COVID-19感染拡大 でも先行き経済の見通しは明るい?③

2021年11月30日(火)

しかしこの様な部品企業の99%が中小零細と言われ資本力や世界で通用するだけの技術力に乏しいのが実態。また今回のCOVID-19で打撃を受け一層明確になったのが資金力の脆弱さ。銀行に融資を受けるにしても実際には担保の問題や煩雑な手続き。さらに何時までたっても改善されない担当者へのお礼と称する賄賂がある。事実日本企業の現法社長の知人から、通常金利よりも高く過分の自己手数料の要求があったのであほらしくて止めたと聞かされました。
これが地場で日常茶飯事だし、か細い手仕事では金利すら賄えないのが現実で、あまりの理不尽さに工場を処分して事業をやめる方が得策。何時まで経ってもベトナム地場企業のM&Aは留まるどころか、増加するのはお得感満載だから。
この実態を知りつつも外資企業のM&Aを止めようと言うのは滑稽な話です。

こういう状況の中、流石にこれは困ったとして政府は裾野産業支援法を制定し、
一部で外資企業が製品の発注を行う際に、進出国の系列企業ではなくベトナム企業に発注するように奨励し地場企業の製造比率を上げようと画策。
素性が知れず製造能力が低い企業に輩のやり方での強要は返って外資系企業の意を損ね、製品の信頼度に響くため、足が遠のく原因になり自ら首を絞めます。
また昨年8月には裾野産業発展に関する首相令115/NQ―CPが交付され、2025年を目途に競争力の高い裾野製品を製造できる方向を定めました。
これに拠ると45%の部品が国内で製造できるとなっており、全製造業の35%にあたる1000社が直接外資系企業に部品を供給できるように技術力の向上を目指すとある。だが裏を返せばまだまだ信用度が低いと言う証に過ぎません。
これは俄かに降って湧いた世界のサプライチェーンを成功させたいとの思い入れだが、しかも2030年までにローカル企業が造る部品の供給を70%までに引き上げる計画とあるが具体策は見えない。付け焼刃的な政策でなく持続できるのなら、果たして世界に通用する部品の供給が可能なのか。素材や原材料をどう自ら開発するのかだが、此処までは精査していないのが現状と言えます。

・南部経済圏での裾野産業育成への連携事例

外資企業が多く操業する南部の地域は黙って指を銜えている訳ではありません。
即ち、HCM市や隣接のビンユン省、ドンナイ省などの南部経済圏では外資系企業のサプライチェーン参入を推進しようと、地場裾野産業の育成への支援に
動き出しました。HCM市を筆頭に歴史的に見て早くから海外と接点があり、商業・金融の中心で投資額も抜きん出ており、生産される品目も多種多様。
地方から工場などに勤務する若い人たちの集積や潜在ポテンシャルが高く、並行して都市部でのサービス産業も活性化。このおかげで生活水準は他地域より高くなっているがもはや外資企業の枠から外れることが出来ません。
という訳でFDI誘致に成功し、取り分け工業団地の造成と、裾野産業に力を入れてきました。しかしここに来てこのような物理的な方法だけでなく変化が。
HCM市は25年度までに裾野産業の育成を促進するためのプログラムを作成。
地場企業が国内外の市場で競争力を得るため先進機械の導入、人材育成を行いサプライチェーンに参入する布石を敷き始めている状況にあります。

また市内にあるサイゴンハイテクパークはドンナイ省、ビンユン省、ロンアン省、バリアブンタウ省の各工業団地委員会と連携して協力協定を強化。共同で外国企業へ部品供給を行うため、国内裾野産業向けシステム開発推進を定めたとあるが、過去には想像できない画期的な出来事です。
ドンナイ省は裾野産業専用の工業団地を開発する計画を2025年までに行う予定であり、国の奨励金の他に中小の裾野企業が工業団地内のレンタル工場を借りたり、インフラを利用したりする際の財政支援を行う方針とあります。
ビンユン省は省内で約2300社の裾野企業が操業しており、1000hr規模の裾野産業優先の工業団地を整備。工業製品の生産能力の向上により現地化率を上げ、海外からの輸入依存度の低減と、輸出品の付加価値アップを目指すとなっているが、現実離れの空論にならない様に着実にできるのかが焦点です。
これ等はCOVID-19の結果で、サプライチェーンのベトナムシフトを大きく意識したと考えても間違いはないが、南部地域だからこそ発想が出てきた様なもの。

これまでは競って工業団地を造成して海外企業を誘致し、工場に勤務するワーカーを供給するという方式から、地場裾野企業の育成のため積極的に方針転換とも思える。しかも地域の省や工業団地管理委員会などが連携して進めると言うこれまで考えられなかった進歩が認められます。この共同作業が成果を出すまでどれ位の期間が必要なのか、果たして十分機能するのか、呉越同舟にならないか、想い通りに案件が進むのか。期待と共に見てゆきたいと考えます。

だが前提として現状をみると外資系企業による輸出高は全輸出高の70%を超え、輸入品目に至っては素材、原材料、精密部品のどれをとっても海外に依存。首根っこを掴まれ国内調達や地場での開発はほぼ不可能。この現実に向き合い国全体としてどのように脱却し改革してゆくのかが最大の自立への課題です。
ようやくスタートラインに立った、と言えなくはない裾野産業。HCM市投資委員会ではSUSONOという日本語がベトナム語にもなっているほどこの国の工業の命運を握っている。これがようやく理解できたと思えます。
器は作ったけれど、では具体的にどの様に企業を育成するノウハウがあるのか。
世界的な技術開発、精密部品の製造など一朝一夕にできるものでなく、永年に亘り受け継がれてきたもの作りの伝統とそれ造る職人の精神。このような基盤があってこそ可能なのだが、このあたりの認識にはまだ遠いものがあります。
ハノイ工科大学溶接学科で研究施設が十分でなく旧ソビエト製機械も古いため、日本の支援に委ねたこと。高専制度導入を日本政府の協力で行ったが、これら職業教育が満足できる状況にない事を物語っている。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生