鳴り物入りで自動車のEV化を発表。完成どころか試作車もお披露目していないのに早くも販売を開始。海外に進出するとはどういう思惑なのか。特別安くはなく、何らかの特殊装備が付くと言うわけでもなさそう。
このためアメリカでVW車を販売してきた人物を現地社長に引き抜き、これまでの誼を傘に市場に打って出ると考えたのがビン・ファスト社。
要は部品を寄せ集めて組み立てた車を自ら市場開拓せず、スカウトで何時ものお得意オマカセ定食で販売だが、あっちの水は甘くない。韓国企業の様に外国人の採用は、技術を貰えばお払い箱という算段か。
米韓で火災が続くLG社製バッテリー。JVで工場建設中のGM社からリコールと巨額損害賠償請求。製造は高度な特許技術が要る。また内燃機関の自社製造は中国企業でもお手上げの状態なのだが、ビン社はこれからEV車だと宗旨替え。8月に電池とAIを製造する子会社2社を設立と発表したが、基礎がなく技術的に容易ではない。創業者でオーナーのブン氏は余程の自信家か、はては特殊な経営能力を持った人か分からないにしろ、国産車?を出してから2年ほどの間で恐れを知らずに挑戦できるのはゼロスタートの強みか。利益が出ていればの話だが未だに大幅な赤字を出している車部門。幾ら大金持ちの先行投資でも限度があると思うのは、大きなお世話かも。
現地報道ではビン社の初代電気自動車販売が、発売わずか12時間で4千台に達したとされ、ベトナム製電気自動車の可能性を示したと強気の記事を掲載。企業自体に歴史や知名度が無く、ブランド力も海外実績もない。米国の厳しい審査をクリアして物好きの目に留まるものでしょうか。
確かにガソリンエンジン車の世代交代が、各国・各地域で生産や廃止期限を決めるまでになっていて、この潮流に乗り遅れるなら企業の存続に係わってくる。
現在ベトナムで自動車の主流はガソリンエンジン車。年間販売台数はようやく約20万台に膨れたが、このうち電気自動車は2千台未満でハイブリッド車。
商工省はベトナムでの電気自動車の将来性は今後10年間低いと分析したが、これはバッテリーの信頼度が低く価格も高い。電気を充電するステーションが無いなどを挙げている。政府でさえこんな具合の及び腰では。
自動車開発競争は激しく、この先10年で競争が激化すると専門家は見ている。自動車各社はガソリン車廃止後にフォーカス。水素エンジンの開発も加速させていてEVとの勝負が見ものです。
記事はこうした状況を先取りする事で、ベトナムは世界の主要市場に追いつくことが可能となる。だがこの機会を掴むためには政府の支援が必要とし、各国の自動車メーカーが安心してベトナムに投資・生産できるよう、その支援策を講じなければならないとしています。
ところが政府の作成した電気自動車開発戦略への基本計画とは、2014年のまだ電気自動車が世になかった頃のもので、近年の急発展に追いつけていない。
新しく具体的な政策が求められるとし、どうやらこのことが、開発が遅れているという噂に繋がったのではなかろうか、と考えます。
だがこのインセンティブ政策とは、自国での開発というより部品生産と組み立て産業の誘致が念頭にある。という事は、ベトナムは技術と人の集積が無いため政府の優遇策と消費者の購入への支援策を図ることが、一番の産業活性化の要因となる。と考えられますが、要は外国企業の投資を得るという従来の思考から一歩も抜け出せていない。ここにビン社とのズレを少々感じます。
別の記事にはベトナムの自動車部品メーカーが国内の自動車需要の拡大により、生産を強化していると書いている。しかし年20万台というわずかな販売台数。
部品メーカーも外資系企業の進出が実際に多数あり、こうした企業は世界各国の有名自動車メーカーへその仕様に基づいて製造・輸出しているのが実態です。
地場部品メーカーと言えばこれまで小型部品や予備パーツが殆んど。だが今は電線、プラスチック成型品、ゴム製品、タイヤ・チューブも製造できるまでに成長したと強気の姿勢。バイク用タイヤ・チューブを生産しているCasumina社の製品に何度もお世話になったが、自社ブランドで車用タイヤとライトの製造を始めたとある。これはアメリカ市場を睨んでだが、各国のタイヤメーカーは既にベトナムに進出している。ホンダ、トヨタなどに納品しているメーカーも、プラスチック製品の注文が増え市場の4割を占めるに至ったとあるが、まだ始まったばかり。バイク部品製造技術を応用、自動車向けに転換しただけの事。だが新しい動きが。地場部品企業が自動車産業専用工業団地に工場を建設する計画があって此処に入居。将来的に世界の自動車部品産業の一役を担う可能性が出てきました。
だが素材と原材料の海外依存体質。常に問題になるのがこれに拠るコスト高。
事実ある知り合いの日本企業は早くから進出し、日本製のアクリル板を使ってサンバイザーなどを加工製造、世界各国へ輸出。地場では特殊な付加価値部品を造れないまま汎用部品が大半、R&Dに金をかけなければ改善されない。
こうした原材料は製品の80~90%以上を輸入に頼っているため、販売価格は他国の完成車より10~20%アップすると言います。これはこれまで人件費の安さなどで吸収できたがもう限界。2025年までにベトナムの自動車需要は100万台に達すると予測されるが、下請け体質と小規模生産から脱皮しなければ遅れをとるだけ。下手すれば国内自動車(部品)製造はタイを始め近隣国にとられる可能性もあるとの厳しい指摘がある。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生