11月下旬に来日したベトナムのチン首相。様々なスケジュールを終えて無事に帰国したとある。
お土産はワクチン154万回分といくつかの円借款。これ等は毎年の年中行事。国のトップになったフックさんは格が上がりもう来ない。
また首脳会談では11件の文書に署名し、経済関連ではJETROとベトナム計画投資省が共催した「ベトナム投資カンファレンス」に出席、日本企業との対話を行ない、両国間で44件に及ぶ協力文書の交換式に立ち会ったと報じられています。
VOVのニュースで報じられたのは、商工省と和歌山県が貿易と工業分野での協力強化で一致。これは今回の日本公式訪問の中で行われたもので、ベトナムは和歌山県の潜在力を高く評価し、ジェン大臣と二坂知事が協力合意書を締結したとあるが、幹事長に在らずとも、二階さんの威光は尚も生きています。
ニュースとして報じられた中、日本政府はHCM市の水質改善に約108億円の円借款を供与。他に無償資金協力として5億円を拠出するとか。
人口が集中するHCM市。都市化の中で生活排水が増大しており、排水と下水道整備を行い、浸水被害の軽減や汚水処理能力を向上させるとあります。
これは以前から行われていたが、市内の下水管取り換えや処理場建設を日本の建設会社が行っていました。これを継続すると言うことで脆弱な都市インフラ整備を後押しするというもの。しかし借款対象となる資材・機材、サービスはその調達先を限定しないとなっている。つまりは自由にしていいという事です。
また無償資金援助は海難救助の能力向上などに使われるようだが、恐らく中国との海域問題で、ベトナム漁船へ中国側の嫌がらせに対処すると考えられる。
因みにHCM市はサイゴンと呼ばれたフランスの植民地時代、アジアでは最も水洗トイレが普及した都市。だが整備は追い付かず、各戸に一応処理槽はあるが実際には浄化されず、多くはそのまま下水として河川に放流されるのです。
・水清ければ魚住まず
HCM市内のスーパーで売られる魚。近海物は鮮度が良いと言えない。他に鮭、鯖、サンマ等の寒流魚も冷凍輸入されており、ベトナム人はこれらの魚は安心して食べます。だがHCM市近郊で養殖される淡水魚は嫌がって食べない人も結構いる。その訳は養魚場を観れば分るが池にポツンと一軒家、ではなく葉で囲った小屋を見かける。実はトイレ、此処で用を足す。かつてバイクで走っていると自然と目に入ってきたけれど、村が発展するに連れ見なくなりました。
さて日本。この所は海がどんどんきれいになって行く。かつて大阪で海水浴場として人気だった浜寺や二色の浜等は埋め立てられ工場地帯に。その工場排水が原因で汚くなったのです。これに加えて生活汚水が流れ込み、汚くなる一方。
ところが排水規制で年々透明度が高くなり綺麗になった。しかし喜んでばかりいられません。
今年、明石の名物イカナゴが急騰。もはや一般庶民はいとも簡単に口にできなくなったのです。その水揚げ量2千トン。かつては3万トンほどあったが年毎に減少してとうとう高級魚。季節の家庭の味でもあったのが、もう異変というべき状態です。これは規制強化によるもので、水質汚染の元凶であった窒素、リンが減ったため、プランクトンが栄養不足になり育たない。となればこれを食べる魚、其の上の魚という循環が出来なくなっているのです。おまけに綺麗が原因でイカナゴが小ぶりになり産卵量も減る皮肉な結果に。
それだけではなく、海苔も被害を受け色落ち。筆者は海苔問屋で纏め買いするのだが、一時品質が悪くて、聞いたところ生産地の問題と分かったのです。
それどころか牡蛎も同様。三陸海岸の牡蛎は大きくて美味しいと評判だった。この理由とは漁業関係者が植林した結果。だが地震で殆ど毀滅状態となったが、最近養殖筏が復活したとかで、生育は良さそうとある。要は山の養分が魚類を育てる事を知っていたからで、木を植えたのはそういう知恵があったわけです。
これは林業が専門の大学教授が書いていたけれど、要するに窒素やリンは魚を育てる肥しなのです。
以前に瀬戸内海の海底はヘドロ状態と新聞にありました。誇張があるにしても、綺麗にするため規制を過剰にすれば、逆に魚を減少させる危険性がある、との認識はなかったのです。
慌てた行政は窒素濃度とリンの含有を検査し、これ等の下限値基準を新たに設けました。豊かな海に戻すため細やかな管理が重要になった一方、汚染は赤潮の原因となり得る危険度が高い事が判明。
瀬戸内海に面する各県や大学では規制に関する研究が行われ、養殖が多い県は慎重とあります。それぞれの地域経済・利益を考えるのは当然だが、利害関係が深かまるのは明白。海だけに線引きしても海水の流れは止められない。有明海干拓であった様な諍いになる可能性は無いとは限りません。
この所、牡蛎の養殖が盛んになった大阪湾。三年フグで有名になった淡路島など漁業に関する話題を聞きます。大阪湾は元来チヌの海と呼ばれた魚の宝庫。
チヌとは黒鯛のことで沢山採れたし、堺は穴子で有名。また牡蛎も実は淀屋橋に江戸時代から続くカキ船があったほど大阪の食文化を代表するものでした。
だが大阪湾は生活・工場排水に加え関空の埋め立て工事で環境が余計に悪化。水質を復活させ牡蛎が特産品にまでなったけれど、かつて漁港に行けばこんなに種類が多いの?と驚くほど。トロ箱一杯が500円とか、安い値段で買えたけれど、噂を聞きつけた客が休日になると押し寄せ、値が上がったため足が向かなくなりました。
11月にNHKで大阪湾の魚のことを特集していたが、まさにかつての豊饒の海に戻りつつある様です。汚れとは良い言葉に聞こえないが、ほどほどの濁りならば魚にとってはむしろ住み易い世界。行き過ぎる規制、やり過ぎの管理はむしろ彼らによろしくない。何にしても適当がいいという事でしょう。
綺麗な蓮花は泥に咲く。
メコンデルタ。穀倉地帯で年に二期・三期作もあるが、肥料を使わない田んぼもある。河川に面した田、ある時農夫がその川に入って泥を掬っていた。?と思いきや田に入れている。泥は養分をたっぷり含む肥料なのです。
HCM市の運河に面して有名な海鮮料理を出すレストランがあって、夜ともなれば客が押し寄せる。新鮮でおいしい。評判が評判を呼び、外国人客まで来た。
だが残った魚のアラやスープなどそのまま運河にほり込んでいた。やがて水は濁り、そのまま海まで運ばれるはず。さて海の肥やしになり得るのか、単なるマナーがよくないだけで、ゴミのままなのか。これは如何なのかな?
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生