二番目の住宅 またも課税提案が論議を巻き起こしている

2023年7月6日(木)

以前この事案が浮上した時にもコラムにしたけれど、またもセカンドハウスを所有する人へ課税の話が復活し現実味を帯びています。HCM市は前回、試験的提案であるし、国際的な不動産所有に対する課税に沿ったとしていました。
HCM市の言い分は投機を減らすためとしていたが、昨年一旦この提案を中止。また非農地と二番目の不動産を売却する際の税率引き上げに関する計画も諦めたと報じられています。しかし満を持して再びこの問題を出してきた。前回は単に時期が悪いと引っ込めただけで、燻っている所に火が付いただけの話。
さらにHCM市の案は当初国会で承認されなかったのだが、政府もこの考え方に同調している。国会に提出された法案の中で二つ目の不動産所有者に対して課税する提案を再び行なったと報じている。それには所有者が該当する不動産の取得から売却するまでの期間に基づいて課税をするべきとしています。
また投機を減らすため事業分野での取引にはより高い課税を行うとしているが、もうひとつ明確でなく理解できず、すっきりしない部分がかなり数多くある。
なぜか天然資源省がこの税率を考える役目を担っている様で、シンガポールの税制を参考にしているとされるも、さしたる根拠などない。
これに拠ると、二番目の不動産取引に7%、三番目には10%の税金が掛かる。
また購入後、最初の年に売れば16%、二年後が12%、そして三年後で8%の譲渡税を支払い、四年目以降は税金が掛からなくなるという仕組みだが、課税は何に対してかは不明。此処までしなければ不動産高騰を抑えられない様です。一般市民への不動産購入機会を増やすためには、一部の特権階層へ斟酌する事なくこの異常な状況の打開に強烈な施策は必要と考えるが、何しろ複雑に考えすぎて分らない内容ばかり。他にも方法はある筈だし、各議論からは根本的に地方税なのか国税か、あるいは整理できていないのかは不明瞭です。

財務省は一つの大きな不動産を持つ人に課税されないが、小さな二物件を保有すれば税金が課されるならば矛盾があるとして、公平ではないとの見解を示す。
HCM市不動産協会は、先の市の考えと計画中止に至ったことに関し、困難な経済状況下と市民の収入減少がある中で、負担を増やすことになると警告する。
ただでさえ不動産市場は低迷しており、さらに沈下させる要因となるとして、今後2年間は税金を課さないよう促したとあるが、元凶は彼らの足許にもある。
ベトナム不動産協会でも、今は税金を課すべき適切な時期ではない。この課税は不確実性が高いので慎重に税率を検討する必要があるとし、投機を防ぎ不動産市場に過剰な資金流入で金が溢れるのを避けるためには若干高くても良い。
とするけれど、しかし全国的に適用されるのが道理だとしています。
不動産評論家もこうした税金を課すのに準備が整うまでは少なくとも2~3年は掛るとし、しかもHCM市だけでなくハノイ、ダナン、カントーなど大都市でのみ適用されるべきとしています。さらに裕福な中央ビジネス地区に存材する不動産に課税すべきとの提案があり、累進課税が妥当であるとしています。
この理由として、例えばアメリカに固定資産税はあるが、富裕層の多くの人は物件を複数所有している。投機と未使用の不動産の数を制限するには累進課税が適切としています。だがベトナムの税金に関しては不透明で未発達な部分が多く累進課税が何を意味するのか。話している本人も理解できているのかさえ良く解からず、所得合算なのか、分離課税なのかも全く論じていません。
別の専門家の見解は、主な目的は市の収入を増やすためと明快。取引の透明性を高めるのには良いとし、しかし課税するのなら都心部と郊外、都市と農村、居住形態や生産、またはビジネスで利用するなど地域、具体性、明確、公正であるべきとするけれど、土地の評価というのが趣旨でなく建物であり、これは考え違いしており、問題を複雑にしているだけでしかありません。

市当局は極めて雑な考え方をしたようで、納税者のデータベースさえない状況。
複数の不動産所有者を明確に特定するため、効率的な納税者管理をしなければならないが、これが無いと不可能。外国では個人が所有できる不動産の量(数)と種類に特定の規制があるともしているが、これはベトナムに無いのです。
何時、どのように実施するべきなのかも全く定まっておらず、課税する以前の問題であり、具体的なロードマップを作成する必要があると識者が語っているとあります。この様な状況では導入など全く出来る状況には全くありません。

ところが市当局も最近、複数の不動産所有者から税金を徴収することで、市の収入が増えると言ったとあるが、これは宗旨替えなのか。あるいは本音が出て来たのか。ならばこれまでの投機を防止するというのは単なるお題目に過ぎなかっただけで、まやかしと受け取られても仕方が無く振出に戻るだけの話。

社会主義国特有の問題であるけれど、権力を盾にして当局が関係者の意見を聞かず進めた顛末。思いつきは結構だが、充分な論議など出来ていなかったし、行き当たりばったり。何とかなると思ったのか、何も煮詰まらず須くバラバラ。
市場への介入が度を超すと業界へ影響は大きい。また税額が高すぎれば市場は活性化する訳など無い。さらに多くの退職者は生活費を賄うために住宅を購入して賃貸に回しており、中には在住日本人もいる。この利益率よりも低くするべきとか、好き放題に持論を述べているが、何れも論拠にも整合性にも乏しく、身内贔屓の勝手な考えを述べるだけと言わざるを得ません。
さらに筆者が考えるに、こうした場合家屋の価格査定をどのようにするのか。
これには大いに疑問を感じる所です。課税標準額の算定をどのように行ない、そこに決められた税率を乗じて税額を算出するけれど、物件の経過年数をどう評価するのか。単なるセカンドハウスか、事業用としての賃貸物件をどう扱うかなど、様々なケースを事前公表せず、急にセカンドハウスへの課税など混乱をきたすだけ。一応は儀式であっても世論をないがしろにしてはいけません。
土地は国のものだから論外としても、家・建築物は個人の私有財産になるので、こうなると明確な基準を置き、透明性を担保することが必要不可欠です。
また投機を抑制というなら投資との線引きはどう行うのか。これを誰が判断し、その根拠とは何なのか。これらの事務作業が出来るとは到底思えません。
もっと言うならば、価格高騰の原因は個人に責に帰すものではなく、経済発展に伴う流れの一コマに過ぎない。これを転嫁するにはそれなりの確実な論拠が必要になるのではと考えるのだが、答を出せる人など何処にもいません。

日本国内でも、京都市が2026年度から実施を決めているのが空き家や別荘など非居住住宅への新税導入。前回も書いているけれど、市内に居住する人の減少率が日本一。これには様々な理由があって一概に言えないけれど、過疎化と高齢化社会、人口減少を抱える日本の縮図でもあり、人口増加と発展が続くベトナムとは全く事情が異なります。
狭い盆地の中心部。ただでさえ地価は高いし、固定資産税に都市計画税も高額。これが嫌で友人など周辺部へ転居しているが通勤時間は変わらない。おまけに寺社・大学等が多く、市域の半分が近く税を取れない千古の文化都市の泣き所。
ところが京都に住みたいと(何故か良く解からないが)特別の地域にある高級マンションなど完売続出、市外の人が多いのは事実。税収入等が期待できなければ空き家として課税しようとなった次第。裏を返すと、居住しないなら早く売れ、と言いたげ。しかしおいそれと売却できる物でなく、買える訳でもない。ともすれば不動産価格下落を招き、外国人の購入が増加するリスクとか、一帯を地上げされホテルなどに変わるだけ。人は増えないし戻らない現象の悪循環。
市は高さ制限の変更で容積率アップを検討。だが90%の戸数を建設する業者は市外だし、これを見越して早くも用地の争奪戦が始まっています。となれば新築マンション価格は高値安定かそれ以上。若い世代が戻る訳などあり得ない。
思惑が外れたならば市はどうするかだが、取り敢えずは税収を上げたいだけで、今までの財政悪化の諸要因を転嫁、目を向けさせないため有益性を訴求する。
固定資産税や都市計画税は地方税。たちまち全国に波及してゆく事態になるけれど、何れの団体も反対の狼煙を上げていません。日本古来のお上からの通達にはあまり逆らわないという大人しさなのか。これも問題に違いありません。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生