ベトナムでの処世訓 十話

2023年8月23日(水)

外務省の国別在住邦人数推計によると、令和4年10月現在でベトナム全土に2,4万人弱の日本人が在住しているとか。前年比で約1,4%減少したというけれど、世界13番目となりけっこう多い方です。これはあくまでも推計で、現地大使館や総領事館に届けている人数、在留届を出していない人も要るため若干数異なるけれど大筋ではほぼ間違いありません。
30年ほど前、現地に駐在した知人の話では、この当時はHCM市に3千人、ハノイなど僅かに300人だったと、夢のような話。しかも極度に経済は疲弊していたし、モノは無く、社会インフラの整備は出来ておらず世界的には貧国。移動制限があって窮屈だったけれど、食べ物は美味しく豊かだった。人は素朴で温かかったと当時を懐かしそうに語っていました。
ところが2000年が幕を開けてから、海外企業の進出により急激に経済成長が始まり、貿易黒字が義減価すれば様々な格差が開く一方。それまでの貧しさを分かち合う時代から、戦争を知らない若者の世代へと移り、今では1億人の人口を抱える世界13番目の国家に成長した。インフラ整備が進み街は見違えるようになったし、人の生活もドンドン豊かになって行くのが分かります。
だが急激な成長下にあってもビジネスで必要とされるセンスが伴わず、世界的にみても技術、ノウハウ、生産管理にマーケティング力もほぼ理解していない。もちろん潤沢な資金がある訳でもなく提供できるのは単純労働力。したがって労働集約産業、生産性の低い組立が得意との状況が長く続きました。
品質も高くない一次産業や付加価値の低い製品作りではたかが知れている。
数字で見れば理解できるが、海外企業の輸出割合が70%を超えているのにも関わらず、さらに投資を歓迎する政府。地場企業の沈下は避けられない。
そこへ降って湧いたのがCOVID-19。世界の部品生産に大きなマイナスの影響を及ぼした結果、ベトナムが俄かに脚光を浴び、生産拠点の移転が叫ばれました。
ところが意外にも慌てたのが現地の識者。事情を知れば知るほどだけど企業の生産能力が無いと言い出す始末。何しろ資源・素材は自国で供給出来ないし、R&Dは強くない。もちろん優秀な人材は居るし、進出外資企業に向けて部品を供給している企業もあるけれど、中国の様な絶対量を賄えるには至らない。
中小企業は手っ取り早くM&A、企業を売却。これが年々多くなっている。
こうした事情を知らない海外の無責任なメディアに乗っかって、またもやベトナム礼賛が起きたがこの所トーンダウン。現地駐在者からは経済停滞を伝えてくるほどだし、暑くてダムの貯水量が低下。こうなると電力が供給できなくなり企業の操業も出来ない。輸出が減れば給料もダウン、勤労意欲に係わるし、そうでなくてもこれまでの体質はここ何年も変わらない。
こんな中、現地で駐在する人も現地のスタッフは若くなった、かつての戦後、貧困の時代を知らない人が多くなった。また海外に出かかる人も多くなったのはいいけれど、意外と変わっていないビジネス実務上での課題は多い。

・お人好し日本人はほどほどに 親切心が仇となる

人情浪花節など通用しないと心得るのが大切。こんな事をすれば付け込まれるだけで舐められる。相手は動きをしっかり見ており親切、優しさを逆手に取る。メリハリが重要でダラダラ長引かすのは間違い。時には厳しく対処、日本人の様な阿吽の呼吸はしません。

・金は貸してはいけない 縁が切れればそれだけと割り切る

世界共通ではあるけれど、とにかく少しでも親しくなるとこの危険が忍び寄る可能性は高い。次第にエスカレート。実際に親が心臓手術するので金を貸して欲しいと日本にまで無心する。とか、兎にも角にも親を出汁にすることが多いのです。

・冠婚葬祭 行かないなら徹底的にやめる 公平が原則

ある大手企業の社長。幾ら親しくても社員の結婚式にはいかないと決めている。要するに不公平ととられかねず、社員の数が多くなれば年に何十回もの披露宴に招かれる。日本と違って相手かまわず。席順も決まっていないので、来た者から好きな所に着席が多い。となると顔見知りが自然とテーブルに付く。だが宴たけなわ、という場面であっても自分の用事があればさっさと帰宅する。

・評価は論理的に

意外と理屈っぽいベトナム人。地場でさえくどくど長い時間かけているが要点を得ず。正論とは自己勝手の考え。給与改定も幾度とあるが理由を言わなければ文句を言ってくる。何故か彼らの内輪は全てが筒抜け。何で私があの娘より低いの?とくる。なので、予め評価を点数にするなどして論理で打ち負かす。

・期待が大きければ失望も大きい

正当に評価されたとしても反って増長し、私は出来るンだ!と錯覚してしまう。
これが危険で直ぐに転職に走るほど節操はない。だが僅か数百円で転んでしまう馬鹿も居るが同額ならと居残る奴もいる。こんなのは出来るだけ早く辞めさせるべきで、二度あることは何度もある。幾ら目を掛けても同じ、最後には恩を仇で返される。学歴はほぼ関係なく家庭の教育レベルや貧困度の方が大きいかも知れない。10年以上も共に仕事をしても最後には裏切るが、大した能力が無いのに、多くは金銭がらみ。こういう経験をした人は実に多い。残念ながら面接では人柄屋仕事の能力はなかなか分らない。何故なら多くの場合、自分をよく見せようと一を十に言うほど大法螺をこく。反対に大化けする人もいるから難しい。

・いくら教育・育成しても 恩義など感じない国民性

地場企業にまともに教育育成する所は多くない。知る範囲では日本に留学して就職。自分で会社を設立して順調異伸ばしている企業があり、こうなると事情は異なるが日本人だけでやろうとすると難しい。時間が掛るので、真面な現地職員をソレナリと立場や給料でしっかりやっているケースは多い。ところが、これも曲者。何時かは独立してと、ノウハウを盗まれ、取引先も引き抜いてという現地で長く事業する人が居た。因みに奥さんは現地の人なのに。良いご縁を結ぶことは必要であるけれど、金が絡むといけません。

・チョイ オーイの感覚

これはどのようにも解釈できるが、オーマイガー。差し詰め、なんてこった、でしょうが、誤魔化されてはいけません。責任逃れの意味もある。自分は悪くないと、故実付ける人もいるが、いい加減とアバウトの境界の線引きは難しい。氏より育ちは何処の世界でも通用する。

・現場主義

現場を知らなければならないのは何処でも同じ。若くして現法責任者。車に家もある。お付き合いで分不相応な特典も味わえる人もいる。しかし現地・現場・人を知らなければ動かない。ひなが机に向かい、オフォスとアパートの往復、夜は日本食レストランでは人は動かない。ある社長は会社に居る日本人はただ一人。曲者で有名なある事ない事を記事にする記者が居た。要するに金をセビる訳で、これを拒否した。たちまちあくる日の新聞にベトナム人労働者をこき使うとあった。だが従業員はこれに猛反発。この理由、昼ごはんは社員食堂で話を聞きながらしていた。要は同じ目線で物を見て、意見を聞いていたのです。言葉の上手さはさほど重要ではなく、真摯に話を聞いていた気持ちが伝わっていたワケです。

・本当のベトナムの歩き方を実践する

休日ともなればゴルフに出かけてコンペ。日本植レストランでお開きという方も結構いらっしゃる。何にしても個人の自由だし、日本人同士で仕事が捗るのも否定しないし、時には悪口はたいてはけ口を求めたくもなる。しかし折角の海外赴任地。現地の事情を知るためにも全国各地を歩いてみるのは良い。本当なら渡越前に会社がさせるべきで、これを実施していた上場企業がありました。時間の無駄を承知、ローカル食堂でサラメシを喰って、CAFEでウオッチング。市場をのぞき見して、ヘムを散策。れっきとしたマーケティングです。

・恋に溺れれば沈没する

慣れて来ると恐ろしい問題も。何時しかワリ無い仲になってしまう人もいる。仕方が無いと言えるけれど、一線を越えてしまった話はたっぷりあって、何でこんな真面目な人がとか、エッと驚く現地の娘(スタッフ)も。子供まで出来てしまってとうとう日本に乗り込んだ武勇伝もある。日本語はペラペラ、何と男の居住地の近くに来てパートの仕事。子供を保育園に通わせ乍ら認知という強硬手段。だが敵(相手の妻)も折れない。とかい言う間に、またまたHCM市へ赴任。会社が察知したのか分からないけれど、こんな噂はすぐバレバレ。でこの娘、子供とそうしたかと言えば、即時帰国。恋の炎が再燃したのか。
女の敵は女。怒らせると人形浄瑠璃のガブノごとく顔が変わってしまいます。
あくまでも現地で事業を行なった個人的体験です。話せば尽きないが、感性や感覚に思考は全く違うと心得る。勤勉で手先が器用だとか、子供の目が輝いているなど、旅行気分のお伽話などビジネスは通用しない。所詮は社会主義で見えない所に罠があると心得るべし。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生