急速に変貌するベトナムの小売市場と地下経済②

2019年7月4日(木)

特筆すべきは地下経済と言われる路上(露店)で販売する個人業者の存在です。HCM市中心部から僅か数キロしか離れていない地域でも、路上店や天秤棒のザルを置いたおばちゃんの所は買い物客で早朝から賑わっています。客の殆どは近所の人たちで主食の米、魚に肉類、野菜・果物や、豆腐・アゲ、チャー・カー(魚のすり身の揚げ物)などの総菜、また日用雑貨や衣類などもこうした個人の店で調達しているのが日常ありふれた庶民の買い出し風景です。
客は馴染みの店で買い、他愛のない世間話を挨拶代りにしており、日本の市場や商店で繰り広げられる光景と全く一緒。気心が知れると海外での生活は結構楽しいものですが、殆ど方が苦手なまま帰国するのでは何とも勿体ない話。
冷蔵設備のない路上店はその日の朝に仕入れた食品を売るので新鮮。夕方までにほぼ売り切れますが、これは年中暑い気候のため持越しをすると臭いが出るとか腐ったりする必然的な理由でもあるのです。
少量でも買えるのが嬉しい。スーパーなどと違って袋入りでなく、卵一個からネギをひと掴み、キャベツを半分とか好きな量に切ってくれ、肉100グラムをその場でミンチにしてくれるし、香菜をおまけに入れてくれるので得した気分になるが何よりも便利で楽しいのです。
多くの家庭では朝食を作らないため、仕事に行く途中でおこわやバインミーとコーヒーかその場で絞ってくれるジュースなどを買ってデスクでとか、麺類を道端で食べるのが一般的。この様な店では夜が明け切らない内から作りたての食事を提供していて店主は女性が多い。材料が無くなり次第閉店です。
この路上店、実に結構な利益があります。私の友人の奥様の場合、コーヒー等を道端で売っていて早朝から夜まで一日の水揚は300万VND位になります。原価はと言えば20%程。利益額は240万VND(約22000円)なので、ひと月の実収入は7000万VND(約35万円)にもなります。HCM市の平均月収を超えている。キレイな服を着る必要はない、客に取り立てて遠慮も愛想も要らないし、場所代要らず。特別な材料を使っていないのに儲けは大きいためやめられないのが魅力。大企業に勤務する大学卒で語学堪能な優秀な人より多いのが実態。髪結いの亭主ならぬ露店オーナーの亭主です。
この様な地下経済の規模はGDPの25~30%に達していると言いますから、参入すれば商業統計の数字に大きな変動がある筈です。ところが税務当局にとってこうした路上店での売り上げ実態は把握できず、目こぼしの形。税金をとれないというのが最大の悩みの種。
政府の発表ではこうした露天商など、公にされていない非公式な経済や違法な取引実態を調査する計画案を承認。これをGDPに加え地下経済への管理体制と課税制度を策定するとしていますが、何としてでも税金を召し上げたいのが本音。納税の公平原則はあっても、売り手も買い手も反対するでしょうし正確な数字の把握など出来ません。
日本なら税務申告をきちんとしないと摘発されるが、此処は白色も青色もない。店を持っていれば税務署へ行き目の子で税金を課される羽目になり、現場調査は不透明でかなりの労力を要し、まともな対応ではやり切れないのが実態。
レッドインボイス方式の在り方や、毎月の申告方法を変え公平を喫さないと、只でさえ無駄で煩雑過ぎる税務処理に対応しきれないのです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生