COVID-19感染拡大 でも先行き経済の見通しは明るい?②

2021年11月26日(金)

この理由に関し、堅調な経済成長、国内市場の大きさ、人件費の安さに豊富な労働力、さらに立地の良さと多くの国・地域との自由貿易協定の締結をあげ、これらの要因が原動力になっているとしています。
この様な条件は既に何年も前から言い尽くされたこと。特に目新しい材料は無いが、それでも未だ恰好の魔法の謳い文句として生きており、依然として投資や進出先として外資系企業には有効で、魅力的な国として捉えられるのです。

しかし、すでに労働者の平均年齢は31歳を超え、人口ボーナスのメリットは低くなり、進出するうえでの諸経費は軒並み上昇し、不動産価格や賃金の高騰も年々酷くなる一方。おまけに不透明な税制に法律や現場では訳の分からない行政などの対応。社会やビジネスにおいて国際レベルに追いつけていないなど、政府が真剣になって解決すべき問題はなおも山積している実態を知らない。
それでも早くから進出している香港上海銀行は、COVID-19禍にあっても回復をみせている状況から類推、ベトナムの将来は輝かしい、とべた褒め。
アジア開発銀行にしてもベトナムの今年の経済成長率を6,7%とASEAN諸国の中でも断トツと予想しているし、世界銀行も6,6%増を見込んでいます。

だが、急速な感染者拡大という伏兵がどの様な影響を及ぼすのか不詳。経済の停滞で打撃を受ける国内企業の事業活動が再開されるまでに相当時間が掛り、サービス産業にしても壊滅的状況で、沈殿要因に拍車をかける脆さがあります。先の事は予測できないが、成長の持続は危うい。最も懸念されるのがワクチン接種の遅れ。政府はどの様な秘策を講じて乗り切るつもりなのか。

・格付け機関は何処も高プラス成長を予想するが

さらに世界の主要格付け会社は、ベトナム経済の今後の見通しをかなり楽観的に見込んでいます。アメリカS&P・グローバルトレーディング社はベトナムの国家信用格付けを安定的からポジティブに引き上げ、今年下半期から翌年にかけてCOVID-19発生前の水準に戻るとの考えを示していました。

ムーディーズ、フレッチ・レイティングスも同様、ベトナムは唯一3社が格付けを引き上げたと国としている程、経済成長が続くとの認識に立っています。
特にS&P社はベトナムの経済成長率を高評価。5月に見直したものの8,5%と高い数値。今回の第4波でどう見直すかだが、いささか肩入れし過ぎの嫌いを感じます。同様にスタンダード銀行も4,7%だが、来年は7,3%になるとの予想。これ等は長期的発展に向けて国民の教育水準が高まり競争力が身に付いたとの見方をしており、設定目標から大きく外れないとしているが疑問です。
ここ10年で義務教育や高校進学率は大きく改善されている。だが世界の調査機関に依ると、大学などの高等専門教育や研究力は高い評価を受けていません。

フレッチ社にしてはCOVID-19にも拘わらず先行きは明るいとし、来年は7%台に回復。輸出の増加と消費に拠る国内経済の正常化を理由に挙げていたほど。
だが統計数字を基に評価を下すだけや、ローカル現場の真の実態を見ていないのであれば、外資企業に依存し過ぎで、未だ労働集約的であり組み立て産業の域から脱することが出来ない体制が今後どう変化するのか、独自のR&Dなどが余り期待できない実態を判断できていないのでは、という印象は拭えません。

何れもが感染を上手にコントロール出来、これに拠ってベトナムは世界からの貿易増加の恩恵と外国からの投資を享受。さらに部品供給網の中国からシフトに最適である国だとの評価を得たとする一般論から一歩も出ていません。
将来的に魅力的な投資国との評価が大筋で変わりはないとしても、進出企業等が現地の経験未熟さ故に日々生じる問題の苦渋を嫌ほど味わった者からすると、捉え方の緩さを感じるのは穿った見方でしょうか。

・裾野産業の現況は

ベトナムは世界各国・地域と自由貿易協定の締結を積極的に進め、これを以って国内の工業を発展させ、かねてより世界の先進工業国入りのチャンスを得て、新市場開拓が出来るはずであった。ところが奇しくもCOVID-19により世界主要国に蔓延してその事業機会は外され国内経済が冷え込んで成長は1%台。これがきっかけで企業の資金不足等が露呈。期待されている世界のサプライチェーンの元締めにと各国からの希望的要請も一旦停止状態になっているのが実情。

だがよもやという感染者急増の展開で明確になってきた問題も見据えなければならないし、海外は無責任にもて囃さずもの作り現場の姿を知るべきです。
即ち産業基盤が十分に整っているとは決して言えず、資本、技術、製造能力の前に立ちはだかる世界の壁の高さと厚さ。そこへ今年は貿易赤字が続き、地域経済は落ち込み、内需でさえ厳しくなってきている現状を打破できるのか。

ベトナムの製造加工業を支え約4,5%を占めるとされる裾野産業。筆者の知っている範囲でも、在越日系企業や海外に部品や金型を輸出している優良企業は確かにある。何度も日本企業の視察で案内したが経営者は海外で留学や就業。知識も豊富だし日本語や英語で説明ができる。このため海外企業の基準が理解できており金型や製品を見てこれなら申し分ないと高評価も頂いている。
ひとえに彼らの努力と、問題や疑問があれば素直に教示を求める姿勢をみます。

この様に秀でた企業は実際に存在し、評判が他社の注文を呼び込んでいて盛況。またここ数年でこうした企業を含んだ地場企業の製品がかなり良くなってきている事実もあるが、この傾向はHCM市7区で開催されたSECC(サイゴン国際展示場)の機械部品展でこれまでの経過を観れば分ります。この底上げは海外企業の進出に拠る結果で、地場産業が門前の小僧効果と言えなくない。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生