ベトナム初の地下鉄 開業はまたまた当分お預け

2021年12月31日(金)

ベトナム初となるHCM市の地下鉄開業が宙に浮いているとの報道。リニアでは無いから浮く訳などないが、文字通り地下に潜ったまま出てこられず完成は闇の中。見通しは全く明るくない。

日本のODA、円換算で工事費約2100億円の巨大インフラ・プロジェクト。
工事は2012年に着工し、2018年には完成する?はずであったのです。
このため、観光客に人気があるベンタン市場前のバスターミナルは無くなり、HCM市のヘソであるグエン・フエ通りとレ・ロイ通り周辺には、工事用養生鉄板が張りめぐらされ、これまで馴染んできた街の姿はすっかり消えてしまい、建設を進める日本のJICA、施工する清水建設・前田建設工業JVのロゴに日の丸が描かれた説明看板が掲げられていました。
仮設ゲートが開かれると大きくあいた開口部から土砂が揚げられ、ダンプカーがこれを積んで出て行く。この時、ユニフォームを着たガードマンが安全確認をする。その後に清掃員が箒で掃き清めて水を撒く。全く日本のやり方。こんなことは現地のゼネコンはやらない。あぁ~ 流石日本のゼネコン。もちろん地場の建設会社が入っているが、ベトナムの土木はそんなに強くはないから、悪いが門前の小僧のような感じ。もっとも地下鉄工事など初めてなので自国で施工とはいかない。シールド機械もなく知識もない、施工方法が分りません。
おまけにHCM市はサイゴン川のデルタ地帯。即ち沖積地なので超軟弱地盤。地下工事は簡単でなくトンネルを泥の中で抜いて行くようなもの。経験が無ければ対応は不可能。ヘタをするとこの工事現場のすぐ近くで実際あった話だが、ビルを傾けてしまう二の舞となります。
とはいえ地下部分は市内の一部だけで、郊外は高架を走るのです。

6年ほど前から国道一号線に並行して高架と駅舎も造られたが持ち腐れ。辺りは高層住宅が雨後の筍の様に建設され、筆者の友人も駅近くのアパートを購入。道路整備も進んでおり価格は上昇する一方。良い時に買ったね、と話が弾んだものだが、開業は期待通りに進みません。
用地買収の問題と工事費の支払い遅延が問題となって完成は伸び伸びとなり、何とか今年末の予定となったのだが、またもや2年以上先延ばしとなる。

2年前の10月、そろそろ開業ですね、と現地の知人に聞いたらおもむろに、さあ、何年かかるかな!と驚きもせずアキラメの極致。こんなもんですと先を読んでいた訳です。
この理由。当初の工事費の3倍に膨らんだことが主因。都市交通インフラ整備は重要案件。年々人が仕事を求めて地方からHCM市に集中し市域は拡大する一方なのだが、タダでさえ移動の手段はバイクに頼っている。おまけに車も徐々に普及し始め急速に渋滞が酷くなっている。もう待ったなしの状況が続いていたのだが、解消するには都市交通手段を大量に人を運べる電車と、駅を基点としたターミナルからのバスに拠る移動でなければ限界。
だがそこへ経済成長が土地の値段を上げる要因になり、労務費や資材高騰が重く圧し掛かり上がり方が尋常でなかった。見通しを見誤ったと考えます。
其処へきて今回の長引くCOVID-19感染。資金が続かないことが輪を掛けた。
これは今回の地下鉄だけではなく、ハノイでも完成が土地収用で4年遅れ韓国の現代建設が130億円の損害賠償をハノイ市に請求中と強気。他に計画されている路線も必至。また新エアポート建設も今後に問題となる可能性が高い。
プロジェクトをバンバン立ち上げるのは良いが、事業経験や裏付けもなくやるものだから頓挫するのは火をみるよりも明らか。資金はODA頼みとかBOT形式。安易すぎやしませんか。

日本は先の日本のゼネコンだけではなく、ベトナムで開発コンサルタントとして定評のある日本工営はじめ、住友商事、三井住友建設、車両は日立と鉄道関係企業が総がかりの事業。
大阪市や東京都などは、電車を運転したことが無いベトナム人の運転手育成を行なうなどの支援も行っています。高速に慣れていない、停止線に間違いなく止めるとか、時刻に正確に安全運行するなど、これまでのベトナム国鉄の状況からすれば課題があり過ぎた訳で何かと世話を焼く。
車両はすでに2020年10月から納入が始まっている。船積みされて陸揚げした時はようやくこれで、なんて思ったが案の定というやつ。デザインや車体のカラーを市民にアンケート、開通に期待が高まったのに、やっぱり!と落胆。
日本のゼネコンだから工事遅延はほぼ考えられない。これが地場ならば何時になると完成するか?端から当てにしていなかったが、思わぬ伏兵がという次第。
2019年10月、HCM市に滞在し校友会に出席した際の帰り、偶々近くに宿舎があると言うので後輩に送ってもらったのだが、彼女の担当はこの日立の地下鉄車両。まさか此処まで長引くなど想像しなかったでしょう。
17両編成・51車両の他、信号システムや受変電設備を受注している日立。ベトナムが出来ることではありません。

以前に当時の大使が、支払いできなければ工事は中止すると、とまで未払費用の支払いを政府に書簡を送るほど異常さ。ここから一歩も前進していません。
問題はこの地下鉄開通が大幅に遅れているとするインフラ整備だけではなく、外資系企業の投資への信頼度が揺らぐ可能性が大いにあります。
今回のCOVID-19感染で俄かに浮き彫りになったのが、サプライチェーンのベトナムへのシフト期待。これがどうやら雲行きが少々怪しくなってきています。

日本のように地方自治体や地方議会だけでどうなるものでは無く、ベトナムは政府が舵取りするので、責任の所在がややこしくなる。誰かがトカゲのしっぽになるが、自ら進んでなんて誰もする筈がないのです。
しかし明確な打開策を講じなければ計画性や資金の無さをあらわにし、信用を失う結果となり、次からのODAが得られないことになる。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生