ビンユン省・ドンナイ省 HCM市と結ぶ地下鉄建設?

2024年11月2日(土)

HCM市の東方に国道一号線が走っていて、北はハノイへと至り、南はカマウまで通っている。市内一区からはハノイ道路が国家大学のある交差点で接続。此処は現在クローバー型ジャンクションになっており、丁度お臍みたいな感じ。
国道は此処からHCM市の北側を回って南進。このQL1Aと呼ばれる道路沿のトゥドゥック区に事務所があった。前面道路を挟み統一鉄道が並行して走る区間だが粗末な二車線。今では拡幅と完全舗装。ハノイ道路も10車線に整備、道沿いは10年程で住宅開発が進み外国人も多数居住。すっかり変化した。
海浜保養地であるブンタウや、かつてフランスの植民地であった時にフランス人が開発した高原保養地ダラット方面へは途中で分岐。ニャチャン、ダナン、フエなど主要都市はこの一号線沿いにあり、2昼夜かけてHCM市~ハノイ間を走破するバス路線がある。値段は鉄道よりも安かったが、乗客は良くぞ我慢できたもの。流石に外国人が乗るツアーバスは夜間走らずホテルで宿泊した。
これらの主要道路は何しろ物流や観光でも重要、道路に沿って多くの工業団地が造成されている。ロンタン新空港が完成するとなれば、HCM市内へは此処を通るのか、高速道路を走ることになります。
ハノイ道路と国道に沿って走る地下鉄1号線。地下部分は少なく殆んど高架。2022年から試運転に入っていたが、問題や綻びが次々に現れ度重なる延期が何度あったか。未だに開業は何時になるのか全く分からない状況にあります。
受注した日本企業はとうとう業を煮やし、メトロ企業を相手に訴訟にまで発展するくらいの金払いの悪さ。予想された事なのだが、計画の甘さでしかない。
こんな状況が続いているのにも拘わらず、なんと7月7日HCM市と南東部の省で会議が行われ、地下鉄1号線はスイティエンからドンナイ省・ビンユン省へ2つの支線に分岐され将来的に全長50キロにもなる延伸計画が合意。協議が続けられることになったとの現地報だが、開いた口が塞がらないほどの驚き。
このネタ元はHCM市運輸局長とあるけれど、肝心の一号線開業は今年度末とかだそうで、現時点で95%のプロジェクトが進行しているとある。もはや誰も信用しておらず、またか~とも言わない位、期待もされず、忘れられた存在。
実際に市民の多くがこの利益に与るものではありませんから、やむを得えない。
この計画では、先にスイティエン駅からビンユン省タンヴァン交差点の手前に出来るビンタン駅まで延伸。1,8キロを3兆VNDで建設して此処から分岐。
この後、ドンナイ省へ18,3キロの支線。またビンユン省への支線はビンユン省の各工業団地を経由して省都トゥーヤウモットへの30キロをつなぐ計画。
地下鉄と言え、この延伸線は全部高架なので、工事費は押さえられ、技術力が必要な地下部分の工事がなくなるメリットがあると会議で話されたと云わる。
工事費などは総額約86兆VND(約36億ドル)と試算するけれど、これで間に合うなんてありえない。建設に何年も掛かる訳で一号線の様に二倍以上に膨らむのは容易に見て取れます。
2021年にこれら計画は首相決定されているので、何れ着工されるとしても一号線のケーススタディーや検証もなく、性急な会談でしかないのです。

ドンナイ省、ビンユン省は工業団地が多くありHCM市を入れると南部経済圏を形成している最重要な地域、鉄道建設は筋として一応は成り立ちます。だが果たして本当に必要なのかは疑わしいと感じざるを得ません。
しかしドンナイ省もビンユン省もHCM市へ通勤通学する人が多いわけで無く、日本の東京都や大阪市へ流入する、あるいはこの反対を考える人が居るけれど、その様なベッドタウン機能はない。要するに生活行動エリアはかなり狭い。
これ等の工業団地に勤務する従業員の殆どはバイクか自転車で来ることが出来る範囲であり、彼らが借りている部屋とかアパートなどは近隣。また外国人の駐在員もワザワザ大都市であるHCM市内から通勤するなど余りありません。
一部で早朝に会社のバスや車とか、日本人学校へ通う子供が居る場合は仕方が無いけれど、昔と違って生活環境は格段に良くなりました。
日本企業が少なく日本食レストランも無い、昼食もベトナム食の時代、知り合いの社長は日本食が食べたくて、数えるほどしかなかった日本食店へ、夜だけドンナイ省から一区に出て来たことがあるのが今昔物語。

さて普通は建設するのなら、費用対効果は絶対的に必要であり、旅客需要とか交通量調査を事前に行うのは当然だが、これに関してはこれから実施予定とか。
地下鉄一号線は、計画がはっきりしてきた時点で多くの開発業者が目の色を変えて土地探し。新駅の計画地周辺は高層・超高層の高級分譲アパートが次々に完成、瞬く間に販売済となった。駅にはお洒落なショッピングモールが開業。
並行して道路インフラも整備され生活は便利になって行きました。昔の状況を知る人ならば、経済発展に伴いHCM市への地方からの人口流入とか外国人の増加から見て不動産需要の活発化は容易に想像できたし、当時の不動産事情を考えれば早く買う程メリットがあったので、投資家にも適していたと言えます。
また一号線のこれまでの状況を行政が知らない訳ではありません。特に工事費や用地所得費は当初計画からどれほど上昇したか。分かっていながら計画するのは如何なものかと思われても致し方ありません。この費用に関してこの会議でHCM市開発研究所の副所長VU博士は、主要プロジェクトに投資するため混合資本に拠る開発基金の設立を提案したと報じられているが、所詮は他人のフンドシに頼るという甘い考えは戴けない。
前例があるにも拘わらず何とも無責任な捉え方。根本的に誰が出資するかだが市や省に潤沢な資金がある訳ではない。HCM市で最初となる地下鉄一号線は日本のODAであり、建設も車輛に交通システム、乗務員などの訓練も日本。
またもやオネダリが通用すると思っていること自体間違いだし、官民一体とかに話は流れるが地場企業だってそこまで資金を出せる状況にはありません。
HCM市人民委員会のマイ委員長は、世界銀行は積極的であると述べているが、その後ベトナム財務省に計画の検討を任せたけれど、かなりの時間がかかると予想されるとしている。さらにマイ委員長はHCM市の様な大都市や地域の省に予算の一部を補填すること、国際的な支援や地域の企業界と交渉も可能だとして、基金を構築するため割り当てを行うメカニズムを申請するとしているが、殆んど愚策。ならば公債発行を考えるのが筋、これを地域一帯の企業・住民が購入するのが受益者負担という面から見ても道理と考えられけれど、またもや海外支援とくれば、ハノイの様に安直に中国頼みの借款が早道?初めは誰かれなく貸してくれる神様に見えるが、紛争の種が撒かれ、何れ悔やむハメになる。

・ビンユン省が早くも駅舎を設置するとか

こうした会議から間もなく9月になってから、ビンユン省の新都市で7Hrのサービス商業センターが建設され、ここに地下鉄線が延伸されスイティエンと結ぶ駅が出来るとの報道が出た。なんと気の早いこと、この報道から1週間後の9月下旬に着工とか。この開発には日本の当局とあるが、またしても東急?
企画するのはベカメックス。省直轄の開発企業で工業団地を5エリアで開発、住宅開発は東急が組んだものの田園都市線の幻を見ただけで再来は無い。現地に派遣された担当者が頭を抱えていたのはご存じない。
即ち住宅開発を東京から走る川崎市の田園都市線沿線開発に見立て、新鉄道を開通させる白昼夢。筆者は溝ノ口に住居していたので状況は理解できるけど、現地を知らない余りにもアホな考え。電車を通してもHCM市からの通勤客などいる筈がない。結局はバス路線となったけれど生活権の狭いベトナム人には通用しないし、日本企業は自前でやっている。イオンがあるけれど先に韓国系スーパーが開店するなど後手後手感は否めない。
確かにビンユン省、ベカメックス社は遣り手で日本人スタッフを抱えており、またプロサッカーチームを持つなど商売上手。しかし地下鉄延伸の予想工事費約52兆VND(22億ドル)の負担など可能なのか。安定した旅客があるとか有名観光地や教育・文化施設等がある訳でも無い。仮に朝夕にワーカーなどが使うとしても、職場と遠く離れた環境で生活するなどあり得ないし、会社は通勤費を負担するなどしないので宝の持ち腐れでしかない、と考えるのが正解かも知れません。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生