ベトナムの労働生産性は低い

2024年4月1日(月)

ベトナムの時間当たりの労働生産性は、10年以上に渡り高い経済成長を記録して来たけれど、それにも拘わらずアジアでカンボジアに注ぐ最も低い水準にあるという実態が報告されたとの現地報がある。
これはアジア生産機構の最新報告書に拠るものだとしているが、2020年のベトナム人平均労働者は1時間当たり6,4ドル相当の製品を生産したけれど、これはフィリッピンの9,7ドル、インドネシア12ドルに比べてかなり劣っているとする。
しかし希望が無い訳では無く、2010年から2020年までの10年間では成長率の伸びが64%となっていて、この地域での伸びとしては最も高いとしています。もちろん2010年の数字が余りにも低かったという事実に変わりはないのだが、これから先の動きに注視する必要があります。
記事にベトナムはまた2014年から2018年に掛けて、企業の工場全体の生産性は僅かに2%しか伸びなかったともあり、2015年~2019年の間でベトナムのGDP成長率に占める工場の全体のその割合は、1,5%に留まったともあります。残念だがこうした現地事情を知らないで進出を決める日本企業はかなり多く、操業してからこうした事実にぶち当たるのが実態です。

ベトナムは1990年~2021年の間、年平均成長率が5,3%であり、これは中国を除くアジアのどの国よりも高く、過去30年間でみると最も経済成長を成し得た国のひとつであるが、この成長を維持するためには生産性の伸びを高める必要があると世界銀行も認めるところ。
これまで筆者が述べてきたのは、経済成長をけん引してきたのは海外直接投資であり、その実情は輸出の内容を見れば一目瞭然で、海外企業の輸出高は裕に73%を超えており、しかも輸出品目にしてもベトナム地場企業のそれは一次産品や繊維製品、靴などが多いという新興国に在りがちな問題は解消されていません。要するに地場企業は国の経済拡大に大きな影響力があるかと言えば、殆どないと言わざるを得ません。
では何故か。これは元々海外の先進国を見習って先進工業国に成るとの目標を立てたものの、工業製品に必要な部品が製造できない。即ち裾野産業の育成が出来なかった事と、現在に至っても精密部品や機械は輸入しなければならない。加工技術に劣っているし研究開発力も低いままでしかありません。
さらに国内で原材料の調達ができないため、多くは中国など海外からの輸入。ごく最近レアアースは中国に次ぐ埋蔵量を確認したとの報道があったけれど、これを生み出すだけの技術力があるのか未知数です。
記事はまた過去10年間で国内民間企業の数は急激に増加したが、外資系企業に比べ小規模で効率が悪い。革新性に欠けるなどグローバルバリューチェーンに上手く統合されないとしている。事実地場産業の多くは小売業や飲食・観光業で小規模で生産性は低いとされ、中小零細企業が占める。これ等は国内市場での単純な生産活動であり、輸出に貢献しているものではありません。
このため従業員一人あたりの付加価値は低く、国内で活動する外資系企業の5分の1とも云われ、資本利益率も低いとされます。
これもコロナ禍で、外国企業が中国から撤退し、これを好機としてベトナムへの移転が叫ばれたけれど、今はその勢いが感じられず、一部の企業がシフトしてきただけ。地場の経済メディアも国内事情を考えると思うほど整備されていないなどの問題をあげ、疑問符を出していたほどです。
こういう現地事情をあまり考えず、日本企業は充分な調査を行わず進出を加速。或いは地方自治体の首長のベトナム詣が始まったのは何とする。

この様な事情から、世界銀行はスタートアップとイノベーションを通じて生産性を向上させ、高度なスキルを持つ人材を創出することが重要なポイントとしています。またキャリア教育の欠陥と市場の需要とのギャップが大きいこと、これが企業の業績不振であり、さらに一億人の人口に達したけれど若年労働者が減少、高齢化社会は間もなく訪れるという重大な問題も出てきました。
これに対しベトナムもIT関連企業と人材育成に力を入れ始めているが、思うように状況は好転していない。今後産業構造の変革がどの様になされるのか注目される所だが、時間が掛かります。

また別の記事には、同じ様にベトナムの生産性は依然として低く、地域の同業他社には及ばないとしている。
この原因は時代遅れのテクノロジーと低能力労働力を断じ、ベトナムの生産性はその格差が拡大していると厳しく報じているほどです。
これは統計総局の報告に拠るものとされ、2018年のベトナムの労働生産性は労働者一人当たり1億220万VND(4520ドル相当)で、前年比では6%増加した。しかしながらこの増加にもかかわらず、東南アジア近隣諸国に遅れをとっており、むしろ格差が増大していると総局長が述べたとある。
統計総局は2011年の恒常価格での購買力平価(PPP)に基づき2018年の労働生産性を11,142ドルとしたが、これはシンガポールの7,3%、マレーシア19%、タイ44,8%、インドネシア44,8%、フィリッピンの55,9%と推定した。またベトナムより低かったのはカンボジアで6,963ドルと僅差であったのです。
総局長は、ベトナム経済のこれからは、近隣諸国の労働性に追いつくため大きな課題に直面すると述べている。
この足枷となるのが2015年に転換期を迎えるという、世界で最も高齢化が進んでいる国のひとつになるということで、労働傷病兵社会省は65歳以上の人口が2023年の630万人から、2040年には1800万人に急増し、18%を占めるという。こうなると若いベトナムから変化する。
こうした人口動態の変化という現象から、技能訓練、教育と技術移転の改善、年金や皆保険計画など包括的な社会保障を通じて人的資本の最適化が求められるとしている。教育の質的変換はかなり重要だが高等教育でもベースが極めて弱く、日本などの支援が無ければできないのです。
フック首相は、ベトナムがグローバル統合で野競争の激化に直面しているため、低コストの労働力に頼ることは出来ないとし、企業は高度な技術を利用、これをリードする熟練労働者(職人)に魅力的な賃金や福利厚生を講じなければならないとしている。だが専門家は低技能労働者が今後AIにとって代わられるほど、技術の進歩は速いと警告したという。

政府はまた2030年には地域の上位3か国に入る事を目標にして、国家計画を立て、平均労働生産性を年率で6,5%以上とした。この内訳は製造・加工業6,5~7%、農林水産とサービス業で7~7,5%。また都市部であるHCM、ハノイ、ダナン、ハイフォン、カントーなどの主要経済地域での伸び率を高く設定、この目的達成のため試験的に成長プログラムを選択。そして成功モデルを爾後に各都市で実施する予定だとあるので、失敗は許されないのです。
政府は国家生産性委員会なるものを設立し、当局や地方自治体は労働生産性が低くなる原因を特定して解決する。そしてこの障壁を企業、投資家、労働者と定期的にコミュニケーションをとって解消する。研究の発展、科学技術の応用、イノベーションとデジタルトランスフォーメーション、国際レベルでの貿易、観光、金融など促進。産業の競争力向上を積極的に図るとある。
このプログラムは労働生産性を急速にかつ持続的に成長の重要な原動力とし、第4次産業革命の機会を効果的に活用することを目的に、国は人的資源、科学技術、イノベーションを発展させながら、市場経済に於ける質を向上させるとしています。
社会主義国家の実現のため、資本主義はその過程にあるという論理をベトナム共産党は過去に主張していたはずなのでは?と記憶するけれど、こうした変革をするということは、即ちもはやそれを捨てた?と思わざるを得ないくらいの国家目標の立案。グローバル化とか、改革、競争に金融市場等々、市場経済の強化にまい進するというけれど、余りにも盛沢山な課題に勝算はあるのか。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生