昨年12月31日、ベトナムとイギリスとのFTAが仮発効。5月1日に正式に発効することになりました。
イギリスが昨年末にEUを離脱するのに伴う移行期間が終了したのに合わせたものだが、COVID-19禍のため報道ではロンドンで両国大使が署名したと伝えています。
昨年8月にはEUとのFTAが発効しているが、これを継承した形で二国間の投資と貿易を促進するため締結に至ったもの。
ベトナムにとってイギリスはドイツ、オランダに次ぐヨーロッパ3番目に大きな貿易相手国。その実績は2019年度で、貿易高が66億ドルに達しており、また2020年度は不安定な経済下であったにも拘わらず56億ドルとなっています。また2011年から2019年までの平均成長率は12,1%で推移。ベトナムは戦略的パートナー関係を構築してきたとする。
ベトナムはイギリスへ電子製品が約25%、その他、衣料品、繊維製品、靴・履物、木材・木材加工品、農水産物など輸出し、イギリスからは医薬品、機械・装置、ハイテク製品が主に輸入品。
イギリスへの輸出は増加しているものの付加価値は低く、輸出金額はイギリスの輸入金額の1%に満たないとも報じていて、明確な差異がみられる。
ベトナムとしてはイギリスとの貿易は潜在力があり、これを強化することで、ベトナム製品の輸出を増やせるチャンスとして、今回の締結で弾みをつけたいと期待感を示しているが具体的な話が聞こえてこない。個人的には民間企業が明確な企業理念を持ち、自社製品の高品質化とブランド構築や付加価値化を考えなければならないが、一部ではその意志が弱く遅れている実態もあります。
しかし、FTAが発行されてから取引額は増えてきたとされ、税関総局によると1月には昨年同期比で78%増加したとあり、COVID-19禍が続く中でも大いに伸びていると評価。だがローテック製品中心だろうと推測します。
イギリスとのFTA発効に際しては、ベトナム製品に課税される輸入税に優遇税制が適用されるため、試算によると支払う税は1億6千万ドル節約できると歓迎している。
このUKVFTAは、昨年8月1日発効したEVFTAの原則に基づく延長となるものではあるが、二国間での枠踏みを考慮しつつ必要な調整がなされたとあります。
基本的にはEVFTAと内容は同様とあるが、貿易に関する一般的規則、市場参入ルール、原産地規制、税関。貿易の円滑化、衛星と植物検疫のための措置、貿易での技術的障害、競争、国有企業、政府調達、知的財産、持続可能な開発、協力能力構築などが含まれるとされています。
・FTA発効に積極的なベトナムだが サプライチェーン参入に課題あり
これまでにも書いてきたが、ベトナムは経済活性化の大きな要因として各国・地域と自由貿易協定の締結を積極的に進めてきました。とりわけ自由主義国との締結は先端技術を導入し、ベトナムがかねてより掲げていた先進国業国になるための近道として最も効果的であること。今回の感染禍で大きな話題となった世界的なサプライチェーンの一極集中を避けるため、ベトナムが一番有利な国として脚光を浴びていること。その為にベトナムが長年かかってもまだ到達できず未発達な裾野産業を整備すること。これらの解決手段としてはFTAが確実で手っ取り早い方策であるわけです。しかし裾野産業を堅固なものにしなければせっかくの機運であるにも関わらずチャンスを逃す可能性も出てくる。
精巧で高品質の部品がなければ外国企業は参入しない。現在は期待感が高いが実態との遊離はまだ多く、早急に現実を確認し自国企業の経営能力と技術力の向上を図る必要があると考えます。これはEUの投資家にとっては懸念であり、
EUのガイドラインを踏襲できるか、不安を払拭できるかが課題です。
期待とは裏腹に国内調達率の低さがのしかかります。事実日本企業の調査では
ベトナムは32,4%。中国では67,8%、タイ57,1%、インドネシアでさえ40,5%あるとのジェトロの調査が物語っている。
EUはベトナムのサプライチェーン参入に関し、アメリカの様に隣国メキシコがある訳でなく、期待はあるとしながらもベトナムの生産レベルが優れているとの認識も確証もない。専門家筋からはグローバルチェーンに参入する投資はなく、一部の企業しか通用しないと厳しく捉えているとします。
これらの問題に付いて何度か書いてきましたが、事実中国との調達格差は歴然としているため、COVID-19が終息されるまでには明らかな変革が求められます。
また素材産業が未発達も弱点。さらにFTAは今後も締結してゆくことになりますが、これに関しては原産地規制が絶対的にクリアできるかが課題。
そういう意味では正念場だと言え、ビジネス環境の整備が必要です。
・ベトナムにとって靴・履物製品輸出は回復の兆しはあるが
新たにFTAが発効した効果もあり、昨年急速に落ち込んだ靴・履物の輸出に関しては今年業績回復基調にあるとします。COVID-19が抑制されればこれらの製品の輸出はFTAのインセンティブを受け、25~30%伸びるとの見通しを立てています。これらの原材料国内調達率は30~40%となっており、昨年度の目標である240億ドルを突破したいとの意向だという。
他にも農水産物など一次産品についても期待をかけるが、そのままでは製造業サプライチェーン構築など夢の中の話でしかなくなります。
・イギリスの筋書き
2月1日にTPPへの加盟を申請。脱欧入亜と言われ、イギリスは経済・外交の軸足をアジア太平洋へ移す姿勢を明確にしたと言える。
これは世界との関係を新たに築き2022年までにFTAを結ぶ国・地域との貿易額を80%に引き上げるグローバル・ブリテン構想を掲げ、とりわけ僅か4カ月で締結した日英FTAを主軸に、成長が著しいアジアでTPPに参加すれば、現在TPP加盟国と8%に過ぎない貿易高を65%にあげられると試算する訳です。
世界経済は今後アジア太平洋地域を中心に発展すると見込んでおり、TPPが高いレベルを持つ貿易協定である事から、この機会を捉えての加盟こそがイギリスの潜在力を発揮。輸出入を拡大、また貿易システムやルールに参画できるとの思惑がある。
EU離脱の大きな目的はこの背景を基に、今年1月、日本、カナダ、メキシコ、ベトナムなどTPP加盟国と先にFTAを締結したのです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生