ベトナムすそ野産業の実態 現地報から

2021年7月1日(木)

COVID-19禍でもベトナムの経済は他の近隣アジア諸国より比較的安定していた、と多くのメディアが好意的に発信。今年は6,7%の経済成長だとされていて、日本企業の進出意欲が高く、既に進出した現地法人も事業拡張のため追加投資をする程に魅力を感じています。
この背景には世界的サプライチェーンのベトナムへのシフトが注目され、またベトナムが積極的に進めている各国・地域との自由貿易協定に拠る貿易額急増、並びにこれに伴う発展という追い風があると考えられています。
ところが現地発のニュースでは、ベトナムが工業発展をするための根幹というべき裾野産業の前に障壁があり、大きなチャンスと新たな市場開拓が行える筈ではあるが、果たして活かせることが出来るのかというものです。

まず日本では第4波が来て、急激に罹患者と重症者に死亡者が増えているが、ワクチン接種が世界的に遅れている。こんな中で世論はオリンピックどころでは無く大半は中止か延期が妥当との意見が大半。今に始まったことではないが、金権体質にどっぷり塗れたIOCは何としても開催したいし、後ずさりできない日本政府はあれこれ理由を付けてまでやりたい。
日本はワクチンを確保できるのでまだ良い。だがベトナムは安心していた所へ変異株で感染者が増えるもワクチンの手配に遅れを取り、年内に1億1千万回をファイザー社などで確保したとするが、購入へ寄付を募るほどという報道も。
即ち報じられていたのはタイミングが悪く経済を停滞させ、貿易の停滞と資金供給量の不足に繋がって挑戦が阻止される現実に直面しているとあります。

こういう事態に商工省は、ベトナムの製造業で部品などを造る裾野産業の割合は4,5%だが、このところ生産能力が上って来たと発表。しかし98%もの会社が零細に属すため、資本力や技術力に乏しいというのが実態です。
今回のCOVID-19禍で売り上げは減少、資金繰りのため銀行へ融資を依頼しても条件が厳しく手続きが煩雑なので苦労していると言われ、また政府の優遇税制や優先融資も受けられないという深刻な実情があるのです。
ベトナムに進出しているサムスンや日本企業など世界的に有名なメーカーからの受注はほぼないという具合だが、こうした所から受注が無いという事は製品への信頼度が無いとされ、融資が期待されることもないと述べます。
金融機関がおよそ自国の企業に対して実行しないというのは、信用していないのか、支援や保護しようという発想が無いのか、これは他国と比較してあり得ないことだと問題を提起されています。

・圧倒的な技術力の差は解消できない

ホンダが現地でバイクを生産する様になって、ようやく20年を超えました。
毎年HCM市で開催される機械・部品展示会で感じるのは、国内企業の製品が徐々に良くなってきている。こうして国内の部品調達率を上げれば優遇税制の適用がありメーカーにとってもコスト面で歓迎すべきです。
しかし地場企業が優位に立ったということではありません。進出している日系企業に精密部品等を造って納入している所もある。工業団地内は保税区になっており、この企業の輸出品はMADE IN VIETNAMとなっているがれっきとした日本企業が造った製品だと知るから信用する。国内販売する電気製品にしてもかつてワザと日本語で表記した部品があったほど信頼度は違います。
部品数が圧倒的に高い、さらに電子部品が多い国産車を造れるようになった、と思うのも大間違い。基幹となるものまで造れるには至っていないし、まして独自技術を開発したとか、零細ながらも世界的オンリー品を造れる地場企業はありません。
留学して卒業後そのまま在住して企業に在籍。実績を積み、進出企業から指導を受けて高品質部品を造れる位になった企業もあるが、これらとは格差は拡大する一方。こんな実態を多くみてきたが、多くは改善されていません。

・法整備でバックアップを要求

市場に詳しくない中小零細の裾野関連企業は、政府に対し情報の開示と融資などの優遇政策を求めている。さらに進出した外資系企業に対して、国内で製造する製品には彼らの部品を発注する様に奨励し、国内企業の比率を高めることを求めています。
これは些か甘えた考えで、外資企業が要求する品質や精度、素材の調達も然り、コストに安定した納品ができるなどクリアしなければならない問題は多い筈。自助努力なしにいきなり使えとは何とも情けないことだが、ある種ベトナム人の平均値です。
精密部品そのものが、設計にしろ、素材にしろ、秘中の秘。汎用品ではなく、おいそれと開示できるものでは無いのは常識。こういうことを平気で提案するから信頼を無くすのです。
まして進出企業にはベトナム企業に対して技術移転やノウハウの開示を求めるとする動きも出てきたとの報道もあったが、これなど政府筋からして出すべきではありません。如何に国全体で技術が無いと宣伝しているのだから始末に負えない。

政府は首相令を公布。決定的に遅れている裾野産業を支援し製造加工業を前進させ、2025年を目標にローカル企業が競争力のある製品を生産できる様に方向性を定めました。そうなれば国内で生産する製品の45%が達成できるとしているのです。さらに製造業の30%にあたる約1000社が、国内に存する内外企業へ部品を供給できるだけの技術を向上できると皮算用をしています。
こうした計画が実行され軌道に乗れば、2030年には国内で必要な部品需要70%がベトナムの裾野産業の工場で造ることが可能だと主張し、製造企業も2000社に成長、工業生産額の14%に相当すると絵を描いていますが如何。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生