美意識と根気 ものつくりには絶対に不可欠な要素

2020年10月15日(木)

日本の技術力と品質の高さは一体どこから来るのか抱いていた疑問。訪日して現場を見聞、ようやく謎が解け納得したとする海外記事を目にします。
国内には日本の製品とよく似た商品名を付けて偽物を売る企業がある。しかし使ってみるとてんでいい加減な代物、騙された。真似るのは自信が無いため。日本製が高品質で信頼できると主張する中国メディアの憤懣の記事が出ていました。

新しく開店した散髪屋に行ったときのこと。理髪鋏の髪を切る音が心地いいと思っていたら、なんとこの鋏の話題が偶然にも記事になっていたのです。
一般人が直接この鋏を買うことはないため、どの企業が造っているのか関心も無い。しかし実際にはひとつ10万円もするけれど世界に輸出され、理美容師に愛用者が多いという。他にもカミソリも6万円台とかだが、これでなくちゃ、刃物だけに引きも切らない評判。一旦使えば虜になり他の物は二度と使えない。客も仕上がりに大満足、固定客が付く良き循環となる。会社名よりニワトリ印、という呼び名の方が親しみやすく有名だとか。製品にはこれが刻印されているが恐ろしいまでのブランド力です。

記事ではこの鋏が愛され親しまれる理由が、日本の物つくり精神にあると達観。
揺るがず、浮かれず、絶えず進歩を続ける特質があると説明。またこの会社の職人は徹底した手作業、機械で加工するだけでは絶対に不可能な切れ味を追求しているとベタホメ。このためクオリティーが高いと紹介しています。
だがそれだけではなく、会社がことさら宣伝することなく、営利追求を最優先にせず製品そのものを心から愛する謙虚な姿勢が感じられる。故にそれが滲み出ているから世界の顧客に愛されると結論。真の強い企業とはこうあるべきで、顧客に愛される製品は確かな土台を持っていることを強調しています。

何年か前、HCM市の展示会に兵庫県三木市のメーカーが在住の経営者に招かれて来越。この時に披露したのが植木鋏。もちろん手仕事の優れモノ。決して安くは無いがその切れ味は音もなくス―と紙が真ふたつになるほどの威力。
この三木市特産のルーツは、かつて御庭番として将軍に使えた忍者の末裔とかいう説もあり、飛び道具が時代に即さなくなったため鍛冶のワザを活かし農具や刃物などを作ったというほど。
さらに日本刀の歴史は人を切る道具から美術品に。この製法は海外に無く日本独自のもの。そういう伝統と精神を複合した技が現在に活かされているのです。
このニワトリ印の職人は現代の名工と表されるほどの技術を持つ。しかし実力の割には事業規模が小さく、またむやみに拡大する考えも無く地に足が付いた経営をしている。此処に日本企業の美意識を発見したと驚くのです。
ではこの人々を魅了する美の源泉はと言えば、日本人の国民性にある。何事も真剣に取り組み、細部までおろそかにしない所から湧き出すもの。妥協を許さず徹底的に心の限りを尽くす精神から生み出されるとします。真剣という言葉。実は日本刀から来ており、切られる覚悟で一所懸命に仕事をするとの意味。
一人一人の職人。小さな工房、大企業に至るまで品質向上に取り組むとあり、ノーベル賞をとれるのはこうした下地があるからと評しています。

日本では多くの職人はその道一筋。れっきとした職人文化が根付いている。
中国は多くの人が自分の仕事に疑問を抱き、転職を繰り返してこそ豊かになり人生の選択肢は増えると考えがちとの指摘をしています。これはベトナムでも全く同様。前職から考えられないほどの異なる業種に何度も就くことが多く、これではプロとしての矜持も技術も身に付かない。従って先進工業国としての自主独立は遠く、物つくりの原点である裾野産業、即ち部品産業は発展しない。以前ベトナムに職人が居るか?というコラムを書いたが、経験上処遇ではなく、飽きっぽく我儘身勝手で育てようにも居付かない。職人が名声を得られるとか、評価される国は日本とドイツ位という所以です。
また工業製品だけではなく、飲食やサービス産業、芸の道までも範囲は広く、職人気質という言葉にある様に頑固で融通の利かない偏屈者が技を伝承、新たな工夫を加えまたとない作風を完成、社会から正当に評価され叙勲もされます。
しかし、このひとつの道を極めるのは容易ではなく棘の道。匠と言われるまでには長年の修業が続き、私生活は制限され序列も厳しい。忍耐と根気が無ければ続かない。バカみたいな働き方改革など日本の将来を暗くするだけの愚策。効率や利益だけを追っかけるなら真の物つくりなど出来ない。
日本には高い技術を持ち世界的大企業を凌駕する小規模経営の企業が沢山あることを外国人は不思議に思う所。1つ1つの仕事を大切にして、専門性が高く真似のできない製品に特化する町工場の存在は際立ちます。
有名大学から勢い入社や大手企業からの転職もかなりある。人のやらない事、大企業では出来ないこと。例え所得が下がってもやりがいを求める人も多い。
ハノイにある物つくり大学。元パナソニックの現法社長Fさんが、長年掛けて政府と協議を続けやっと築いたもの。履修後は全員が見違える位に変身。素質はあっても環境や教育が整わないから伸びないだけ。
最終仕上げは東大阪の町工場視察。技術以上に大切なのは気概。これを身に付ければ強い。こんな支援も日本企業はしているのです。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生