日本人のエアコン設置

2021年9月6日(月)

外国人が日本のエアコン設置工事を見て、その仕事ぶりに驚いたという、そのワケが海外ネットに載っていました。
まさに日本人のきめ細かい仕事ぶりの典型。匠の精神として称賛されるが、我々にとっては特段びっくりするようなことではなく、ごく普通の仕事なのです。
しかし、記事に拠るとこの当たり前がアタリマエではなく、これを書いた人によると自宅のエアコン設置をみた経験から業者はそれなりの工事をしてくれた。手早いとは感じたけれど配線がぶら下がったまま?で工事を終えて引き上げてしまい、それを隠すのに苦労したとあります。
この方はネットで日本の工事業者の取り付け動画を見て、その仕事の丁寧さに驚くとともに、配管を隠す専用のプラスティック製カバーがあると紹介しています。またこの国ではエアコン設置の際に開けた穴を塞がずそのまま放置したままだったので仕方なく自分で補修したともいう。
通常、冷媒管を保護するための保温材に入れてから電線と養生テープで巻くのは何処でも同じこと。しかし日本では多くの場合オプションで化粧カバーを取り付けるのは一般的なこと。今では壁の色に応じて様々な色が用意され、庇のアングル部分には自在に曲げられるフレキシブルカバーも用意されています。
また配管工事で開けた穴を塞ぐ丸いカップリングも用意されているので、冷気が漏れるとか、虫の侵入や外気が入ることもありません。
最もこれは美観だけではなく、風雨にさらされ劣化を避ける理由もある。長年使用していると養生テープは次第に剥がれてゆき、中にある配管が剥き出しになる。こうなると熱変換に支障をきたし効率が悪くなるため、なるべくカバーをする方がいいのです。

さてベトナムで電気製品の販売や工事などの会社をしてきて、エアコンの取り付けやクリーニングも行ってきた経験から、現地の作業を振り返ってみます。
以前、町の電気屋さん奮戦記として、コラム127・128にこのTUANKIM社の事を書きましたが、これがHCM市で日本人が初めて経営した電気屋。
特に年中暑くて埃っぽいHCM市では、エアコンの室内機、室外機共に洗浄する事で熱交換力が高くなり、機械への負荷も低くなり、電気代は安くなる効果がある。とりわけ日本と違いフィン部分を取り外して洗剤で洗うと真黒な汚水が出てくる。室外機洗浄やメンテナンスも大切だが、日本では此処までしない。
日本企業や日本人在住者からの依頼を受け定期的クリーニング、酷使したために火が出て壊れたコンプレッサーの交換など、およそ日本で考えられない現地特有の事情もあります。
ベトナムの一般的民家は部屋内の天井高が3m以上にもなっているのが普通。これは冷房設備がない時代にタッパを高くして換気口を設け、熱くなった室内の空気を屋外に出すための生活の知恵なのです。従って日本と同じ広さの部屋でも空気の容量が多く機能が低下するので、一回り大きい機種が必要になる。
詳細はコラムに記してありますが、時は2000年当初。まだベトナムが経済貧国のひとつで貿易は赤字が続き、初任給が大卒者で100万VNDほど(当時の円換算で約6千円強)。COM BINH DAN(飯屋)でサラメシが40円、PHOが一杯30円程と住み易き時代でした。
家電製品など高根の花。冷蔵庫に洗濯機、ましてエアコンなど一般庶民が買える筈などなく、テレビでさえも中古品が売れ、修理専門店が彼方此方にあった位で騙しながら使う。また冷蔵庫や洗濯機、エアコン等の中古白物家電は輸入品が結構あり、輸入が禁止になってからも陸路で隣国から人の手で担ぎ込まれました。税関の人がセミナーで密輸の話をしていたので間違いないでしょう。
最も多かったのが日本製品。日本で下取りした製品の中から修理を終え綺麗にされたものが中古品として100ドル位で販売され、夫々の家庭で現役として立派に活躍したという他なりません。

地場業者はエアコンの取り付の際、床や壁を汚さない為の養生は一切しません。
構造上ベトナムの家の壁は煉瓦で造られています。日本の家やマンションの様に予めスリーブを空けるとか、エアコン用の電気配線をしていないのが一般的。また一般の家はウナギの寝床スタイル。間口が狭く奥行きがやたらと長いのが特徴。エアコンを置くサービスバルコニーもなく外壁に取り付ける。
従って内側の部屋に室内機を設置する場合、煉瓦を斫って壁中に配管します。このためにガラがたくさん出て埃が舞う。処分に補修のモルタル塗りも仕事で、この手間が実に大変だし、通りの長い配管から漏水しない丁寧な工事が必要。
ところが現地の人間は気遣いがなくシートを置くような作業をしません。仕事が終われば適当に箒で掃くが関の山。残材やチリが残っていると家人が掃除をするのが当然と思うし、誰も文句を言わないのが不思議です。

これを改めさせたのが当社。ベトナム人従業員はナンデこんなこと迄と、最初は嫌々だったが、ベトナム人顧客にも喜ばれ注文がくる。これを繰り返し如何に掃除や物を傷つけないことが大切か発見するのです。記事にある配管部分も壁に穴を空けるが、当然モルタルを詰めてシールで防水。要するに、日本では当たり前なのだが此処では特別なこと、流石に日本の仕事と望外に喜ばれます。
同様にエアコン洗浄も室内が汚れたり、家具等に水がかかったりしないようにシートを被せ、終了時には床掃除までしたのだが、教えなければできないこと。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」
山本五十六の名言だが、世界に共通する指導方法かもしれません。
だが続きがある。継続できない。朱に交わればの如くで、ベトナム人社会に戻れば元の木阿弥、馬耳東風。まさに鶏のように、三歩進めば、元の位置を忘れてしまう。せっかく苦労して教えて実践しても、私が居なくなり、帰国してしまえば面倒がって続けられない。無駄な汗かきでした。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生