昨年も順調に経済が成長したベトナム

2020年3月21日(土)

新年(新暦)早々、日越友好議員連盟会長で自民党の二階幹事長が千名の使節団を編成。日越文化経済交流団長としてダナン市・クアンナム省ホイアン市を訪れ、ODAやインフラ整備、民間投資等11の覚書を締結しました。兼ねてよりフック首相が要請、今年1月6日、ダナン市に領事事務所を開設したのを機に、日本とベトナム相互の人的活用交流や経済を促進するのが目的だとか。
1月11日~14日までの日程で、国会議員20名も同行したとなっています。日本側からすると、新春の幕開け初仕事。ベトナムは旧暦なので今年のテトは1月25日。ベトナム側にとって正月前の仕事納めと前哨戦。何しろ正月明けにはナニかが起きますが、これが引き金となって良い結果が出れば大成功だが。
12日は現地招待者100名を招き交流会、13日には日越観光シンポジウムが現地のコンベンションホールで開催。また日本とベトナム投資促進セミナー、ベトナム人材活用セミナーや、知事交流会、訪日旅行商談会と盛り沢山の催し。
ダナンは中部の要衝。日本から直行便が飛び、近年かつてフランス人保養地だったバックマー(白馬)や高級リゾートの観光開発が進み、日本と深い関係にあった歴史の街ホイアンにミーソン遺跡、古都フエ等にも近く便利で見所満載。今年トリップアドバイザーに拠る世界一の旅行先トレンドに選出。クアンナム省は首相の出身地、気を利かせた訳でもないのでしょうが最初の訪問地に。
近畿日本ツーリストの募集要項をみると、すでに昨年11月には終了となっており、如何にバックと看板が大きいのか盛況ぶりが窺えます。費用は関空から213000円となっていて、一人部屋は38000円追加。実質現地2泊で一部観光も含まれるがどう見てもかなりいいお値段。これがビジネスに結び付くならば安いもの。要は日本へ観光に来てくださいというミッションですが、17日発表日本政府観光局発表の昨年度ベトナム人訪日数は495100人。前年比27、3%増と毎年大幅に更新、伸び率も国地域別で1位のお得意様。
一部の富裕層や経営者などは年に数回も来日する位、親日度は高くチャンスがあると言えます。日本には四季の風情があり、どの地方の自然も街も美しく、南国育ちは雪を見たくて冬に来る人も居る。食べ物は美味、精緻で綺麗な製品はリーズナブルだし安全安心の高品質。歴史と伝統的異文化や、おばちゃん・おっちゃんの心根優しい琴線に触れ、その魅力にとり付かれてリピーターに。ハードより古来の生活文化と、ご縁ある出会いが為せるワザ、旅の醍醐味です。
これまでに何度か知人友人が来日。楽しんで頂けたのですが、一般の人はビザを取るのにも一苦労。旅行会社のツアーであれば難なくビザをとれるのだが、今後個人旅行が増えるとなればそういう手間を省くのが旅行者を増やすのには効果絶大。お出で・おいでもいいけれど、制度改正が一番の得策。
この様な中、昨年のベトナム経済統計(速報値)の幾つかが発表されており、これに拠ると、経済は順調に成長していることが数字の上から感じられます。
また複数の機関の調査によると、ベトナムへの高い評価や進出意欲は未だ強く、米中貿易摩擦問題がベトナムにとって今や大きな追い風になっている事に違いありません。だがこの問題が長引けば世界経済に及ぼす影響をベトナムはもろに受け、弱点である加工輸出主体の産業が持続可能か、海外投資が継続するのかなどの疑問はあって然るべき。さらにアメリカに対する極端な貿易不均衡が及ぼすと考えられる制裁リスク(課税や為替管理、迂回輸出)を孕むにしろ、経済成長は続くものと予測できます。
しかしアメリカに対しての輸出トップで大幅な貿易黒字、この状況が無ければ経済の好調はあり得ない。中国は反対に輸入トップで大赤字。原材料・部品など製造の根幹を依存しており、中国無くして産業は成り立たず、積年の恨み辛みがあっても呪縛から抜け出せない。さらに行き場がなくベトナムに頼るしかない韓国。その20%以上に及ぶ携帯電話に支えられた輸出構造は諸刃の剣。
巨象2国に板挟み状態は悩ましい限りだが、これまで掻い潜って来たしたたかさと忍従で乗り切る強さを持って対応可能。それにしても温なしい我が日本。
データを読み解いてみますが、詳細は3月~6月頃に日本大使館やJETROのページに、ベトナム統計総局の発表に基づく統計資料が掲載される予定です。

1、ベトナムへの評価レポート

ベトナム国営ベトナムの声放送VOV5に拠ると、世界フォーラムが発表した世界競争力レポートに、ベトナムの競争力は世界141か国・地域中67位と昨年より10位上昇したとの記事を掲載されています。
この理由として、世界経済が米中問題で混とんとするなか、各国の企業は成長を続け賃金や労働力などにメリットがあるベトナムへ生産拠点を移転していること。またベトナムは積極的に海外投資を受け入れ、各国各地域とのFTAを締結していることを挙げています。これまでFTAを締結した国・地域は14となっており、さらに3件の交渉を続けています。
その効果は、例えばカナダに前年比27%、メキシコへ28%輸出額を増やし
TPP11の加盟国全てにおいて黒字となっている事で証明され。さらに地政学的な位置は、アジアや中東・アフリカへの重要拠点となり得るとしています。
また日本国際協力銀行は昨年12月、日本企業による調査を公表。これに拠ると、ベトナムは中長期的な有望投資先として3位となり、昨年より順位を一つ上げたとあります。1位は中国、2位インドとなっており、タイは一つ順位を下げて4位。以下インドネシア、アメリカとなっていますが、この先10年の長期見通しでもベトナムは3位と優位性を保持していると評価しています。
この要因は中国からの生産移転先として魅力がある事。また成長が続いている理由はお馴染みの現地マーケットの将来性、安価な労働力、優秀な人材の3点を挙げて期待している訳です。だが移転増は先取りの結果とする見解もあるし、楽観を許さないとする向きもあり、他社との激しい競争、労働コストの上昇、管理職クラスの人材難、法制度が不透明、部品産業未成立が従来から課の課題。
あと何年かすればベトナムを追っかける他の新興国にトレンドが移る可能性も否定できません。さて歴史の繰り返しを予測し、どの様な対策を講じるのか。
外務省の海外在留邦人数調査統計2019年版に拠ると、好調を裏付けるべく
ベトナム在住邦人数は22、125人(世界15位、前年より28、1%増)となっており(2018年10月1日時点)伸び率は最大、かつ国・地域別では4859人増とアメリカに次ぐ増加数となっています。なおHCM市が11、581人(30、6%増:世界都市別22位)、ハノイ市7、752(24、2%増:同31位)に躍進していることから成長の度合いが感じられます。
1990年頃、HCM市に在留邦人が約300人、ハノイ市は僅か30人ほどであった時から見ると、ほぼ30年の間にベトナムの成長に呼応して日本企業の進出が増加。在住者が此処まで増え、さらに増加する傾向にあります。
 
ベトナムの統計から

①安定した経済成長の継続と 増加が続く人口及び労働人材

統計総局に拠ると2019年度のGDPは7、02%となり、またCPIは2、79%と政府の予想範囲に収まったとしています。また貿易黒字は約112億ドルに達し、海外送金も167億ドルと過去最高額を記録。結果は通貨VNDが米ドルに対して2019年年初~12月末は僅かだが28VND値上がり。また外貨準備額は800億ドルと史上最高額に達しているため通貨は安定しています。これは昨年200億ドルのドル買いをした経緯もありますが、5年前に比べ倍増。10年前は考えられなかった位、落ち着いた様相を呈しています。
経済が好調である事は、ベトナム企業にとっても海外進出機会を増やす結果となっており、昨年認可を受けた海外投資は新規+追加193件・5億100万ドルに達し、第1位のオーストラリア(5460万ドル:30%)を始めとし32か国へ拡大しています。分野別は卸売・小売が1億2160万ドルで最大、24%%を占め、農林水産が8610万ドル(17%)、科学技術が7010万ドル(14%)となっており、年々増加傾の傾向にあります。
国立社会経済予測センターは、2021年~2025年の年平均成長率を7%としますが、これは政府が積極的に進める2国間経済連携協定の成果であり、昨年EUとの締結、さらにTPP11による新規市場開拓先への輸出増などに繋がる一層の期待感が強く表れていると考えられます。
昨年4月1日に実施した国勢調査で判明した総人口は、9621万人であり、10年間で1000万人増加した事が判明。これに拠り世界15位の人口規模となり、さらに毎年100万人ほどの自然増があるため2023年には1億人を突破することになると推測でき、これも評価を上げる要因となっています。
所得向上と人口増が進み、国内経済は順調に伸びており、産業構造と消費性向にも変化が起きている中で市場が拡大し、内需が進むならば、輸出主体によるものでは無く、より安定し確固たる成長が見込める可能性が出てきます。
また労働人口(15~65歳)は68%で、約6540万人、昨年16、5万人(海外派遣14、8万人を含む)の新規雇用創出が発生したとしています。
このため失業率は3、12%まで下がり、所管官庁である労働傷病兵社会省では目標を3、5%上回り、さらに少数民族などの就業支援を行うとしています。
このような安定した労働力供給が継続するため、外国企業のベトナムへの生産拠点移転やローカル企業への人材供給は当面の間可能と判断されますが、反面65歳以上が7、7%となり、高齢化の波が見えてきていると報道されています。
国内経済が好調なのは、HCM市での昨年の求人数をみると分りますが、32万人の求人があったと言います。また同市内での新規企業設立は9、600社、全国でも13、8万社・5、2%増加。資本金額も1社当り約600万円・17%増えて若干規模が大きくなり、起業意欲は相変わらず旺盛です。
海外労働者派遣(労働力輸出)も12万人の目標を22、8%超過し147、387人と6年連続して10万人を超えました。この中で日本への派遣は8万人と2年連続トップ。昨年から労働力確保のため一部の業種で特定技能制度が実施されましたが、47、750人の予定数を大きく割り込み僅かに376人(法務省・9月発表)と遠く及ばず拍子抜け状態。またこの先安定して実習生が確保できるのかとの疑念が出ています。現地の派遣元はあの手この手と苦心しており、人手不足に悩む日本側にも新しい動きが出てきています。
先記の「日本ベトナム文化経済交流団」でも知事交流会が開催されましたが、昨年熊本県、鹿児島県が現地の提携している省と覚書を締結。業者任せにせず
優先的に人材を派遣できる様に知事自身が行動開始。双方にメリットがあり、安全で安心して働ける環境を整備するなどの配慮を講じるとしています。続いて神奈川県、栃木県、群馬県、今年に入ってからは新潟や山梨などの県知事が直接現地入りしており、人材獲得競争がし烈になって来ている印象があります。

②外資系企業の進出と投資の概略をみる

昨年海外からの対ベトナム投資(認可額)は約380億1900万ドルで前年比7、2%の増加。また実行額は203億8000万ドルと6、7%の増加。
新規認可件数は27、5%増加して167億4560万ドル。追加認可件数は
23、6%増の58億0230万ドルと好調に推移しています。
国別では韓国がトップに返り咲き79億1700万ドル:21%。2位は僅差で香港の78億6862万ドル、3位シンガポール45億0171万ドル。
昨年トップであった日本は41億3760万ドルとなり4位に後退しました。
地方別の投資は1位ハノイ市が84億5469万ドルで22%。2位HCM市82億9541万ドルと鼻の差。3位ビンユン省の34億11281万ドルとなっています。
しかし昨年度1件当たりの認可額は、前年から減少傾向にあり、これは小規模投資が増えたことに依るものです。また香港が2位になった理由は、飲料企業BEERCOがベトナム・ビバレッジ社に38、5億ドルの大型投資を行ったため。また一昨年日本が1位になったのは住友商事のハノイ市でのスマートシティー開発案件、約41億ドル(1位)の大型案件があった要因に依拠します。
中国企業の進出も増加傾向にあり、上期にはバクニン省で電子通信機器の工場建設、タイニン省でタイヤ製造工場の大規模投資がありました。これ等は米中貿易摩擦の影響とも言われますが今後の動向に注視すべきです。また既存工場は国内向け、ベトナム進出は輸出向け、との棲み分けをしている状況もあって、必ずしも中国経済が減速したという説は正しいと限りません。さらに他国に比べ中央直轄市より地方省への進出が多い、大企業よりも小規模事業という特徴があり、M&Aも行うが表面に出ません。また香港等経由で投資する事もあり、今後は一層の進出・投資があるとの認識は間違いないと考えられます。
他国も同様に第三国経由で投資を行っていることから、公表される数字だけで絶対的に真の投資実態は把握できません。

③輸出入とこれまでの系譜も

昨年の輸出額、2641億8900万ドルと前年比8、4%、輸入額は2530億7100万ドル、・6、8%の増加となりました。この結果111億8900万ドルの過去最高の貿易黒字を記録しました。
輸出品目別で金額が最も多かったのは携帯電話・部品513億7883万ドルで前年比4、4%増加。これに対して輸入額が最も多かったのがコンピュータ・電子製品・部品の513億5137万ドル、前年比で19、1%増加しました。
ベトナムの輸出入に関してですが、僅か10年前の2010年の数字を見ると、輸出1位は綿製品、2位履物、3位水産物、4位原油で、5位に電話が出てきますが金額は35億90百万ドル(5%)。また輸入は1位機械、2位鉄・鉄屑、3位石油、4位織布・生地、5位電話関連部品で52億09百万ドル(6、1%)です。この2010年は輸出が721億97百万ドル、輸入848億01百万ドルで、126億09百万ドルもの赤字という状況でした。
黒字に転換するのが2012年のこと。毎年の高インフレが収まりかけ、通貨VNDの下落も安定し始めます。過去には貿易赤字になると為替操作でVNDを切り下げる、こんな事が多くありました。
黒字の主要因は携帯電話輸出。2013年に初めて輸出1位となり、黒字化が始まります。もっとも統計上でこれが初めて表に現れるのは2004年から。この年には6億58百万ドルとなっており、15年間で約72倍に成長。現在輸出1位となり、爾後続けて増加の一途を辿っています。
この辺りは近年ベトナムへ赴任する方にとっては、意外なこと感じられたり、勘違いされたりするかもしれませんが、実際にベトナムが成長段階に入ったのはわずかこの数年というのが真相です。またこの頃から、日本が投資を担い、輸出においても1位の座にありベトナムに大きく貢献した時節から、アメリカの大消費に支えられる輸出の構図に変換して行く時代に移ります。
ベトナム戦争に傭兵を送り、焼き討ち殺戮強姦など悪の限りを尽くしたのに全く総括しない。事実を知る時の同盟軍だった元南の軍人からも未だに嫌がられ、平和条約締結が遅れた事に拠り、後塵を拝した韓国の投資が急速に増えたのもこの頃から。今ベトナムを抜きにした経済は考えられないほどの生命線(輸出過大)とは何とも皮肉な事。昨年サムスンの工場でベトナム人女性社員が労災死したのだが、これに対して会社は補償しなかったとするニュースがあった位、上から目線のブラック本質が現われるのです。
巨大工場を建設しまさに世界の携帯電話やスマートフォンを造り出すのですが組み立て事業。高度な精密部品は此処で製造できないため輸入しなければなりません。社員も労働力を売るだけの単純作業。収入は得られるけれどこれでは職人文化も育たず裾野産業など構築できない。政府が韓国に進出して欲しくて優遇措置の要望を飲み込んだ結果だから何も言えない。外資企業の輸出割合が70%を越えるという超弱点をどう改革するのか。成長が続けば新たな産業に変換される。この先の産業構造をどの様に変えるのかで国の将来が決まります。数字の中身を検証せず、表面だけの判断では見誤ります。

④その他

ベトナムは観光にも力を入れており、日本などへノンビザも促進のため。
観光地や宿泊、飲食業も整備されこの分野の伸びが期待されるところですが、外資系は単独投資が出来ません。
外国人観光客誘致1000万人(GDP比10%を目標)と言いますが、昨年1800万人達成。1位中国580万人(16、9%増)、2位韓国429万人(23、1%増)と日韓関係の問題もあって急増。3位は日本の95、2万人(14%増)、台湾、アメリカ、ロシアと続きます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生