日本はベトナムに追い付かれるぞ というコラムがあった

2020年12月17日(木)

ベトナムから見ていると、日本の流動性は低いのが最大の欠点、と書いてある。
これに反してベトナムは開発途上国で、全ての面で整備が遅れている。しかしその様な社会では人々の起業意欲は高いし、流動性も高い。としています。
だから日本はベトナムにも追い付かれ、中国にも負け、アジアの目立たない国になると予言していましたが、聊か理解不足であります。
この方はベトナム企業の顧問をしているとありますが、現地事情を知らない方へこの肩書で発言。何でも分かっているとでも言いたげなのでしょうが一般の日本人は会社の存在すら知らない。新聞等で報道される確かに経済成長している国という印象はあっても、記者でさえ地場企業の真の実状を理解できているかと言えばそれは殆どありません。そんな容易に人脈には深く入り込めない。
先ずは流動性という言葉の意味とは何か。要は人の動きだがこれが問題。精々2年程の顧問の様で、具体的な統計には触れておらず、経済実態が解っていないし、格差の激しい本当のローカル現場を隈なく知っているとは思えません。
ベトナム人の企業意欲が高いのは事実。今年1~9月の新規設立企業が統計ではCOVID-19の影響があったものの、大から小まで98,954社(前年同期比で3,2%減)。一社当たり登録資本金は平均144億VND(14,4%増)となっていて、若干数減少だが資本金は増えており健闘しています。
若い人の企業意欲が高いのは、一国一城の主として小さくても自分の会社や店を持ちたいという気持ちが強い。地方から出てきて一生懸命働いてもHCM市では生活が出来ない。家賃や食費は高く、一人では生活できないため一部屋を数人で借り、順番で食事を作るのです。これは学生も同じで中心部から離れた郊外で棟続きの安き粗末な平屋を借りての生活なので殆ど残らないのが現実。そういう環境ゆえに、仕事や学業を終えてから夜に学校へ行って語学や会計などを懸命に勉強、少しでも給料の良い所に行きたいと頑張っている。
私が在職した日系企業のスタッフ。現在は会社で仕事をこなす傍ら努力して始めたコーヒーの製造販売とCaféを数店持つ。知り合いの日本人の店で働く女性もハングリーさを糧に夜に日本語と会計を勉強して資格を取得。資金を貯めて家を購入。他にも目的を持って独立を目指す人も居たほどです。
HCM市にある若手の企業家が参加するビジネスグループ。此処でも多くの人がミーティングに参加する。私も何度か同席して、日本とのビジネスの考え方などを話したことがあり、実際に起業力や意欲の高さを間近に目にします。
しかし多くのローカル現場で起きていることは、私の体験にも依拠しますが些細な理由で転職が多い。専門性は無く経験も能力も浅いけれど、目先の僅かの賃金の差でも即事に辞めて他業に転じてしまうほど無責任過ぎるのが現実。
まだ日本語を充分に解せる人が少ない時期、ある企業が女性の辞意を説得して元の鞘に収めた事があります。翻った訳は会社が賃上げに応じたため。理由は金が欲しいからで仕事が好きとか、性に合っているとか、人間関係がどうこうではありません。こういう自分の思想や職業観を持たない単純な人はまた辞めて行く。気儘転職を繰り返す現象を流動性があると誤認、これは勘違いです。
戦後の混乱が長く続き、ビジネスの歴史が浅いからとする現地の要職者も居るが、彼らの事情は日本人の多くが持つ、仕事への矜持や姿勢とは相当異なる。
地場企業はさらに悲惨。態度が悪く少し叱られるともう出てこない。そのまま連絡も無く消えてしまう。公私混同が激しく我儘、自分勝手で仕事に取り組む意欲が低く気概が無い。テトの長期休暇は帰ってこない者が多いのは年中行事。
日系や現地の大手企業に勤務する優秀なベトナム人材の多くにこのようなことはまず無いが、ワーカーも彼らが居るから離職率が押さられる。正当な評価と昇給昇進処などの処遇は日本がグローバル化を進めるうえで大切なことです。

いつ日本に追い付くかは書いていないが、彼が顧問をするという新興グループ。ベトナム初の国産車を製造したとあるが、デザインに設計からエンジン、部品まで殆どが輸入。単なる組み立です。これはベトナムの工業製品の多くに共通することで、この理由は部品産業、素材産業が成立していない、この一言。
先進工業国の基本的定義は工作機械が造れること。日本の先端ロボットの工作機械のシェアは世界一。またスマホなど部品を造る機械や製品なども設計から製造まで真似ができない。ベトナムは精密部品が造れないため輸入しかない。
これには積年の研究と基礎力、日本人の緻密で正確さと品質を重視し、社会や消費者に満足を提供するという精神。国民的性格はそうマネは出来ません。
農業分野ではベトナムは世界一や二位の生産高を誇る農産物があります。だが米を例にとると、日本のようなブランド化が出来ず、高級品種は無い。今年にベトナム米が世界で評価されたとするニュースがあったが、未だに量を考えるが質まで考えない人が多い。実際は海外に留学して、博士号を持つ多くの優秀な先生はいるが研究体制は貧弱。日本からの顧客をアテンドしたがプロが実態を見ると取引までには至りませんでした。また加工分野は遅れていて海外へはブランド化できずにバルク輸出。付加価値の無い実態が解消されていません。
要するに戦後に産業を復興する段階で工業化や農業近代化に失敗。海外投資に頼った経済成長を続けており、さらなる投資を要請していて自助努力は疎か。
そうなれば自主開発など出来ず、安易に技術供与を求めるだけになります。
目安の一つは教育の質、世界大学ランキング。日本も順位を下げているが此処は1000位までにさえ入れるのは少ない。また全体に亘るR&Dとその状況。
目立った国内開発はなく、成果が出るまで今後に相当の努力と期間が必要です。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生