前回のコラムで、これからベトナムはFDIの質的転換が必要、という内容の記事を現地紙が掲載していたことに関連して、国内企業が抱えている問題点や課題について記し、さらに掲載された大学教員の提言にも触れました。
このHCM市経済大学のホアイ博士の開発政策は、人材育成が大切としており、教育改革もその一つだが、彼の考えは科学、技術、工学、数学が中心となり、吸収能力を高めて、ベトナム製品の生産能力を形成すべきと述べています。
要するに彼が何を言いたいのか?工業製品を自分達で研究して開発するという努力を求めずに、如何にして外国企業から技術を吸収する術を学べと云わんとしているようだが、教員として、むしろ人として、根本的にそのさもしく都合の良い考え方は間違ってはいませんかと言いたい。これでは成長も進歩もない。
20数年間現地を観て来た筆者にとって、また在住時に多くの起業に製造現場を視察して来て問題点を指摘してきた。また若い経営者とも問題に関して話を聞いてきたけれど、基本的に時間が経過しても中身は全く変わっていないとしか思えない。多くの経営者は時流が変化しても本気で自社の企業活動を見直し、ビジネスや教育の在り方を真摯に変えようと考えているのだろうか?と感じる。
日本から駐在する人も若返り、ベトナム人も2000年前後の国内の経済事情を知る者は少なくなった。成長の中で生まれた人達にとって、親の時代に経験した戦後の貧困の時代などどうでもよく、裕福に暮したいという気持ちは強い。
だが如何せん、多くの自国企業の経営能力は発展も進化もせず、未だ海外投資、海外企業の進出に求めようとする。だから何時まで経ってもアッセンブリーから抜け出せない。何がグローバル化、何処が世界のサプライチェーンなの!?
FDIに関しても基本的には歓迎であるが、質的転換とは、要するにベトナム企業が、また多くの経営者は海外企業から如何に先進技術やノウハウを得ようとするか、に力点を置いているだけで、真剣に自分たちで変えようとするとか、技術を自力で研究開発しようという思考や気概は見られません。いくら政府が主導してAI化とかIT化など科学技術国家を目指したとしても、単なる得意のプロパガンダでしかなく空論に終わるだけです。
そうなると頭の切り替えが重要で、もはや古い経営者や管理者に求めることが無理とするなら、もはや若い世代に期待するしかありません。そういう兆しがない訳ではないので、彼らには今が成長へのステップにあると考えて貰いたい。
FDIはベトナムの思惑通りに順調。国民も一見豊かになったし、地場企業も成長したけれど旧態依然で中小企業数は98%と目されている。マクロ経済数字や一部大手に惑わされてはこの国の真の経済実態、企業の経営実態を見失う。
・現地エコノミストが語る成長戦略に触れてみる
ベトナム投資発展銀行(BIVD)のチーフエコノミストであるリュック氏は、今年度に国内での成長を拡大したいと思うのならば、生産性向上と資源の効率的利用のために、信用拡大や資本集積で投資の拡大をする大きく依存する経営モデルから転換する必要があるとしました。
労働生産性は成長への重要な指標であるが、継続的に資本や信用の拡大に頼るものではなく成長の質が問題で、これを向上させ持続可能な発展の余地を創出するための基盤でもある。ベトナムは今、生産性の向上と財務資源の再構築をすることが課題。銀行は経済に資金を供給する立場にあり、大きな役割をして来ており、また成長に信用依存を強いる圧力をかけて来たが、今や資本市場、特に株式市場と社債を発展させ、長期資本として効果的に国民や投資家を動員することを提案している。これはすなわち資金調達チャンネルの多様化であり、銀行の負担を軽減し、安全で持続可能な成長を生み出すとしているのです。
ベトナム企業の株式だが、この多くは未だに創業家でもある経営者一族が資金を拠出して相当数の株式を保有、先進諸国の様な健全な状況にはありません。
急速に事業を拡大し、また分社化し、その経営を一族で行ない、株式は彼らが保有するという図式で、企業体が出来て新しいけれど急速に発展しつつある。
しかし所有と経営の分離が行われずに個人商店が大きくなっただけの話。大きな負債をかかえていて財務体質はこれで十分というのではなく、次から次への事業を拡張し様々な分野にこれでもかと華々しく手を広げている。ではこれに必要な経営資源が整っているかと言えばそうではなく、必要な技術もシステム、また生産に必要な設備や専門人材が居るというのでもない。全ては外国からの借りもので海外企業に依存する。では資金はと言えばグループ内の利益が出ている企業と経営者の手持ち資金援助という始末。透明性のある事業と言えない。
こうした実態を現地報は殆ど報じていないので、従って見せかけの数字に誤魔化されてはいけない。大手有名企業であっても未熟さが残り、単独で事業を行えるほど安定成長している所がそんなにあるとは到底思えない。
銀行にしても威張っては居られない。融資をするのに外資の現地法人にだって担当者は別金利。即ち賄賂を要求するし、まともな経営姿勢ではありません。
社債も不動産関係企業が多く、乱発で価格上昇の一役を担っている側面もある。
これが経済発展の一様なのかと疑問に思える。確かに社債発行は資金調達方法の一つだが、健全な財務体質であり、事業拡大が経営理念に沿って行えるからこそ安全に機能するのであって、其処まで納得できる信用があると思える会社は無く、歴史も浅く社員の定着率も良くない。本当に金が無いだけの話で償還するだけの安全性が担保できるのか疑問な企業があるのです。社債発行を何処の金融機関が引き受けられるだけの能力があるのか。
・ベトナム企業 FDIの下請けから脱皮し世界のサプライチェーンの中核へ
国内企業を取り巻く環境は厳しさを増しているという。今年になって7月までの期間、市場から撤退した企業は15万5千社を超え、前年同期より7,6%も増えた。一方で新設または事業を再開した企業は18万7千社を超え、7,5%増加した。これを毎月単純に計算すれば2万2千社以上も撤退している計算。
この殆どは中小零細企業で、資金調達、生産拠点、技術また市場へのアクセスに厳しいとしている。専門家はこうした企業を存続させるだけでなく大企業や外資系企業と繋いで成長させるシステムを構築する必要があるとしている。
また外国から投資を呼び込むだけでなく、FDI企業を通じ国内企業の技術力や競争力を高めてグローバルなサプライチェーンを築き、存在感を高める努力が必要だとする動きが強くなっているという。
しかし日本の中小企業の様な世界に通用する特殊な技術力や、真の職人として大手企業に勝るとか、最終工程を人間の手技で行なわなければ製品として出荷できないような状況にある所はない。だからこそ市場に新規に登場しても何ら成果が無く消費者から見向きもされないままに撤退を余儀なくされている。
また企業系列という組織形態が無い。これが正しいとは言えないけれど、この中小企業があるからこそ大手企業が存在する、という価値が見えないのです。
一部大手ではないが海外へ輸出を専門にする企業はあるけれど特別だし、また中小とは思えないほどの機械設備を持っている企業もあったが、経営者は海外留学しており品質を一番に考えているという経営思想や精神を持つ人もいる。
企業は工場内も綺麗だし社員・ワーカーへの待遇なども全く違う。全ての中小零細企業を一律に捉えても意味が無い。こういう企業は何れ独り立ちも可能で、真に支援するとか事業ネットワークを構築するなど考える必要があるし、反対に競争に勝てないままに事業が続けられない所が出て来るのは仕方がないこと。そこが資本の論理であり、資本や積年の特許に技術など積み重ねが無く、生き残れないのは、それだけ経営力に人的資源を持たないだけの話でしかない。
・生き残れる企業からバリューチェーンを担う企業へ 可能なのか?
ベトナムの企業は概ねこんな状況であるが、起業が多くて市場参入も多いのは良いことかも知れないけれど、一方で未熟なままに何とか成るという国民性もあるのでは考えられる。充分な資金、技術力や商品力があるというのではなく、アバウトさが滲み出ている。事前に市場調査することも無く、勢いでというのは大手企業でも同じ事が言える。それだけ企業観に乏しく、企業理念とか自分なりの商売哲学を持っているというわけでもありません。この様な状況にあるのがベトナム地場企業の問題点であると考えている。真の競争という事でなく、論理性に乏しく、マーケティングも無視。だから新規起業、撤退が多いのです。
だが国際市場で存在感を増している企業も出て来た。けれど大半は依然として旧態依然で成長をみせるが表面的で、グローバルチェーンへの参加も限定的であると報じているけれど、結構正当な評価をする人もいるものです。
国民大学のラン准教授は、ベトナム企業は単純な加工組立を担う一つの歯車に留まるのでなく、将来的にバリューチェーンに関わる戦略的パートナーへ成長する必要があると指摘する。けれどこんな考えは当然至極。何時かは抜け出せないことには企業存続の意味が無く、精密部品も造れない、ファインケミカルに不得意のまま現況では単なる願望。ベトナムの立ち位置に変化はありません。
競争力を得るためには単価の問題はあるけれど、品質の安定、信頼性や環境への配慮など社会性が求められる。株主への意識も必要だし、長期的な協力関係の構築など刷新すべきことは山ほどあるが、多くの創業者経営者は唯我独尊。
また日本の様な元財閥系グループとか、企業ピラミッドの様な形態は形成されていません。果たしてこの国でこの様な事業形態が可能なのか些か疑問だが、先進国の企業形態などを充分に研究して最適解とは何ぞや、と思考、希求する様にしなければ掛け声だけに終始します。大学では経営学を教えないのか?
そこで考えられたのが、大企業を育成の中核として、国内企業をサプライヤーとして周辺に置いたグループの形成であるとした。中小企業を低コストの供給先としての利用から、高コストサプライヤーへ育成し、技術移転で品質向上、情報の共有と共同での開発思考が必要だとしている。だが大企業も未熟であり発展途上にある。高品質なベトナム企業ブランド構築などやれるはずがない。
・FDI企業との連携が鍵となる
そこで目を付けたのがFDI企業との連携。書いてあることは特段問題だとは思わないが、国内企業だけでなくFDI企業との連携が不可欠としている。
今まではFDI企業を何処まで誘致できるかだったけれど、今後は国内企業の能力を何処まで高めることが可能なのか、が重要であるとするけれど連携とは利用するだけのFDI企業でしかありません。
さらに省や市単独レベルで外資企業の誘致を図ってきたが、今後は産業ごとにそれぞれ必要とする部門を軸にすることが求められるという。なんとも自己の勝手な論理でしかないのだが、技術移転、国産化率、地場企業との連携、国内で生み出された付加価値などが評価の対象とするとしている。
これまではFDI企業が中心で、グローバル・サプライチェーンに組み込まれており、地場企業はその外側の脇役に過ぎなかった。これを改革して投資額や投資案件だけでなく、如何にして地場企業と共に成長できるのか。これが評価されるべきであると謳っているけれど、単なるご都合主義であって、そこには国内企業の真の自助努力に拠る発展を考えないままのいい加減さ、でしかない。
・2030年までに国内企業1万社をFDI企業のサプライヤーに
ベトナム政府は地場企業に拠る主要工業部門での平均国産化率を、2030年までに45~50%に高めるとして、1万社およぶに国内企業をFDI企業のサプライチェーンに参加させるなんてムシのいい発想でしかない。
即ちベトナムに進出している世界的な有名企業などが必要としている部品とかサービス、技術基準などを具体的に把握し、これに対応できる企業を選定する。
このために資金、技術や品質管理、デジタル化、人材育成などを支援する必要があるとしているけれど、これから約6年先に果たして思惑通りに実行できることは可能なのか?専門分野での必要とする人材が現在でも大幅に不足しているのが実態であり、これに対する高等教育が遅れている。さらに教えることが出来る教員自体が足りず、目標設定は良いけれど、掛け声だけに終わるか。
現時点で地場企業が抱える問題点、企業数は多く起業も多いけれど、有機的に結合していないバラバラの状態。そして国内大企業の供給先としての機能を果たせずシナジー効果もない。外資系企業が必要とする原材料に部品、精密部品はこの国で調達不可能など多々あるが、これはとりも直さず供給先として考えられる中小企業は多いけれど、満足できるだけの製造能力がないからなのです。如何にしてこうした企業を育成するのか、これが極めて重要事案である。
また外資系企業にしても要求するレベルに達している品質や技術水準を満たすだけの企業であるのかを見極めることは非常に難しい。それだけ技術レベルにバラツキがあるのが実情です。企業情報が公開されていないのがひとつの原因であり、またこの様な信用や格付け調査が出来る状況にありません。
そこで相互に必要とする企業情報が分り、マッチングできる必要性が叫ばれているのです。外資系企業と国内企業の紛争を処理するために商工会議所が入るとか、あるいは調停する機関があるけれど多くの場合機能していない。外資系企業が勝ったとする事例はあったけれど、これをニュースとして報じて居た程。
要するに身贔屓とか実態が全く理解できていない。なので、事件や問題が発生した場合、正当に判断できるだけの調停が出来るだけの期間が必要と考える。
多くの地場中小企業の技術レベルは殆ど標準化されないままで、質問されると出来ます、また何事もやれますというけれど、これは自分なりに出来るということであって、相手企業が要求するものではないということが往々にしてあるのがベトナム。この様な不安を外資系企業にあるのだから、幾らベトナム側がラブコールを掛けても反応がないのはこうした状況が茶飯事であるからです。
これまで経済発展を外資系企業に頼ってきたベトナム。これに甘えて来た国内企業。今さらネ!と思わなくないが、ようやく気が付いたのか。であれば次の発展段階をどの様にしようと考えているのか、政府も経済界も明確にするべき。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生