ベトナム EC活発化と進化し始めた小売業④

2021年9月16日(木)

・気になる地場小売業

ベトナムには近代的小売業とされる店舗は約8500あり、昨年末の時点でスーパーマーケット453、ミニマート5566、その他はコンビニエンスストア、ドラッグストアなどとなっているとされます。
主に50歳以上が主来店客とされ、このためオールマイティーでなく顧客層を絞ったターゲットへ戦略的で専門に特化した店舗が必要です。
所得の向上に並行して競争が激化している中、経営力を維持するため他社とどの様に差別化してゆくか。各業態に於いて無駄な競合を避け、自社の強みを発揮し、機会損失が起きないようにするマネジメントもそのひとつ。
サービスの方法や商品構成も年代層や所得や地域ニーズなどに拠って異なるため、細かく分析し変革してゆかなければ対応できなくなります。
また国内小売市場全体からみると、家計支出は年平均で約10%伸びていて、これに並行して小売売上高も10%前後成長。実際20010年から9年間で一人当たりの小売売上高と消費者サービス収入を比較すると、1930万VNDから5130万VNDに増加。これは実にGDPの8%を占めています。
ところが人口が多い若年世代の購買比率が高いのが現状。また時代の要請でEコマースが急成長。電子決済に支えられ、この所年平均27%伸びているため無視できなくなっています。
昨年のインターネット利用者は6817万人とされ、人口の70%が使っており、モバイル機器は1億4500万台が接続され増加する一方とされます。これがオンライン・ショッピングの成長を促進する大きな要因で、この波に乗ることができなければ事業を撤退するしかありません。
実際Auchan、Parkson、Shop&Goなどが消滅。一歩間違えばブランドがあっても拡大するビジネス機会を無くし、顧客も無くすという熾烈さが目に見えている。経営者はいち早く時流を掴み、一歩先んじた戦略を投じるべきです。
また小売市業の弱点は、一部の地方・地域で店舗は限られていて弱いうえ、時代遅れになっているとされます。ショッピングモールなどの大型商業施設、スーパーやコンビニや専門店など、商業インフラが充足して近代化。時代遅れとは伝統的小売り形態を指すのかもしれないが、時代の流れを強調するあまり、これが旧態だと決めつけるのは穿った見方でもあると考えます。

・注目の国内小売企業 2021年シェア拡大を目指す

今年小売売上は二桁成長が期待され、戦略として年初から全国出店を急ぐ各社。
老舗Saigon Co.opは1992年、HCM市1区に初の店舗を開店しましたが、日本の法律に基づいた生活協同組合形式ではない単なる量販型スーパー。
今年2月に7区で高級マーケットFinelifeをオープン。この新業態での出店は4店目となるが、1700アイテムに及ぶ生鮮食品、総菜、化粧品など国内・海外輸入のオーガニック商品を揃えており、ベトナム初のセルフレジを採用。ネーミングもUrban Hillとされ、7区の外国人や富裕層をターゲットに狙って進化しています。                            また地方戦略ではメコン3省と北部1省でCo.op Foodの新店舗を1月に開店。遠隔地でも開拓を進めるとともに大型店にシフト。2025年までに2000店舗のネットワークを構築し投資効率を改善する計画だと意欲満々。

もう一つ話題。小売り大手MWG(モバイル・ワールド投資会社)で、此処は急成長した携帯電話販売会社The Gioi Di Dong。2021年末までに全国で1000店舗を展開。22年には1200店舗を計画。その売り上げ目標を15兆VNDに設定している。携帯電話を近所の店で購入したが安くて販促が上手という印象で、店員も皆若くて活気がありました。
系列の家電販売のĐiện Máy Xanhは参入7年で全国63店舗まで拡大、現在のシェア38%を22年には60%にすること。また食品小売りミニスーパーであるBach Hoa Xanhは現在200㎡を標準店舗と設定。
昨年は1719店舗まで増加し、グループ売り上げの約20%にまで成長。今年中に500店の出店を計画。また新業態のDMX Superminiを本年中には全国展開してグレードアップを目指しています。
私は次々に新企画を立ち上げ成長しているこのグループをベトナムの商業流通企業として最も注目しているが、波に乗っている間は良いが競争でユーザーの食い合いの結果、息切れしない様に望みます。

・その他の動き

Vin Commerceを買収したマサングループ。お荷物だった不採算店整理を行い、生鮮食品、消費財、金融サービスへと業態転換を計画。吉と出るか凶になるか、食品製造企業が小売り事業を運営できるか見ものだが、韓国SKに16,28%の株を売却は何の目論見。
ベトナムに資本を大量注入しているタイのセントラルグループは、向こう5年間に日本円で1230億円を追加投資すると発表。スーパーBigCを名称変更しGO!ブランドへ。現在大型店37とミニスーパー230店舗。新たに計5店舗を出店し、ECサイト開設などを行う予定だが、タイ国最大の流通企業の行方は?
日本のAEON等の大型モール店舗展開、高級に属する高島屋、ファミリーマートなど海外企業の今後の去就にも注目。今後どのような方向を目指すのか。
・目まぐるしい変化の中 一向に変わらない問題も急速に変化するベトナム商業流通。かつて外資企業の独走が此処にきて地場企業の奮闘が見られます。
急拡大するが地場企業に歴史や豊富な事業経験は少なく、経営能力とか戦略、ノウハウがどこまで通用するのか。さらに資本力、従業員の意識や教育レベルが消費者行動や思考の変化、社会の進化に付いていけるか。
店舗拡大が売り上げ増手段に変わりがない実態が見受けられ、これでは多店舗展開ゆえに商品に面白みがなく、集客できず、収益力が伴わずに赤字が続いたVin Commerceの轍を踏むことになる。
急加速している間は店舗開発だけにまっしぐら。周りの景色など見えません。

世界のPB商品の平均収益は16,5%で、40%に達する国・地域もあるが、此処は開発力が弱く優位性が各社になくその比率も低い。
消費者は安全志向、オーガニック製品など高くても品質を優先する傾向が高まっている。だが消費者志向とか、ニーズやウオンツを精査するマーケティングでさえ遅れをとる。証明の一がこのPB商品の開発。また商品に対する安全性の重視。検査体制は弱く、厳しいチェックがあると聞かない。
だが一歩一歩前進している事に間違いなく、この先どのように成長するか期待を持って観てゆきたいと考えます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生