急速に発展するベトナムのキャッシュレス決済

2020年8月30日(日)

新型ウイルスによる外出禁止の結果、オンラインショッピングの利用が増えているとの調査結果が出ています。また並行してキャッシュレス決済の普及が加速しているとの報道もあり、市民生活が急速に変化する兆しが現れています。
銀行口座を持っている人は元々それほど多くありませんでした。給料の支給や支払いも現金が多く、私の知る範囲でも勤め人や成人でさえ持たない人がいる。まして自営業者や若年者は、銀行利用は敷居が高いし行く理由すらありません。
当地はカード手数料が利用者負担なので、そこまでして使うのはバカバカしく勿体ない。従ってカード決済が出来る店は少なく、利用するきかいもないため銀行口座も不要で無関心という連鎖と悪循環が続きました。
地元民が買物をする伝統的市場形態である路面店や市場、個人商店は人と人との関係で成立。現金支払いが基本の日銭商売。その日の資金を朝に借り、夜に利息を付けて返す小商(無尽のような)も行われていました。ビジネスライクの近代的商業流通であるスーパーやコンビニでも現金と言う状態です。

新興国の人々は自国通貨を信頼しない過去がある。国力が無く自国通貨も脆弱なのでインフレは凄まじく、年初に比べ年末には大幅に下落している状況が続き、外国人が利用するホテルや旅行会社、飲食などへの支払いは米ドルでした。
金や外国の基軸通貨が安全資産と言う考えが強くあり、結婚や子供の誕生には腕輪などの金製品が両親や祖父母から贈られる習わしが伝統です。
定期預金利率が年20~30%にも。ところがインフレ率がこれを上回ることも多く上辺の高利率も全く無意味でした。
これに対してベトナム政府は、自国通貨であるVNDでの支払いを各所に通達。従わなければ罰金を課すとの強硬姿勢。公安が店に突然やって来て調査、実際にその場で数十万VNDを徴収して行きました。これでは変えざるを得ません。外国人が多い店のプライスカード、日本料理店などのメニュー表示は全てドル、支払いもドル。これが段々とVNDに変わって行ったのです。
銀行口座を持つ人の割合は、現在50%の普及率。政府はキャッシュレス普及のため国民に口座開設を推奨しています。

この様な状況の中で、アメリカのカード会社VISAはベトナムの消費者への調査で74%の人がキャッシュレスを増やす意向と回答。徐々に現金での支払いを減らす傾向にあることが判明しました。
この理由は、感染を危惧して非接触型であるカードやスマホを使った支払いに安全性を求めている事が伺えます。さらにこうした電子決済をする店が増えているという事が挙げられる。実際にVISAでは前年比で金額的に40%程、店舗は54%強増加しており、今後さらに増化する傾向にあると考えています。
ドル持ち出しに厳しいベトナム。すでにビジネスや観光で来日した人の多くは簡単で便利なスマホ決済を行っており、慣れている人も多い。受け入れる日本の店舗でもこれに対応している実態があります。
もう一つの理由、ベトナムでは価格非表示でその場での交渉で価格が決定した歴史があります。最近、市場などでは定価との表示だが、実際は交渉が可能。でも相手も手練れの曲者、簡単にはいきません。そこへ増えているのがネット販売。価格が分かり安心して商品が購入できるという利点がある反面、偽物や粗悪品を掴まされた被害もある。この他に今回、衛生用品や生鮮食料品、荷が嵩張る大きなもの、重たいものなどが販売額を伸ばしているとしています。
また今回の移動禁止措置は、家庭での消費が増えました。持ち帰りが多かったケンタッキーやロッテリア等のファストフード店では、デリバリー用のアプリを使った注文が増えており業態変化。しかも店頭で注文するよりも10000VNDを割引。これが受け注文が増えたと喜んでいる。
ベトナムではこれらの店で誕生会や種々のパーティーをしているが若い世代が中心。知名度もあって安心、抵抗感なく注文するのです。
また金融機関でもこの機に、手数料の減免など様々な優遇措置を講じるなどでキャッシュレス化を促進しようと計っています。
電話通信や銀行システムが遅れたため、反って此の方法が便利でお得だと一旦認識すれば普及は早い国民性。
ただ企業はこうした消費者情報をどの様にマーケティングに活かすのか、此処までは触れられていません。この辺り分析の弱さが課題です。

この様な環境の下、ベトナム政府は携帯電話3社に携帯電話向けの電子マネーサービスを行うための事業免許を交付。6月から1年間の試験事業を開始する事になりました。これに拠り経済のキャッシュレス化、デジタル化を発展進化させるとしています。背景にはMOMOなどの電子財布サービス人気が高くなっている事が挙げられます。このため携帯電話大手、モビフォン、ビナフォン、ベトテルは昨年に申請を行っていました。
これ等の事業者は契約件数が夫々数千万件位あり、販売店などサービスを提供できるネットワークも広く急速拡大できると胸算用をしています。
支払い限度額は1000万VND(約430ドル)。だが若年ユーザーが使うにしてはとんでもなく多過ぎる。現金支払と異なり、機械的で知らない内に身のほど知らずの負債を抱え、歯止めが効かなくなる危険がある。社会問題化する可能性は火を見るより明らかだが継続されるでしょう。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生