ベトナムの不動産近況 市場の捉え方 見極めは現地の人でも難しい

2021年2月16日(火)

・ひとつの不動産過去例 目先だけ見てはいけない

ベトナムの不動産市場は活発と言えます。経済は成長段階にあり、資本と地場企業・外資系企業、さらに人は地方から都市部に集中が続いている。
市は人口が飽和状態になっている為、アパートの開発・建設を事実上規制する方向で許可をなかなか出しません。このため住む処がどんどん郊外へと展開。
並行して道路・交通インフラ整備が急速に進んで、市中心はビジネス、近郊は住宅と棲み分けも出来つつあるように思えます。
1990年代後半、7区にある広大な住宅地、フー・ミー・フン(PMH)は国内で最初に行われた大規模で本格的な都市計画に基づいた開発地です。
外国人が問題なく住める様に様々な利便施設や商業施設などが整う近代的開発、これには豊富な経験と実績を持つ日本の丹下健三設計事務所も参画しました。
だが20年程前。HCM市民は4区を越えた8キロ先の二つ川向う迄バイクで30分ほど掛り、何ら施設がない所まで行きたくないと当初分譲したアパートや分譲用地はなかなか売れませんでした。分譲価格はアパートが1㎡500~600ドル前後、土地1㎡500~800ドル程だったとの記憶です。
ところが開発が進むにつれ、また最初の不動産バブルが起きた2007年頃には最高3倍まで値段が上がり、売れば譲渡益課税はなかったため、差額はそのまま手元に入る勘定です。現在はこの時分からさらに2倍とかの値段になっていると聞きます。しかしアパートの多くはスケルトン販売のため、購入時には内装や設備費等は別途必要となるので注意。

・新しい市が誕生

HCM市は、私が二度目に9年間住んだトゥードック区をHCM市の付属市にさせることになり、政府の許可も下り2月に実施されます。
近々に開通する地下鉄一号線は、市内中心部からこのトゥードック区を通ってスイティエンまで行きます。主要道路であるハノイ道路には並行しているのでこの駅周辺部には開発が集中。高層の巨大アパート群も続々と完成し、町並みは田舎町の様相からどんどん変化。価格も利便性から高騰しています。
また国家大学・HCM市人文社会科学大学が此処に全面移転する計画があり、さらにこのエリアをIT化、AIの研究拠点などにさせる方針があるため、今後さらに急速に進化発展してゆく可能性があります。
こうなると、不動産価格はどうなるか?知れたことで、その兆しが出ています。
かつては旧国道一号線A(現Pham Van Dong通り)が走っていて、これに国鉄の線路が並行、上空は飛行航路になっていて、列車の汽笛や飛行機の音が聞こえる地域でした。だがこの辺りは低湿地で水はけが悪い。また狭くて未舗装の細道(Hem)が入り組んでおり、周囲には地方から来た低所得層が多く住むのが特徴だが、物価は安く結構住み易いのが取り柄。日本に難民で来た知人はその昔、土地を㎡百ドルで300㎡購入、母親が一人家を建てて住んでいる。
後に新国道は市の外周に造られ、多くのトラックなども中心部を通らずに工業団地やメコン地域へ進み徐々に廃れます。
だがタンソンニャット空港から国道一号線・農林大学が交わる地点まで道路が一部新設と拡幅された2014年頃には高層アパートが建設され始めました。

12年ほど前、私の居た家の土地価格(P・V・D通りに並行するKha Van Can通りから少し入ったHem)は1㎡800~1000ドル程でした。
先のニュースが出てきてから途端に値段が上がっている状況。10年ほど前に新幹線の駅か車庫が出来るという話題(取りやめ)以来だが、今度は本当です。
またこれまで湿地帯で人気がなかった9区もこのトゥードック市に入ることになり、兼ねてから私はHCM市で最後に残された宝の地域と言っていたのが、現実になったのです。

・先の見通しと 改善されていない様々な問題

HCM市は何処もあまり変わらない、と思うほど町並みに大きな違いは分かりませんでした。慣れれば何処を走っているか分りますが、市民の生活圏と移動範囲は広く無いため、よく道を聞かれるのです。地図はあっても読めないので北か南か、西か東も良く解らず、反対方向に来ていることも結構ありました。

都市化が進展し、これからは更に地域の様相が変わるに連れ住宅地のレベルが一層明確になります。長く住んで市内の歴史や状況を隈なく知り、地政が分らなければ状況が見えて来ません。増々専門家が必要とされる筈です。
今は不動産鑑定価格も出ていますが何処まで信じていいのか分らないし、今後
どうなって行くか概要は掴めても、ピンポイントでは難しい判断になります。
開発や都市計画図はありますが、一般には公開されず民間では殆ど分りませんから、誰もが分る様にすることが求められます。
こうなるとこれまで見向きもされなかった不動産に価格変動が起きる可能性もあり、事情をよく知った人に頼らなければなりません。
また全ての面で不動産関連の資格はないので、申請や登記にしても法整備を図り制度化しなければ利権に繋がる。一部の人間が得をする状況を変え透明化し、知識や経験がある人がいて、安心できる取引が可能になる必要があります。

市内一区のサイゴン川対岸、貧困層しか行かない地域に移転した知り合いが居ました。だが今では開発の目玉地域。此処が地上げで問題になり、市が解決金を払い数十軒が移転する事になるトラブルがあるほど開発事業は不透明です。

先の7区やトゥードック区・9区もそうだがこれまで殆ど開発から遅れた地域、広いほど新興産業や先進的な生活の場が出来る可能性は高く、これは万国共通。まだまだインフラ整備は進み、この線上とターミナル周辺の面が狙い目になるのは必然です。また人口増加、特に地方からの流入が続くし、外資企業に拠るサプライチェーンの生産拠点がベトナムへ移るのが明確になりつつある。
そうすると経済がさらに活性化、所得も増えてインフレ率も高くなります。
こうなると不動産価格が高止まりどころか、上がる気配が濃厚というのが一般的な観方ですが、どの様に変わって行くか分らない点もまた多い。

本来不動産は必要な時に買って、必要に応じて売る。これが適切な売買ですが、そうならないのは、日本のバブル期もそうだったし、韓国の不動産価格急騰も同じで止められず、投機に向かう。だが上がり過ぎれば何時かは急速に下がる可能性も。経済状況、人の動向や思惑、心理がそうさせます。
まして此処は社会主義国。何時、何が、どの様に送るか分らないのが懸念材料。
この様な事を思料しながら、安易な妥協や性急に事を運ぶのは感心できないと思えます。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生