消えてゆくもの

2019年10月4日(金)

経済成長が続き、ここ数年の間に街がすっかり変貌しているベトナム。今年のGDPも6%を超えると予想。アジアで最もヴィヴィッドといえます。
東アジアは鉄砲が作られた先進工業区で一帯は火薬の原料である硝石を産出。それを承知していた徳川家康は1600年、「鉄砲と香が欲しい」という書簡をグエン氏に送った史実があると読みました。
基礎体力が弱いのは統計を見ても明らか。発展に伴って露呈する諸問題は多く、産業構造も変化していますが、混沌にこそチャンスがあると思えます。
だが発展と引き換えに消えていったモノがあります。

仏植民地時代のサイゴンは東洋一進歩した商業都市、港は当時最大の貿易港。時の日本政府は南洋学院を設立し、先進の世界貿易などの研鑽を行いました。
サイゴンを漢字で書けば「西貢」となりますが当て字。この名がどこから来たのか正確な事は判りませんが、仏人宣教師は18世紀に本国へ、サイゴンとは「カポックの森」という意味だと報告。これが一番信用できます。カポックの木(綿に似た植物・クッション材)というVN語が「Cay(カイ)・Gon(ゴン)」、即ち語形変化して「Sai・Gon」になったとの説が有力です。元来カンボジア領、カポックはカンボジア特産で当時この樹が街中を覆っていました。戦後最初に消えたのがこの名前。ホー・チ・ミン市に改名されました。

開口健がオーパ オーパと戦時下でも釣りをした現在の4区や7区。誰も行かない川向が今は高層ビルと高級住宅街に大変身。道幅は広く電気は地下埋設なのでスッキリ。中心部からこの辺まで来ると急に空気がヒンヤリもなくなりました。そう、マングローブがどんどん消滅しているのです。
HCM市は今や900万人の人口。未だに地方から流入は続き地価高騰。住宅は郊外へと拡大し、また高層化せざるを得ないのです。
マングローブは数多の生命が誕生し育つ小宇宙。縦横無尽に伸びた根の巣穴は魚やエビの安全で快適な寝床、土塁崩壊も防ぎます。この根を使い軽く涼しいホーおじさん愛用の人民帽が作られていました。
マングローブは水を濾過し、空気を浄化して酸素を放出する貴重な自然の恵み。村人は端材で炭を作って燃料に、実は食用と余すところはない完全エコ植物。
当地で長く生活、全土を飛び回り苗植え指導からマングローブを育成しているのが日本人の浅野哲美さん。北の端~中部、南端まで取材に同行。彼に協力する人は多く、政府の役人、大学教授、婦人同盟、国立公園レンジャー等多士済々。こういう人の活動が日本の進出を陰で支えているのです。
日本やアメリカに輸出するエビの養殖池を作るため、マングローブが潰されています。HCM市でも、ブンタウ、世界遺産の北部ハロン湾カットバ島、南部メコンデルタ等あちこちで目にします。
連日の猛暑、病気予防のために化学薬品を多用すれば数年で養殖池は使えなくなり、放ったらかしたまま。無残な姿を見せ、爆撃後のクレーターにそっくり。土がカチカチに白っぽく変わっています。海外への輸出はTomSu(ブラックタイガー)が主流、だが最近はバナエイエビに変わりつつあります。

年々街は綺麗になっています。早暁5時頃と日暮れになればオレンジ色の制服を着た職員が道路をくまなく清掃、ISUZUの塵埃収集車が活躍。狭い路地で活躍した以前の大八車に取って変わっています。昔日本でも見かけた散水車が大活躍、都塵を一瞬にして流し去りひと時の清涼感が漂います。
バスはエアコン付き大型ベンツが走り、窓を開けると車掌にドン・クア・ソー(窓を閉めてね)といって叱られます。ひと昔前まで走っていた行き先名そのままの京都や神戸市営バスはとっくに無くなりました。
自動車人気NO1はもちろんトヨタ。韓国製タクシーは姿を消し去りました。サスペンションが悪く振動するは、トルクが低くエンジンが悲鳴をあげ時折煙を吐くはで他車に乗り換えたなんてこともありました。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生