・ベトナムの経済成長予測
IMFの予想では今年の成長予測は国内外の経済成長に左右されるが、6,5%、インフレ率は4%になると昨年11月に発表されています。
またADB(アジア開発銀行)は11月15日にGDPが来年度は6,3%増まで回復するであろうとの見込み。またインフレ率に関しては3,5%と推測しています。
これらの理由は、ベトナムがCOVID-19を上手く制御している現状と、国内外での需要減が続く中でもマクロ経済は比較的安定。経済環境の改善などによって次第に回復しており、一定の成長が維持されると見做しているためです。
この背景を考えるに、今回のパンデミックが影響するベトナムへの波及効果、即ち生産拠点の移転が急加速する見解が垣間みえます。
またベトナム政府が積極的に進めている自由貿易協定の締結に拠る成長路線が今後も継続するとの高い評価が背景にあるとも考えられます。
しかし、世界各国が置かれているこの先の収束如何と、経済回復度合いが懸念材料として残ります。また最大の貿易黒字国であるアメリカのベトナム通貨に対する為替操作疑念が払拭できるかどうか課題です。
・貿易収支と外国企業の事業拡大に関連して
昨年11月までの貿易収支は世界的に拡がるマイナス情勢にも拘わらず輸出が2550億ドル(5,5%増)、輸入は2349億ドル(1,7%増)で、201億ドルの黒字となっており徐々に回復傾向にあると考えられる。
また計画投資省に拠ると外国企業による投資は11月までで総額264億ドル(認可額)。これは前年比17%減ですが、他のアジア諸国に比べて健闘していることが伺え、今後もこの状況が続く可能性は高いがこれまで以上に投資環境の改善と整備が重要課題となります。(何れも速報値)
昨年11月に外資系銀行が行った動向調査に拠ると、進出外資系企業の38%は今後も事業拡大を計画していると回答していることから、成果をあげていると思えます。この理由はこれまでに言い尽くされた感があるが、貿易に関して6,6億人の市場を持つASEAN諸国との地理的利便性が優れている。政治的に安定している。経済発展が続き人口も増加している。そして所得が向上し市民生活も豊かになりつつある社会環境の中でより良い製品が売れる。また消費の拡大と進化、全国的にも普及が見込まれ市場への参入機会が大きいなどが挙げられています。
加えてCOVID-19で判明。中国一極集中の傾向があるサプライチェーンの移動で、取り分けベトナムはこの恩恵に与る可能性が最も高いとされています。
だが現地での人材供給面、特に中間管理職や技術者の不足、労働生産性の低さ。進出企業への素材に原材料や精密部品の現地企業からの供給難に触れられていないのは、それ以上の期待感があるからなのか。または輸出品目の構造変化とサービス産業が急速に発展進化。もの作りより大きな比重を占めるに至る現在、1億人に達する市場が魅力なのでしょうか。
実際に日本企業の進出傾向は、大手不動産企業の大規模開発案件が目立つし、小売業、飲食業や金融等々の比率が高くなっています。
・ベトナムが進める経済連携協定と投資改善への取り組み
政府が殊更積極的に進めているのが、他国・他地域との経済連携協定締結で、これも投資好材料。昨年8月にEUとの自由貿易協定(EVFTA)、環太平洋パートナーシップに関する先進的かつ包括的協定(TPP)も新既事業機会に繋がり、進出企業にとって大きなメリットがあるとしています。
政府は外資系企業に一層の投資を期待しており、新たなFDIを継続的、かつ確実に呼び込むため人材育成、インフラや物流、ハイテク工業団地などを整備し投資しやすい環境作りを行う。また高品質部品の供給を行うため自国企業の経営レベル、技術向上、また未熟な部分が多い労働者の質的向上を加速度的に行う必要があると認識。改善に向けた取り組みを始めています。
一例はフック首相が来日時に覚書を結び、JICAを通じて導入された日本式の5年制高等専門学校制度。3校で試験的に開始。これは高度な知識を持った技術系の人材を効果的に育成。企業ニーズに合った即戦力として労働生産性を上げるため、新しいモデルとしてベトナムでの普及を目指すもの。将来的には労働集約である組み立て産業からの脱却にあると思料する。
・投資方針の変換
何でも良いから投資を歓迎する進出形態は容認せず基準を見直す。先端技術を持ち、品質が認められるとか、ハイテク産業や環境保護などのプロジェクト。
近代的ガバナンスがある企業。高付加価値が創出できる高い技術を持つ専門家が居る企業。先進的なR&Dが可能な企業。こうした選別を講じることで未だ確立できない裾野産業を発展させ、製品の優位性や競争力を高めてベトナムの世界的地位を確実に上げることを希求。しかも一挙に飛躍とはいささか欲張り過ぎて、実態は余りにも落差があるとの証明。これでは何時まで経っても付け焼刃。自国企業が自助努力での開発と成長は望めず、全ては海外技術の借り物。外資企業の造った製品と数字でしかない。もしかして現場を知らない?
多面的方向から視て理性的な判断をするべきです。
昨年話題になった初の国産車が好例。ガソリン車一台造るのに必要とする3万点に及ぶ部品は海外調達。いわんや設計からデザイン、或いは製造工程の管理まで自国で出来ないとなれば組み立て産業が大きくなっただけの話。
投資内容の精査など求め過ぎでこなせる筈がない。目標を高く置くのは良いとしても現状を認識し地に足が付いた長期的政策、成長戦略が根本的に必要かつ慎重な識見が望まれます。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生