ベトナム デジタル時代に突入 だが必要不可欠なもの

2020年11月24日(火)

ベトナムは今回のコロナ疾病でデジタル化の必要性が高まったとしています。
人との接触が最も危険だとして一挙にEコマースや自宅への配達利用が増え、そのアプリ開発が若手研究者を中心に進化しました。言わば思わぬ副産物でもあったと思えなくありません。だが此処に来て急に推進が始まったのでは無く、昨年9月に共産党政治局が第四次産業革命のもたらす機会の活用で、経済成長モデルを刷新して一層進める方針を公布していました。政府はこれを受けて、デジタル技術を使った技術革新やスタートアップ企業の発展を支援、促進する政策を打ち出したのです。折しも経済活性化でデジタル社会発展へ弾みが付く可能性は高いけれど、聞こえは良いが課題もあり解決の兆しはまだ先のこと。

・すでに始まっているデジタル化を配車サービス事例からみる だが問題も

政府が主導するより、民間では様々な形でビジネスモデルが普及しています。
タクシー配車、宿泊のマッチング、Eコマース、フィンテックなどが代表的。急速なインターネットの普及と、経済成長に拠る消費市場の拡大とグローバル化の進展。これが背景となって徐々に、むしろ日本よりも広がってきました。
規制が日本より無い、すなわち法整備が出来ていない間に急速に発展したためと言えます。むしろ制度が追い付かないまま、或いは本来監督しなければならない官庁が理解も対処もできないまま、なすがまま急展開が始まった感じです。何もない所に始めるものだから、誰もが参入しバラバラ。これまでにもあった何時ものやり方。商売気のある人が何らかの事業を始めると、儲かると察した人たちが群がり、我も我もと瞬く間に広がり失敗。ビジネスとして理念や方針、ビジョンも無いまま夫々が勝手に動く。統率できないのは当然の結果。
一例を挙げると、2014年タクシーやバイクタクシー配車があっという間に拡がったウーバー、相次ぎグラブも参入。セオム(バイクタクシー)に乗ると汗臭いおっさんがスマホを器用に使いこなしている。だが車は素人なので道を知らずアプリに頼っても間違うし、持ち主に拠っては車種がバラバラで当たり外れが大きい。などと思っているうちに全てグラブになってしまった。

・出だしから問題含みだった配車サービス 何が欠けているのか

便利な制度であるけれど、利用者にとっては一定の能力やリスクが担保されておらずサービスの質が異なる、事故があっても補償はされず、利用者の安全は守られない。競争者が出ても公平を維持できない等々。問題となったのは実態が掴めないため課税ができないことでした。これは黙っていられない。
分らないけれど、とにかく始めてみよう。こんな具合だから営業許可を持たずに運転手が仕事をしていたことに加え、ウーバーベトナム法人が輸送業として営業登録を行っていなかったことなどが発覚。政府は同社に是正を求めました。またグラブはタクシー業者との協業を通じてサービスを提供していたが、実際は基準を満たさない車両や運転手が仕事していたとある。これを取り締まらないままに配車サービスは広がった経緯があります。日本と同じく縦割り行政の怠慢、他所の仕事に手は出さない。結局は制度が無いまま今に及んだのです。
理由の一つは公共交通機関が未発達なベトナム。バスはあるが時間が分らず、夜は早くに終了。配車サービスの魅力は大きい。スマホで事足りるので手軽で近くにいる車が来る、料金は事前に確定するので安心だしタクシーより割安。目的地への地図も画面に表示されるので遠回りしようが関係ない。だがスマホを持たない高齢者、外国人などにはタクシーの存在が有難いのです。

日本の様にガンジガラメに規制で縛ると、何事も育つものも育たない。業界や団体の利権保全のため、政治と癒着構造が結果として嫌がらせになる免許制度。折角の芽を摘んでしまうことも多く、これが他国より遅れてしまうのも事実。
この配車サービスも日本で普及するのは難しく望み薄。

だが順風満帆とはいかず、お客を奪われたタクシー大手ビナサンは規制強化を求めて提訴しています。トヨタ車を投入し、これまでのタクシーより安全快適で成長してきたのに突如現れた配車サービス。時代の流れと言えばそれ迄だが普及が明確になるにつれ対立が激化。お客は少なく給料も少なくなって辞める運転手が続出。これには政府も困りました。

・教訓になったのか

こういうご難続きであったけれど、未だに新ビジネスモデルであるデジタル化は政府が先走る割には法が追い付かず、具体的な指針も規定もなく、急務とされるのが制度作り。何れの国でも民間が先行、行政府や法律は後から追っかけるのが世界の常です。
この配車サービスは、お客と車のマッチングに変わりがない。しかし其処にはプラットホーム企業が介在し、ユーザーのスマホで完結するけれど、ビジネスとして成立するなら明確な法の適用があり、事業者と運転手と雇用関係があるのか、契約行為なのかなど仕組みがはっきりしなければ安全を担保できない筈。日本で起きているウーバー・イートに拠る事故にしても同様。企業は知らぬ、存ぜぬで、責任回避の様相しかありません。危険この上ない。
新ビジネスモデルとしてデジタル化を強調、推進するなら、明確な展望を政府が描き、混乱を避けるため前例を教訓にして迅速に法的制度を整備すべきです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生