を与えるとして不適当としました。

そこへきてベトナム国際仲裁センターの仲裁人であるNet氏は、建設省の提案は幅広い協議が必要で、その後に国民の過半数から支持を得なければ実施されるべきではないと表明しました。
おまけに議員からも反発。昨年来不動産業界は苦戦が続き、いくつもの業者が毎日廃業している現実から、こうした時期にまたもや市場を混乱させる提案はさらに悪影響を及ぼすとしている。また一部の富裕層のみが何があっても対応でき、ここぞとばかり恒久的に使用権を維持できる土地を購入する機会を広げるだけと否定。政府は建物が耐用年数を超えた場合のみ修理や再建築実施方法に関する規制を作成するにとどまると牽制しています。
常任委員会も国民の権利侵害を理由にして所有期間の制限する提案を却下したのです。同意はしないけれど、問題となるアパートの老朽化ゆえの修理や解体、さらに居住者の移転に関しては、その権利は政府にあるべきという立場をとっており、所詮は体制から一歩も抜け出ていないことが分ります。
財政委員会のクオン委員長も提案は合理的ではないとし国民の否定的な(政府への不信感)反応に繋がる可能性を危惧している。
祖国戦線(政府に影響力がある)に属する諮問委員会議長も、提案は実用的ではないと反対の立場をとり、誰も高層住宅に感心を持たなくなって市場が凍結。
国会の元法務委員長も住宅購入者とコミュニケーションをとるべきなど要人からも反対。現地メディアも読者アンケートをとったところ約8割が反対と回答。
不動産不況から海外のデロッパーは現地企業のM&Aに関心を持って観ているとの報道があります。万一この案が国会を通れば海外から投資は来なくなる。
こうした各方面からの反対多数の意見を勘案、立場を無くしてしまった建設省はこの改正案をやむなく撤回したのです。
一般国民の民意やメディアの力、企業関係者などの意見が通った形なのだが、となればこの先政府は無体な事が出来なくなる可能性が高まる。国民に経済力が付けば政権に多大な影響力を持つことに繋がって行く機運が生まれてきます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生