ベトナム鉄道案件

2026年4月16日(木)

昨年末に南北高速鉄道案件からヴィングループが突然のキャンセル。その理由は経営資源を集中するためとかだが、余りにも様々な事業に手を広げ過ぎたし、鳴り物入りで参入した自動車産業も赤字の垂れ流しが続いた。これではいくら創業者のファム・ニャト・ヴオンがベトナム一の大金持ちだとしても、自分の財布から資金を補填するには限界がある。
元々鉄道に参入するにしても何の技術もなく、大見栄を張っただけの空手形に過ぎなかっただけの話。ほぼ一夜にしてドイツとの提携話もご破算、国債的な恥をかくにしては乱暴な行為でしかありません。

そんなところに建設省はスペインのコンサルタント会社イネコと契約を締結、この高速鉄道の実現可能性に向けて調査を実施すると発表したのです。
スペイン最大のコンサルタント会社と言われるこの企業、建設副大臣のフイ氏は費用の見積もりと、プロジェクトの業者を選定する基準を提供し、技術についてコンサルティングを行うと現地報にあります。
この実現実施可能性調査報告書が纏まれば、建設省は投資モデルを発表するとしているのだが、リスクを企業に転嫁することは不可能だとする見解もある。
このリスクとは何か明確にしていないが、2026年12月に着工し2035年までに完成する計画を政府は発表しています。だが公共サービスに民間企業だけで完結するのは無理があり、推定されるコストは現段階で670億ドルとあり、これをハノイとHCM市間、1541キロを結ぶという訳だが、国家が主導的役割を果たさなければ計画倒れになってしまうだけ。
このインフラ建設はベトナム最大級のプロジェクトの一つであるけれど、国内企業の全て、だけでなく政府自体が全く経験したことのない未知の分野であり、さらに資金負担にしてもどうあがいても解決するまでに至っていません。これまでに書いたけれど建設、車両製造、運行システムに至るまでゼロから外国の技術にノウハウが無ければ不可能に近いのは分り切ったことです。

ところが、である。スペインでは高速鉄道で列車が脱線別の列車と衝突。120人以上が死亡、120人以上が負傷したという大事故が発生したばかり。
しかし列車は最新型であり、運輸大臣のコメントでは説明がつかない位に奇妙な事故だとし、事故の原因が説明つかないとしているのが、なんとも奇怪な話。
また2013年には列車が脱線して80人が亡くなっている。
スペインも高速鉄道の整備が進み、国内3000キロもの路線を保有しているというからコンサルタントも可能なのだが、安全なのか?

・高速鉄道以外にも新路線の計画がある

HCM市とメコンデルタ最大の都市であるカントー市を結ぶ鉄道を民間のCTグループが計画している。さらに延長してカマウ省最南端であるダットムイ駅まで総延長280キロメートルの鉄道建設を、総資金約1000億ドルで提案を建設省に提出したと報じています。
新たに建設される南北高速鉄道に接続、メコンデルタ6省を跨いで旅客と貨物を運ぶ標準軌の複線電化鉄道としている。設計速度は200~250キロだがさらに300~350キロの高速も可能としているが、常識で考えるとこんな高速ならば標準軌道では出せる訳がありません。この辺りが鉄道後進国であり、車両でさえ造れず、現ベトナム国鉄の車両が東欧製であることを考慮するなら、とんでもない勘違いをしている。鉄道用レールは外国技術を導入して国産化が進められているけれど、世界一遅いと揶揄されているベトナム国鉄。また殆どが単線であるため列車運行システムが安全に機能している訳でもなく、電子化や機械化が遅れている事実。さらに電化は最近の都市鉄道がようやく始まったばかりで、この様なスピードに運転経験の無い職員がついて行けるものでもありません。どれだけ精神的にストレスを抱えているのかも知らないのが現状。

実はカントー市とカマウ間では2021年から2030年までに必要とされる国家鉄道網計画に盛り込まれており、長期的ヴィジョンとしてこの区間で旅客と貨物輸送の需要に応じて実現するべきとの予想があります。この計画は提案によると175,2キロで、約160キロの速度を想定して電化された標準軌道を採用するとされている。予定では2030年までに第一期単線鉄道の工事が完了し第二期で全通するとしている、この工事費は第一期が71億6千万ドル、第二期が約19億ドルとなっているが、これまでの例が示すように将来にわたって工事費が膨らむ可能性があり甘い見通しと言わざるを得ません。
建設省はHCM市とカントー市間の大規模かつ相当の資金を擁する投資が必要な新プロジェクトに分類しており、実現可能性調査の準備を管理委員会に委託しているが、さらにカマウ間では一層の複雑な規模を考慮して投資家と詳細な情報交換が必要としています。
これらの建設に関しても、あるいは車両に運行システム等についても地場企業が単独で出来る技術やノウハウは全くありません。これをどうするのかに関しては一切触れていないのは何時も通り。結局は海外企業とのJVか技術供与に行きつくのだが、そう簡単に手の内を見せられる訳がありません。
この計画の前には、かつてフランスが植民地経営で得たメコン産のゴムなどの物資をサイゴンまで運んでいた鉄道の復活を行うとしていたけれど、この話は新線計画で消えてしまったようです。

・現統一鉄道の加速のためオーバーホールを検討

すっかり忘れ去られたような感じの現南北統一鉄道。しかしここに来て鉄道のアップグレードを検討しており、約1億7400万ドルをかけて列車の速度を大幅に向上させるとしています。これで乗客数が増え、過密な高速道路の負担を軽減する可能性があるするわけ。だがそう簡単に出来得るものか?
乗ってみて分けるけれど、外国人が観光で利用するには長閑でいいけれど目的が違うとなれば帰省するにしても殆どの人は便利で安いバスを利用するはず。
提案によると現在の速度を80キロ以上に引き上げれば乗客は50%増えると見込んでいるという。即ち現在ではこれよりも遅いというわけで、仮にS1という特急を通過させるために普通列車を離合のため、地方の駅に2~3時間も停車させるのが実情。深夜中にこれをされるものだから乗客は堪ったものではありません。これを聞きつけた村人が食べ物や飲み物を売りにやって来るのだから風物詩と言えなくないが迷惑千万。車内のアナウンスは全くありません。
なにしろ食堂車はない。あっても飲み物と弁当だけで、長時間の乗車では三度のご飯は乗務員が配って回る。それ以上は持ち込まなければ腹が減って何もできない。ベトナム人はこれを知っているからしっかり食料の準備をしている。
乗務員でさえ何時後続の特急が来るのかさえ分からないのだから無理はないけれど、サービスが悪いという以上にシステムが改善されていないのが現状です。

10年くらい前だったか、日本の商社がこの統一鉄道の鉄橋などが老朽化して危険ということでその修繕を受注したけれど、この鉄道の問題点は火を見るよりも明らかなのです。
そのボトルネックとは、駅舎の老朽化でありプラットホームもない有様で乗降はかなり危険、なれない外国人には苦痛でしかない。それ以上に大きな問題としてあるのが根本的に単線の狭軌であり、しかも鉄路が急カーブ、洪水の危険がある場所があっても対策は講じられていない。フエとダナンの間にあるハイヴァン越えは山海が迫る超難所、ここを縫って列車が進むが映画にも出て来るけれどバイクの方が速くて、列車はまるで牛の涎の如くしか速度を出せない。
そして旧式の部品が使われていることだが、これは交換以上にどうしようもありません。また駅間の距離が長く、日本の旧国鉄の地方など比較にならない。

計画ではこうした半径600メートル未満の急カーブ危険個所が14区間あり、直線にするとか、線路の延長と本線への分岐もあるという。また洪水が想定される個所では高架化を目指しこれが6,9キロ改善するなど、93キロの区間で構造的な改良を行う予定。これらが完成すれば平均速度が改善されて80キロを超えるとしているのです。
相すれば容量が副次効果として国内の物流の大部分を占めている南北間の容量が改善され、トラック輸送に頼る道路の渋滞緩和に役立つとしている。
この計画は今年から2030年までとなっており、資金は省から捻出される現在は承認待ちだが、過去10南件でも最大の改修工事となり、これで安全性と輸送量の確保が出来るとしているわけです。
だが、こうなると南北新幹線計画が急速に進んでいるけれど、本当に今、必要なのか?どれだけの資金を費やし、どれほどの効果が見込めるのか?そうした費用対効果の経営議論がなされずに、見栄だけで計画が進もうとしている実態を感じざるを得ません。

・鉄道・道路について中国との重要な合意があるのだが?

2年前にベトナム政府は中国と7つの鉄道と道路建設に関する協力文書に署名している。単なる閣僚では無く、署名式には中国共産党総書記である習近平が国賓として来越したベトナム国内で行なったものだから、今さら知らないとは言えません。
基本的には国境を越えたプロジェクトだが、ベトナム国内、ラオカイ~ハノイ~ハイフォン鉄道建設も現地調査と技術支援が含まれているため、このままではなし崩し的に食い込んでくることは見えています。これを逆らえるかと言えば先ず不可能でしょう。鉄道建設はまさに儀式の頂点であり、越中合同の鉄道協力委員会を設立するという目的が条項に入っているのです。

さらに道路輸送分野でも、国境を越えて交通インフラの整備に関して両国政府が共同で建設するという政府間協定を締結しています。これには人員、車両、建設機械、資材の移動に関する簡素化、ベトナム側の中国に対する技術的協力に関する覚え書まで含まれている。
当時の報道では、ベトナム北部のハザン省と中国雲南省が共同で国境を越えてインフラ案件を実施する法的枠組みを提供するとしている。これについてはご丁寧に貿易の活性化、物資の流れの円滑化、両国、両省に渡って夫々の国民の移動が増加し活発化すると礼賛しているが主導権は中国。
そして技術協力に関する覚書とは、工学基準の確立、新技術に新材料の開発、建設・保守管理の進展における協力を確立するとしているのです。
現時点で、南北新幹線、また新路線の建設、また南北統一鉄道の修繕に関して、中国側のスタンスは全く見えていません。地場企業の海外との技術提携に関しても振れていないのです。中国国内はそんなことに構う余裕もない、問題が多いというのだろうか。折角両国首脳が署名しているにも関わらず、国家事業になんらコメントが無いのも奇妙というか、不気味な感じがするのです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生