シンガポールの統合型リゾート(IR)について(3)/ギャンブル依存症対策とその成果

2020年1月5日(日)

IRの導入には、前回お話ししたとおり、経済的な効果があります。
一方で、IRはカジノを含むため、負の側面も懸念されます。
今回は、シンガポールが取り組むギャンブル依存症対策とその成果について、ご紹介します。

ギャンブル依存症対策

シンガポール政府は、ギャンブル依存症に対するセーフティーネットとして、さまざまな対策を実施しています。以下に、主なものを示します。

◆国民・永住者への入場料の賦課

シンガポールのカジノ施設は、自国民(永住権保有者を含む。)に対して、1日150シンガポールドル[日本円換算で12,000円(※)]という高い入場料を徴収します。
一方、外国人は無料で入場できます。
※1シンガポールドル=80円で換算

◆入場排除プログラム(Exclusion Program)

ギャンブル依存症に悩む人やそのリスクを負いたくない人は、本人、家族または第三者の申請により、カジノ施設への入場を禁止または制限することができます。
さらに、生活保護受給者、自己破産者、低所得者向け公営住宅の家賃滞納者などは、該当する事由がなくなるまで、自動的に入場が禁止されます。
入場排除プログラムは、一連の対策の一環として設置された専門機関「国家賭博問題対策協議会(NCPG)」により実施され、世界的にも注目されている取り組みの1つです。
2018年末時点での入場禁止者は、本人申告が約36万人(うち外国人は約32万人)、家族からの申告が約3,000人、対象事由に該当する禁止者が約4万人となっています。なお、外国人の本人申告が多いのは、就労時に申請を条件にしている企業があることによると考えられます。

◆国内でのカジノ広告・宣伝の制限

国内の特定エリア外でのカジノ広告や宣伝は禁止されており、一般国民がカジノに触れる機会は最小限に抑えられています。

◆現金使用の原則

カジノ施設内では、信用貸しは禁止されています。また、銀行ATMの場内設置も禁止されています。

対策の成果

NCPGでは、3年ごとに国民の賭博利用状況(競馬やtotoなども含む。)について調査しています。その結果、ギャンブル依存症対策の導入により、ギャンブル全体の依存症患者の割合が減少傾向にあることが分かっています。
また、カジノ設置後に観光客数は大きく増加したものの、設置前と比べて顕著な犯罪件数の増加はみられていません。

シンガポールでは、IRの開業により、観光客の誘致、税収の増加に成功しつつも、包括的なギャンブル依存症対策を講ずることでIR導入当初に懸念されたマイナス面を克服し、IRのプラス面を引き出してその恩恵を手に入れています。