消え行くもの②

2019年10月13日(日)

旅行者が散策する公会堂周辺やドンコイ通り周辺には瀟洒なホテルが新築され、飯屋(コム・ビン・ザン)は跡形も無く、ファストフード店に変わりました。旅行案内本が薦める化学調味料たっぷりのPHO屋にCAFEもチェーン化のご時世。夫々にあった店独自の味や雰囲気、店主の個性も消え失せました。
庶民のシンボル的存在だけど衛生上問題がある、汚く観光都市に似合わない?などの理由で路上席を根こそぎ強制排除。公安が一網打尽の急襲作戦、外国人が驚く攻守壮絶のバトルは今では見かけません。
グエンフエ通りにあった路上カフェが無くなったのが恨めしい。顔馴染みともなると、壊れそうなプラスティックのイスに座ればピタッと出てきたいつものカフェ・ダー。その後しこたま冷たいVN茶を飲んで体の熱気をふき飛ばす。一息つけた安らぎのスポットも消えました。
代わって人気は観光客御用達の洒落たカフェにアイスクリーム店。値段はその数倍もするのになんとも味気なし。店内にはエアコンがあって涼しいけれど、暑い戸外でグッと飲み干すシンプルな氷入りの美味さには敵わない。どうしているのかな?太チョ母さんとランニングシャツと半パンの息子。文化の進化とは無味無臭・乾燥した表面だけの冷ややかな美しさ。適度の暖かさに湿り気の混じった気の置けない人情裏通りの親切との引き換え。
人気餃子の山東菜館1区店、メコン名物風船餅の店、海鮮料理とVN牛シャブの店カイソアイ(マンゴー)など建替え工事のため消えて無くなりました。
乗り物といえば名物シクロ。市民の足としての存在感を完全喪失。もはや交通の邪魔。彼方此方で見かけたこの国にしかない≪シクロ進入禁止≫の交通標識で遮られ、僅かに観光の目玉に生き残りをかけている肩身の狭い思い。コイツ等と絶対喧嘩するな、とVN人の教え。何しろ元兵士だから腕っ節は強いとか、日本人旅行者専用ノートにズラッと並んだ惜しみない賛辞を見て安心したのに、実際には妙な場所に連れて行かれたとか、高額の料金を請求された、はたまた家まで付いて行ってホロッと涙に誤魔化されたなど、殆どトラブルだとしか言えない話題は事欠かない。地方から出てきた知り合いの同国人ですらボッタくられたこともあるのですから、外国人客なんてお手の物。仲間に囲まれ言葉も分からず、泣く泣く・・なんて経験ありの方もいらっしゃるようです。
とあるガイドブックにはシクロドライバーと友達になろう!と事実誤認もはなはだしくすっかり友好モードに入るよう指南、ご丁寧に賞賛ノートの写真入。実状を知らず無責任にこんなバカを書き、脇の甘さでしかとマネする日本人。葱まで背負った美味しいカモに見えるのです。これこそ本当の日本人旅行者へ真の海外危険情報。
アジアンビューティー最大の特徴は濡れば色の黒髪。すらっとした姿勢の女性ホテルスタッフやVN航空乗務員はこの黒髪をクルッと巻きあげますが、うなじの長いアオザイ姿の彼女たちにはぴったり。何とも優雅で美しく見とれる程。この長い黒髪は殊のほか奇麗で繊細、艶々の貴重品。ウイッグメーカーに大変人気で良い値段で売れたそうです。だがHCM市でも髪の色だけ外国人という若者が増えました。
路上散髪屋、数十円ほどの値段。どこからともなく運んで来る壊れかけのイス、何故かどの店もヒビの入った鏡。近くの家から伸びた電線にバリカンを繋ぐと準備OK!これもいつの間にか見なくなりました。
若いお兄ちゃんがバリカンでカットし、オネエさんは30分もかけてしっかりシャンプー&マッサージをしてくれますが、当地では湯でなく水シャワー。
人が生きていくために仕方無く見過ごすことは多々あります。が、必要な生活の糧を確保する以上に経済的利得を優先し、国家や巨大資本を通じて、国民や人類共通の文化や財産を食い荒してゆきます。快適さと利便を引き換えに残すべき風情や人情が消え去る運命は何処も一緒。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生