テト後 多くの企業では人材需要が急激に増加している

2026年5月21日(木)

毎年テト期になると頭を抱えるのが人事担当者。さて帰郷した工員のうち何人が仕事に戻ってくるのやら? 今では地方にもスーパーが進出し、通販も全国的に普及しているので昔と異なって随分便利になった。欲しかった商品の殆どはリアルタイムで手に入る。だが都会に憧れ働きに出る若者は多く、田舎に戻るとなれば友人や知人と会うことになり、久し振りの再開に喜び旧交を温めます。
酒食が入ると話が盛り上がってくるけれど、話題の中心は何処で働いている?給料とか待遇は?となる訳で、隣の花は赤く見えるもの。そこで少しでも給料が良いとか、支給される食事の内容が良いとなれば、私も同じ会社で働きたい、ジャ!うちに来る?と即刻話が纏まる。かくして何の連絡もせず辞めてしまうが会社には何かを置いている訳でもなく、さりとて恩義など全く感じないのでいとも簡単に次の職場に移る。こういう状況の繰り返しなので、テトに支給するボーナスをテト後にするとか、帰郷する際は会社が手配したバスに乗せるなど涙ぐましい努力をしている。もっともこれは現場作業が中心のワーカーの話、近年は地方にも外資系工場が出来ているので家から通えるし、現金収入は毎月あるなど農村で働く環境や事情は少しずつ変化してきているのが現状です。

・現地労働事情 人出不足は深刻なのだが

現地経済ニュースに掲載されたのが、テト後に多くの産業が労働力を渇望すると予測されるという記事。これに拠ると内務省はテト以降の人材の需要が引き続き増加していると発表。工場などがある生産地域では企業は年初(テト明け)の数カ月間に生産を増やす計画であると報じています。
今年第1四半期の予測では、雇用者数は前の四半期に比べ約30万人増加する可能性があり、雇用者数は5380万人に達する見込みとか。この数字は労動市場が回復していることを示しているとするが、数字ではなく労働の質が問題。
産業構造の面からすれば、食品生産と加工企業で生産が復活して需要の伸びが予想され、輸送関係は2,6%増加した、この2分野が最も人材の需要が高いとされるが、特段高度なスキルを必要とするものではありません。反対にたばこ産業など喫煙の流れの中で採用の必要性は低下する一方で、人を減らす傾向だとし、化学関係、機械や設備の修理・保守・設置業など業界でバラバラのため必ずしも需要が順調ではない。最も人が集中するのはサービス産業で40,8%、ベトナムも経済が成長し可処分所得も増え豊かになった証拠。産業構造に変化が表れ第三次産業が台頭したので、この業種で人の需要が急速に大きくなった。次いで二次産業が33,8%、一次産業の農林水産業が25,4%とあります。
月額の平均収入は従業員で870万VND、前の四半期からは3,9%の増加。
しかし問題がない訳ではなく、昨年度の最終四半期には失業者が784,000人記録され、完全失業者数は170万人で失業率は2,22%にもなっている。
これは農村部よりも都市部の方が多いが、農業従事者は減少しているからです。
また大卒以上で19,2%あり、低能力労働者は実に61,2%と多くこれらの人には研修が必要だとする一方、企業には実際のニーズに合った雇用の創出を求めているのだが、これは単なるミスマッチだけではなく根本的に教育制度によるものであり、また地域や所得格差の結果であると考える。さらに産業構造が変わりつつあるけれど、この時代の変化に対応できないのも理由の一つです。
しかし製造業にあっては海外企業の進出もあって採用は増加、並行して製品の高品質化などで工場勤務者のスキルもアップされているという。この様に人材の質は重要であり、雇用機会を増やすため、労働市場で持続可能な成長をするためには変革なくしてベトナムの全産業は真の活性化など出来ません。

・根本的な問題とは 現場の生の実態とかけ離れている

政府が掲げるグリーンビジネス、DX化、脱炭素ビジネスに原子力発電、AIにIT業界、R&Aなどで必要とされる研究職、開発職の高度人材はこの国で極端に不足しており、どちらかと言えば社会科学系人材が中心を担っている。
また2月にはHCM市でベトナム初の金融センターが開所されたけれど、この金融に精通し国際標準で仕事が出来る人、この様な人材を養成していかなければ何時まで経っても労働集約産業国家、即ち外国の下請け企業国家のまま推移するしかありません。かといって、もの作りの国家、要するに裾野産業を成立させて真の工業先進立国を目指したけれども中途半端に終わり、製造に必要な精密部品は造れない、人は育たないままに海外へ若い労働力を派遣し資本投資の必要無くして外貨を稼ぐなどもっての他、なのが分かっていません。

将来を見越した国家戦略は徐々に具現化しつつあるように感じるけれど、花火を上げるのが上手なのは確か。だが高等教育機関でも、取り分け工学・機械、科学・化学・物理学など理系専攻課程の内容は先進国に比べて貧弱で、教える側の教官も決して能力的に優れているとか、足りているものではありません。
海外で高等教育を修学する人は増えているけれど、国内でこうした人材を育成するため、何が必要で何が欠けているか本当に理解できているか、政府にしろ、産業界においても見直すべきだろうと考えます。必要な高度な技術やノウハウは進出外資系企業の供給に頼ろうとする思考では国家そのものが成長しないのが本当に分っているのか。イデオロギー優先で得られるものなどありません?
共産党大会で掲げる様に、真の産業国家として変身、本当に国民の幸福を希求する積りであれば、為すべきことの優先順位は常識に範囲で分かると考えます。
雇用動向レポートでは今後数年間のベトナム労働市場は新たなトレンドで構成されるとあり、これは労働者や企業にとっても大きな課題になるとする。
まさに全てが過渡期にあって先進国に追いつきたいがため産業構造を変える中、フリーランス労働者も対象となり、創造的な業種や、高度な情報処理技術者等もこの範疇に入るが、これは企業にとっても有益で、柔軟に専門的スキルへのアクセスを高めるだけでなく、収入の安定、福祉、ロードマップ面で従業員にも挑戦させて、長期的なキャリアアップの開発が展開できるとしている。
AI活用で高速かつ連続的に採用、データ分析、自動化に関する職種、サイバーセキュリティは急速に普及するが、適切な人材は極めて限られるとしている。

・テト後 HCM市で人材を最も渇望している業種とは

テト以降、HCM市の労働市場では企業が生産を加速、人材はゆっくりと回復してゆく中、需要面でどの様な予測が出来るか。経済ニュースに拠れば、テトが終ったあと生産とサービスのローテーションが加速すれば、HCM市の労働市場では新たな人材不足のサイクルに入る可能性が高くなるとしている。
例年の如くテト期間中は経済が動きません。テト需要は一時盛り上がるけれど、中小零細企業から個人店まで殆どの事業体は長期休暇に入り、この時期の売り上げは極端に下がるのです。終了後に企業は注文を再開、一挙に生産を拡大してサービス活動を強化することになるが労働供給量は回復しません。帰郷したスタッフや工員が戻らず、品質と技能面でも戻ることが出来ず、これは製造業、物流、サービス・貿易、技術産業部門でもみられる一大イベントなのです。
また労働需要は供給を上回り続けており、テト以後は人材不足が顕著となり、HCM市雇用サービスセンターの予測では、昨年のデータとこれまでの複数年のサイクルから、2026年の労働市場は需要が供給を上回るというシナリオを持って臨むとしている。昨年は企業の必要とする労働者は31万3千人以上であったけれど求職者は19万1千人に過ぎなかった。この大きな原因の一つに挙げられるのが、3地域の無理な合併、即ち旧HCM市、旧ビンユン省、旧バリア・ブンタウ省における産業構造に拠るものであると考えられるのです。
HCM市はサービス、金融、貿易、物流、観光や宿泊飲食、小売り、ITなど情報分野の役割が明確になり、テト以降は消費が回復し、サービス需要も活発化するので人材は様々な業種で不足する。また2030年までに技術、高品質サービス、加工産業を優先する経済発展する計画がある。だが人材供給面では短期の職業訓練を受けた労働者は8,02%と低く、45歳以上の労働者が39,135人(20,4%)、女性は54,4%。企業は単に人出が不足というだけではなく、実務的なスキルや技術の経験、また労働の習慣、シフト制勤務体系を必要とする職種にあって熟練労働者が足りないという問題に直面しています。
特に象徴的なのが鳴り物入りの金融センター。国際的に通じる業務遂行能力とセンスを要求されるけれど、この国では始まったばかりの業種。さてどれ程の経験と高度な知識に教養が備わった人材が居て、近代化を進め、世界の先進国に追い付けるだろうか。次いでダナンでも稼働するが勝負のしどころです。
採用ではオンラインがトレンドになりつつあり、昨年は76%の企業がDXを通じて採用したとあり増える傾向にある。労動者側も必要とされるスキル以上にこうした時流、ビジネス環境の変化に適応できるだけの競争力が求められる。
旧ビンユン省では依然として未熟な労働者のホットスポットであり、昨年には約8万人の未熟練労働者と2万5千人強の専門職が採用されたけれど、外資系の製造工場が多いためこの傾向はこのまま繰り返されると見ています。
旧バリア・ブンタウ省は、港湾関連産業が活性期に入っており、港湾サービス、物流、運輸、倉庫が活性化。約5万9千人の専門職が採用されている。今後も先の業種に加えて、新しい海洋工学、海洋観光分野で高度な知識と経験を持つ有能な技能職の需要が高くなっている。
人材の割合としてあげられるのは、単純労働が約40%、技術職約23,2%、貿易・サービス約9%、金融・不動産約6,3%、行政・法務約5%、IT関連約2%、教育関係約2,6%、医療約0,3%とされています。

・求められる人材の質 基礎・応用力に欠け専門性が不足

ベトナムの労働(者)市場は人材が全体的に不足しており、雇用機会は概して拡大していると言える。しかし問題は人の多い少ないではなく、時代や企業が要求する人材の質、適正な能力が伴っているかであって、政府も企業も充分な教育・育成を行って来なかったツケが回って来ていると感じるのです。
何度も言うけれど、海外への労働者派遣など愚策。若者に高度な教育を施し、世界各国から戻って来ていない人材の国内回帰を、充分な待遇を講じて実施しなければと思える。だが現地の生活や仕事に馴染み、家族が増えたのなら殆どの人は帰国など考えず国籍を取得しており、現体制下では難しいかも。
さらに産業構造を変えようとしているが、必要とする専門技術職や研究開発職は極端に足りていないのが現状。これはHCM市だけではなく、他市や他地域を含め国全体の問題とするべきなのに怠慢であった。外国政府や外資企業に依存する構造的体質を変換、自国で帰結するだけの責任ある努力と施策が求められると考える。生産性を上げ高品質な製品を供給するために何が必要か。これはビジネスにあってはマナーやセンス、製造部門は品質と行程管理、販売では一連のマーケティング、管理では財務経理、技術部門ではR&Dに遅れが目立つ。また一般論として独自の創造性、企画力、さらに専門分野へは情熱をもって取り組み挑戦する姿勢。先ずは意識改革をする気概が必要と考える。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生