今年ベトナムは本格的な経済復活ができるか

2023年2月28日(火)

少し前だがVCCI・HCM市支部の友人から、もう普通の生活状態に戻っているとのメールを戴きました。休日ともなれば高島屋などの大型小売店舗には買物客が一杯だし、VCCIではイベントも開催、ビジネス環境に明るさが感じられる様になったのは喜ばしい。かつては出社できず業務も専ら自宅でテレワークをしていたが、便利であるけれどやはりそれだけでは不十分。外国との接点が主要な部署なので充分な意思疎通ができない。外資企業にとって現地のビジネス事情は不鮮明だし、相手企業の経営状況なども信頼に足るものでなく、直接自ら心眼で確かめなければ何も始まらない。人と人とのご縁を大切にして、真の交流関係を重ねないとビジネスは成立できないことが明確になりました。
初めて進出する企業となれば現在の混沌とした世界情勢が何時収まるのか全く見えてこない。また現地の給与や物価等が上昇。製造業はサプライチェーンの充実度、三次産業に於いては消費動向や現地企業の実情が見えてこない以上、良い所だけ切り貼りするニュースだけ読んでも本当の実態や真実は分からない。
またベトナムからは幾つか省の投資ミッションが来日して投資セミナーの開催も行なっている。しかし事情通に依れば企業は参加するけれど今のところ様子見が多いと聞く。日本国内の製造業でも部品調達は一時に比べて円滑になってきているが、以前の状態には戻っていない。焦って直ぐに進出というよりは、此処は慎重に構えるのが得策、迂闊に手出しをするのを控えていると考えます。今はロシアとウクライナの先行き等を読んで行動するのが的を射ている。
経済学者の小室直樹さんは、経済は心理学だなんて真っ当な御説を著書で述べておられたが、随分前にロシアは何れ(体制)崩壊するとも主張していました。これまでの状況や現在の動きを見てもこの推論は科学的根拠があったと思える。
誰もが此処まで思っていなかったにしろ、仮にそうなればこれまでのデタントやある意味でバランスが崩れる事となる。ロシアの経済規模は大きくないけれども、世界経済や同じ社会主義国への波及は計り知れないものがあると心得る。その時点ごとの状況を見据えつつ予測するべきではないかと考えます。
また昨年に起きた中国国内での一般市民の暴動。COVID-19に拠る感染者・死者の急拡大と都市封鎖、不動産のバブル崩壊で被害を蒙った庶民の積もり積もった政府への積年の恨み辛みの具現化。しかし毛沢東時代へ逆戻りが見える中で、真の民主化への過渡期と捉えるべきか。この先の展開は予断を許さない。
大きな影響はそれ程でないかもしれないがアメリカ大統領選挙の見通しも含め、こうした大国の変化から来年の世界経済は減速するであろうとの見解が強い。世界の状況を見守りながら、円の動き、他の外国為替の動向にも注視しながら慎重にならざるを得ません。このような背景があるのだろうと推測します。

・23年度の経済成長 その前提として考えておくべき長期的問題も

昨年11月、国会は2023年度のGDP成長率目標を6,5%としました。
各国の機関や銀行、コンサルも概ね6~7%になるであろうとしています。
しかし年明け早々であるけれども、先記のように世界を取り巻く情勢は不透明感が拭えず、ベトナムもその影響を受ける訳で思惑通りに成長が続くのか。
これまでベトナムは順調に成長してきたといえ、その要因は外資企業の進出に依拠するものである事に違いありません。2000年初頭に始まったサムスンの携帯電話輸出が発端であり、この傾向は20年以上に亘ってその首位の座をゆるぎないものにしてきました。しかし自国企業が自助努力に拠り産業構造を転換、自主開発してゆくのが本道。だが政府は海外企業の進出をこれまで以上に促進。業種選別と今まで以上に先進技術移転を求める状況は増長している。
ベトナムが弱いのは製造に掛る精密部品と原材料・素材が殆ど自国調達できず、科学技術と化学、R&D・開発力にノウハウ、医療分野など幅広い。外国企業が研究所を設置しているかと言えば極めて少なく、話題沸騰のヴィンファスト社でさえ自国にR&Dセンターを創らず海外に設けているのは何を指すのか。
能力のある若い海外留学経験者等は次世代を担うまでの能力を身に着けて成長、主に先進IT関係の企業を起こしている。それでも未だ海外に依存しようとの姿勢が強いし、兼ねてからもの作り国家を目指し、裾野産業を育成するという目標さえ完遂できていない。こんな中でサプライチェーンのベトナム移転など早過ぎると考えるのが現地事情に詳しい人達の感覚。勘違いしてはいけない。
だが昨年、どうも韓国サムスンの状況に異変が生じている。統計総局に拠れば昨年度は11月に2回目のスマートフォン減産を行い、11月までの輸出台数は約2060万台と10%の減産。金額ベースでも輸出額は約50億ドル減となって前年比で7,4%も減りました。この原因はベトナムで生産されるスマートフォンなどは主に欧米向け。しかし多くの国で強いインフレ圧力により消費が低迷しているという実態があるのです。ではこの減速した分を他の自国産業が代替できるだけの十分な能力があるのかと言えば、それは全くありません。
サムスンは年間製造数の半分を越国内6カ所で造っており輸出と黒字に多大な貢献しているが世界経済の低迷には勝てない。これでは上半期340億ドルものスマートフォン輸出が大幅に削減される可能性もある。だがR&Dセンターを造り投資額の累計を200億ドルに引き上げ強気に打って出た。韓国の対越輸出は343億ドルの大黒字で1位、輸出は輸入の2,3倍と完璧不均衡状態。
しかし韓国の半導体シェア一位は危うい。製造に必要な機械や素材等は自国で賄えなえず輸入頼り。台湾に押され、日本は次世代新技術の開発と反撃開始、米国企業も越国に工場建設。CHIP4ヵ国では中国の顔色を伺い腰が引けて足許は覚束ないし経済は危機状況。2050年に世界で最も老いた国と化す報道も。
VOV・ベトナムの声放送は、12月4日から6日まで3日間に渡ってフック国家主席が国賓として韓国を11年ぶりに公式訪問。ユン大統領と共同宣言を発表して戦略的パートナーシップに格上げ、新たな発展段階に移るとしたが、黒字の献上に利用されるだけ。だがしたたかな全方位外国戦略を採るベトナム。何処の国でも友好国と持ち上げて投資を引っ張り出し、企業の進出を加速させ、輸出を拡大してきた経緯がある。ベトナムとしては先々の損得を計算に置いて今は辛抱の時だが、韓国の方にむしろ焦りがあるのではとの印象が否めません。
ベトナムが照準を当てているのはEU市場でありCPTTPに属する国々との連携強化。取り分け中南米など新貿易市場開拓を推進できる諸国を考えている。

先ごろのニュースで話題になったのが、ヴィンファストのアメリカへの初出荷。
すでにショウルームも開設しているが、12月にはアメリカでの新規株式公開に向けて登録書を送付、足固めを行おうとしている。またベトナム系アメリカ人(ベト僑)が最も多く住むカリフォルニア州には昨年末ショウルームを一挙に4店舗開設。次に多いテキサス州なども含め全米に約140万人いる彼らに売り込もうとする算段。だが幾ら愛国心が強い遺伝子を持っているとしても、もはや第4世代にも成ろうとする人達をターゲットにする見え見えの戦略は、企業歴史と経験が無く自信のなさの裏付けであって、単にもの珍しさで売れるとしても継続的に通用するのか疑問。赤字の屋上屋を重ねるだけでしかない。
さらにドイツとフランスにもショウルームを強気の開設。有数の老舗メーカーに宣戦布告だが討ち死に覚悟か。国産車だと言ったところで元々はアメリカやイタリアなど欧州から技術やノウハウにデザイン、アジア各国企業から部品を寄せ集めたお得意のアッセンブリー車が実態。独自開発なんて遠い先の絵空事、全て国内で完結できるだけの真の国産車製造まで漕ぎつけられるのだろうか。
こういった事情がある中で、ベトナム国立社会経済情報センターの報じる所、2022年にベトナムは消費支出が改善し輸出力も回復したとしている。特に第3四半期にはGDP成長率は予測を上回って13,67%(推定)増加した。
しかし世界的経済の成長鈍化と金融リスクの高まりで、今年、来年の成長には大きな影響があるとし、実際に国内企業の輸出に減少傾向が見られるし、これまで書いた通り不動産、金融業界と債券市場にむしろリスクは増大していると指摘する経済識者もいる。また昨年のインフレ率は目標の4%を若干下回ったが今年はその圧力が高まるとの懸念もあるし、不況業界で解雇者が出てきている。
外部要因がベトナムに強く影響するとして、世界経済が不況に陥るのならば、ベトナムも避けて通れず困難に直面する。今年の目標6, 5%を達成するならかなりの努力を要するとしている。筆者が最も懸念するのは以前に書いた通り、それ以上にベトナムが早くも中所得国の罠に嵌る時期なのかということです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生