FDIは転換期にある&新たな成長モデルに必要な条件とは

2026年10月9日(金)

・ベトナム経済は上手くいっているのか!?

ベトナムの経済成長は順調に推移しており、今年の第2四半期には前年同期比8,4%の成長、前年の7%を上回っている。製造業と建設部門が主要な原動力となっており、国内需要の回復も見られた。と地元経済紙が報じています。
さらに何と気の早いこと。来年の成長も楽観的に評価しており強い成長を背景に11%に拡大すると予測しているとある。この理由として貿易や外国投資をあげ、貿易において2026年上半期で2,665億ドル、前年同期比21%の増加。外国投資は346,5億ドルと前年同期比では615も増えていることを挙げているのです。これはベトナムが信頼できる投資先としての地位を強化し、製造業の活動を引き続いて魅力ある国として海外から評価されているのは事実であるけれど、地政学的及びサプライチェーンの変化が誘致の機会を得る能力にあることの証左でもある、とAFPが述べているという。

確かに数字の上ではアジアでも高い成長率を誇っている。また国内のインフラ整備事業をみれば急速に高速道路網が敷かれ、これまで難所であった峠越えや離島への橋梁架設、トンネル、国際空港の新開港、鉄道の計画も大幅に進んでいる。さらに物流面でも改善が見られるし、港湾整備も大きく改善されているのは事実。これらは地場大手ゼネコンが海外企業とJVを組んで得た先端技術の導入であり、また最新の土木建設機械を採用している事情に拠るものです。
都市では超高層アパート群が開発、このため不動産は高騰。国内は行政単位が整理され合併や再編成を実施、さらに国会では国の進むべき方針も明確にされ、そのために経済・金融に長けた実務派である若いミン首相が選出されている。
今年度には中所得国の上位にもなったけれど、待ち受けている「罠」に引っ掛からないようにするため、どのように政府は舵取りを行おうとするのか。
だが一見経済は成長を継続している状況にはあるけれど、経済成長は自国企業の自助努力による結果ではなく、これまで外国政府の支援と外国企業の投資と進出によってなされて来たものであり、表向きの華やかな生活実態とは裏腹に未だに路地裏の庶民の生活実態は変わっていない状況にあるのが真実です。
現地に住む長期在住者。彼の言に拠ればベトナムは本当に発展したのか?この四半世紀で真の経済発展したのか?と疑問を呈しています。給与も増えたが、ドルベースでは全く感じないし、VNDの流通量が増えてお金が増えた気になっているだけ。日本製品も簡単に手に入るしレストランの質も上がった。だが生活が楽になったとか豊かになった実感はない。裕福な家庭は昔からあったし、一部の資産を持つ人がさらに豊かになっただけとの感想を漏らしていた。

・FDI誘致は良好だが、成長のために地場企業の為すべき事とは

約30年間の経緯について、前のページにごく簡単に経済の流れを記しました。
ベトナムの成長発展はFDI企業によって支えられ発展してきたのが真相です。
ドイモイ以降外資導入しか生きる道が無いと積極的に誘致してきた。その結果甘んじた地場企業は、殊に国有企業は実質的な発展がなく、再編が進められて来たけれど員数は変わらない。即ち改革お題目で成果など出る訳が無かった。
海外企業とJVを組んだ製造業。土地と建物と工員を拠出。金なし、経営ノウハウに戦略もマーケティングも理解できず、品質管理は素人同然。新商品開発など無理な状況、驚くことにこれが2000年の初頭の実態であったのです。
物つくり国家を目指してきたけれど、その基盤となる裾野産業すら整備できないまま失敗。貿易黒字に転換したのもサムスンが携帯電話をベトナムで製造して輸出の後から。地場大手企業でさえ研究開発は不得意のままパンデミックを迎えるに至っただけど、ようやく海外留学組が一念発起して国産自動車開発?に乗り出し、また若い世代に交代が見え始め、この世代が海外留学先で学んできた先進先端技術を以って起業を始めた頃からだが、急速に変革が起きているのを見たのです。彼らの語学力と人脈を駆使した海外戦略も今後見物です。
COVID-19以後に生産拠点を中国からベトナムにという流れが起きたが、一部の外資系企業はこれに乗じたが、思いのほか成功とまでは行かなかった。これには心ある自国企業の経営者や一部のエコノミストなどが経済紙に語っているけれど、国内の基盤整備が充分でなく原材料や部品の自国調達が出来ない。要するに浮かれてはいけないと警鐘を鳴らしていたけれど、それ以上にR&Dの拠点が無く、多くの企業は外国の下請け的存在、要するに委託生産という、設計図に資材や原料を支給され、組み立てるとか製造するだけ役割でしかない。
精密な製品を造るというのではなく、例えば換気や冷房設備のない工場で靴や履物を作るが、揮発性のある接着剤を使うので工場視察をすれば頭がクラクラ、気分が悪くなるほどの劣悪環境にあった。これで若い人が良く我慢したけれど、現金収入を得る手段が乏しい地方はこれしか仕事がないとので有難いし、仕方がない。高度な知識や能力は不要。若い労働力が売り物、労働集約産業だった。
だが次第に海外に留学した人達が起業。幾つの企業の中には相手国で修得した語学力に誠実さや勤勉さを武器に、またワーカーに対する収奪を失くし厚生面でも改革していった企業が伸びて行く。こうした企業姿勢は部品製造を委託する外資系企業からすれば安心、信頼できると評価。増々仕事が増え高度な製品に成長して行ったが、そこには納期を守り、品質が安定して正確、など海外の企業が求める条件を満たしたことが成果に繋がったのだが、それ以上に真摯な態度とか誠実さ。こういう精神面で評価された結果、受注が増え、難しい問題には相手企業からの支援をあることが出来た。と経営者が話してくれたのです。

・体制が変わった結果

この先も海外企業の進出は続くであろうが、気になるのが現政権の動きである。
先祖帰りというべきか、2月の第14回全国共産党全国大会でも明確にしているのが社会主義国推進への動きであり、これまで経済発展のために、諸外国と全方位外交を進め、また経済発展を維持するために、積極的に国交回復に努め、FTAを進めて貿易を促進して来た。またTPP・環太平洋パートナーシップ協定にも加盟して地球の裏側に至る新規の貿易相手国も開拓してきたのです。
また書記長を始め親中派という印象が強いのだが、頻繁に両国の政府関係者が相互に訪問し、ラム書記長も共産党大会の結果を習近平国家主席報告に行く程に熱が入っている。だがこのためベトナム国内の鉄道インフラ整備を中国企業によって実施されることに決定。さらにベトナムに進出する中国企業が急速に増えているという事実、関係強化という名の別の側面が出て来る。
元々ベトナムの外交姿勢は何処でもいい。支援してくれる、資金や技術を提供してくれるならと全方位外交を展開してきた。世界的な最貧困国から抜け出し、国が発展するためになんでも吸収する形振り構わぬ姿勢であったとみている。

これまで日本は世界一のODA拠出国としてベトナムの発展に大きく貢献してきた実績がある。経済だけではなく、文化教育などに至るまで、毎年主席などが訪日して更なる支援を得てきたと云う事実もある。ところがこの処の傾向としてどうやら疎ましく感じているとする気配が濃厚。一部からはっきり雑音が聞こえて来る。繰り返しになるけれど、それは高市首相が5月に訪越した際、新首相であるフン氏の招待によるものであった。ところがその前に韓国大統領を国賓として招聘しており、その場で原子力発電などの重要案件に署名がされ等閑にされた。しかも安倍氏とは友人であったとか?この差は何なのか。
さらに高市氏の帰国後にはラム氏がインドを国賓として訪問することが既に決まっていて、充分とは言えない会談が行われたのです。要するに日本との支援関係はもう十分で、一つの要因として考えられるのが、日本企業の進出と利益、ベトナム地場企業にはメリットが無いと言いたそうな様子が記事に現れている。だが技術にノウハウ、資金が無い、専門家がいないという問題は国と地場企業の不甲斐なさ、何ら自助努力してこなかった報いでありまさに責任転嫁の極み。
もっと言うのなら経済発展を遂げられ、国民が豊かになったのは、西側諸国のオカゲでしかありません。先程のインフラ整備に関しても、例えばHCM市内で下水道を整備するのに処理技術は無かったし、市内の道路下に配水管を埋設するのにもシールドマシンが無かった。これはトンネル工事でも全く同じこと。
空港拡張にしても、高速道路に橋梁工事も全て自国が生み出したものなど一つもありません。従がって喉元過ぎれば、恩義など不要という国と国民性なのか。

・FDIは改善されたのか

即ち外国の直接投資だが、ベトナムは未だに積極誘致のヒモを緩めていません。どころか今まで以上に投資を歓迎するというのが意向の様で、コロナ禍が終わっても省が単独で日本で投資セミナーを開催。国内ではこれでもか、という位に新規の工業団地の造成が進んでいる。もはや便利な大都市近郊や大空港とか港湾施設が近くにあるという訳でもなく、考えられなかった地方の村なので、果たして生産人口が集積しているのか?と思えるような地域で開発している。
さらにこれまで操業してきた工業団地は期限が50年。本来ならば返還ということになるけれど、具体的な条件は未だ決まった訳ではないのだが、もし延長となればそれなりの金銭的要求があってしかるべきです。
早くに進出した外資系企業は当時入居が殆どなく、かなり有利な条件とか破格の税制の優遇措置がありました。従がってこれには多くの日本企業が応じた。だがジャングルを埋め立てた結果、充分な水抜きが出来ず(知識が無かった)ため、工場内の厚いコンクリートが割れるなど大きな障害に見舞われた。このような悪条件を克服して日本企業は事業を開始したが、古い工業団地では既に40年を超えている。因みに入居からカウントされるのでなく、工業団地側がライセンスを得たからであるため、思うより早いので準備を始める必要がある。
多くの進出企業はそう簡単に早期に黒字に転換できた訳ではなく、相当の期間を要している筈。追加投資が出来るほどもうかっているのなら誠に結構だが、でなければどう結論を出すべきなのか、検討を行うのがいいかもしれません。

さてこの外国投資だが、最近ベトナムの地元紙には、誘致は依然として良好であるが、外国企業と国内企業との繋がりは緩いままとある。要するに接点などなく国内企業にとってメリットがないと云わんばかりの論調です。
身勝手と言えばその通りだけれど、ベトナム企業にとって成長を促進するためには生産性、イノベーション、国内資源の価値向上に焦点を移す必要がある。
としているのです。この言葉の本当の意味が分かりますか。
記事にはFDIは過去数十年に渡って経済再編に大きな成果があった。同時に資本、労働力、アウトソーシングに大きく依存する成長モデルの限界も露呈したとあります。要するに地場企業は外資系企業の下請け的存在であり、労働力を提供するだけの役割。部品や資材などは相手企業から渡されて、モノを造るだけの労働集約的産業から抜け出せなかった。先記の様にこれに甘んじていたので、自社で製品を開発するとか R&Dを行えるだけの企経営能力は無く、今や大企業になったVINでさえ、車の製造には設計からデザイン、生産管理、部品調達、試験に至るまで技術にノウハウが無く、全てをアメリカやイタリアなどの外国人技術者に頼っていたに過ぎません。

・大学の教員に拠る提言 この人ビジネスの現場を知らないのか?

この様な状況から、HCM市経済大学のホアイ博士は世界金融危機後に労働力が農業から製造業やサービス業へと転換する過程で、生産性が著しく低下する中で、ベトナムは重要な転換期に直面しているとしました。
今さらこんな事を言うけれど、既に10年ほど前から世代交代が起きており、海外に留学した優秀な若者が起業、海外にも支店や事務所を持つまでに至っているビジネス実務事情をからすればこの考え方は随分と遅れています。

ベトナムが製造した製品の輸出はこの30年間で4倍に成り、2017年以降はマレーシアを抜いてASEANのトップになったとある。しかし国内で創出される付加価値は十分に見合っていないともいう。即ちFDIは堅調だが国内企業との分離は依然としてある二重経済のままだと指摘しているのは正しい。
要するに国内企業は未だ加工と組立が続いたままで技術の普及はされていない。とも書いて切るけれど、今に始まったことではなく、では誰の責任かと言えば政府と国内企業自体に問題がある。先に書いた通りで国内企業が自助努力なしに海外企業から技術やノウハウ移転を求めるけれど、タダで取ろうというのは些か度を越している。要するに甘えの域から出る気持ちが無いから始末が悪い取り分け中小企業では、付加価値と雇用に於いて遅いと指摘しており、博士は2050年までのベトナムの成長について、2つのシナリオを提示したのです。
現状維持のシナリオ。では制度改革や強力な成長モデルが無いとすればGDPは年間4%増に留まり、中所得国の罠に陥るリスクを抱えるとしている。
改革を採るのなら、年平均7,7%に引き上げることが出来ると試算している。
そしてこれは2045年までに高所得国になる目標を達成するため重要な道筋であるというのです。このシナリオを完成するためには単なる資本の誘致だけでなく、高品質な資本へ流れを変え、技術の吸収にはデジタルインフラ、生産プロセス、管理能力のアップグレードが必要であり、このためには国内企業の吸収力と習得能力が必要になるというが、この意味はどういうことを指すのか。
此処でも感じるのはあくまでも他力本願でしかなく、これまでの屁理屈と全く同じ。どの様にして企業として自主的な経営能力、組織力、管理能力、開発力を持つための努力を示唆しないのかである。これに関しては先進国の成功事例は幾つもあって分からなければ初めは真似をするだけで十分だし、自国なりの改善改良を加えればいい。また革新力が中核の推進力となり、研究開発を促進して国内で創出する価値を付加。国内企業がグローバルなバリューチェーンの高い段階に参加できるよう支援をしなければならないとも書いている。
ベトナムの大学教員でもあり、しかも博士なんてこの程度のレベルという露呈でしかありません。日本の経営系学部の学生なら卒論で簡単に書ける内容です。

・多くの外資系企業はベトナムへハイテク投資に注力しているのが実態

統計局に拠るとベトナム北部はFDIを強く引き入れており、年初8カ月間でこの地域は172億ドルと推定され、前年同期比で12%増加した。これは過去5年間で最大。その中で製造業が占める割合は約86%で引き続き主導的であるが、北部への投資をみれば顕著な例があり質的な変化をみるという。かつては労働コスト、土地の価値、地理的要因など限られた地域が有利だったけれど、外資系企業が要求する産業エコシステムに応えられる魅力がある。このため、CP、電子機器、光学製品が最も資本を投入している産業で70億3千万ドル、総FDI企業の生産する66%に達した。特に電子機器分野の投資は前年同期比614%にもなり、これは半導体など付加価値の高い大規模プロジェクトの投資が進んでいることを示している。これ等は産業サプライチェーンに波及効果をもたらし、様々な分野、原材料、部品、金型、設備、物流、技術サービス、人材供給サービスなどネットワーク化され、更なる共振効果もありさらに多くの資本の流入が可能になる訳だが、本当にそういう状況にあるのか。
一つの大企業がこの地域に生産拠点をつくるとそのサプライヤーが続く傾向にある。これは重要な事であるが、新たな競争が生まれ、其処には安定した電力、高度な技術人材が必要で、これまで以上に工業団地の賃料や労働者の賃金以上に企業としての経営力や資質、研究開発力、さらにスタッフへ福利厚生などが重要になってきます。しかしベトナム企業はこの価値を本当に認識して機会に参入できるのかであり、ベトナムにとっても規模と量、労働集約的な誘致から脱皮。外国企業の投資、効率、付加価値を見極められるかという大きな転換期にあるという訳だが、地場企業が世界レベルに達していないのは明白な事実。

・ベトナム企業は先端技術に遅れをとっている

長きに渡ってベトナムは外資系企業の投資と進出誘致に成功してきた。しかし国内企業はこれに見合った形で発展してこなかった。余りにも企業能力が低く、品質基準、技術水準、資本力に管理、企画能力、さらに基本的な戦略構築に至るまでギャップが大きすぎた。要するに土地と建物、人の供給が限界だった。
これからは、如何にして多くの外資系企業を呼び込むか、では無く、どのようにベトナム企業の層と質を上げるか、に尽きるとある。
そのためにインフラ、物流、エネルギー、サプライチェーンのネットワーク化などの整備が重要であり、半導体や精密工学、電子機器分野で技術系高等人材に専門家など生産ラインを運営管理できる優秀な人材獲得競争がおきます。
ではベトナムは外資系企業が必要とするこれらを整備できるのか。地場企業が要求に耐えられるだけの技術系の高等専門人材や高度な仕事ができるワーカー、スタッフを教育し提供できるか。この機会を失えば科学技術国なんて夢の夢。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生