ベトナムの薬局(町のくすりやさん)とファーマシー

2020年12月7日(月)

この所ベトナムの近代的ファーマシーが急速に成長。日本からマツモトキヨシも参戦を発表しています。この話は後に置くとして、これまでの一般的な薬局とはどのようなものか、現地の状況を見てみます。
HCM市内や地方都市でも彼方此方に薬局があり、ニャー・トゥック(NHA・THUOC)と看板に書かれています。またトゥック・タイ(TAY)と書かれている所もあり、トゥックは薬、タイは西洋の意味。これに対し漢方薬はトゥック・バック(北)と呼びますが敢えて言うなら中国漢方、ベトナムの漢方薬はトゥック・ナム(南)だが双方あまり見かけません。なおHCM市5区には漢方薬鋪が多い。

ベトナムの家庭では救急箱を壁に掛けてあり、何種類かの薬品類を入れて間に合わせるのは日本と同じ。昭和の時代、家の一部を店にした町のくすりやさんが其処かしこにあった様に、此処ベトナムは未だに多く約4万店あると聞く。
違うのは、例えば風邪だと言い、症状を伝えれば幾種類かのカプセルを小袋に一回分を入れて2日間程度を調剤、飲み方を教えてくれるのです。医者に行くほどでもない、医者代が勿体ない、強いて言えばバンドエイド1枚でも売ってくれる位だから重宝する。ベトナムならではの事です。
また少々大きめの薬局ではカウンター越しに薬棚が設置してあり、健康食品やビタミン類なども販売している。客はバイクで乗り付け、ヘルメットを被ったままで白衣を着た店員と会話をして薬を買い求めるのが日常の光景。
中には、カウンターではなく、ガラスの仕切りをする所があって、昔の国鉄の切符売り場の様な形で現金と品物を交換する薬局があります。これは盗難防止のためで、被害に遭った所ではやむを得ない策(柵)。視察に訪れた日本の大手薬局、ファーマシー、薬品会社の若手経営者は驚きの目を隠せません。
勿論、薬剤師の免許が要ります。しかし実のところ私の友人などは名義借りで営業したと打ち明けたことがあるほどで、素人がやっている所もある。
すでにやめたけれど、懇意にしていた卸問屋があって、年に一回開催する薬局を集めたパーティーに行きました。各地でレストランを借り切って豪勢な食事。優秀な販売店を表彰して賞金と賞品。豪華景品を競ってゲームをさせるなどの販促をしなければなりません。かなり儲けたのを機に、経済成長で個人事業の限界を感じた気配もあって、盛んにアメリカへ移住したいと話していました。
ある時、日本の会社をアテンドして幾つかのこうした問屋を回りました。薬品以外に日本製などの医療機器も輸入して販売している。だが多くの病院は仕入れルートがほぼ決まっているため新規参入はかなり難しい。言下には地縁血縁社会縁での忖度や上下関係で、金品にものを言わせるが避けようもありません。

・ファーマシー

日本風にいえばドラッグストア。外国人が日本土産に神薬を買うなど、ありとあらゆるものがおいてあります。日系のココカラファインが店舗を構えたのが8~9年ほど前だったか。薬局が多く並ぶ1区のハイバーチュン通りと、7区のクレセントモールにこういう店が出来た時には、ベトナム人が驚きました。綺麗で開架式棚には薬品や雑貨など商品が沢山並べられオシャレ。何しろベトナムではニセ薬に機能性健康食品が多く密売されていて危険。公安とインチキ薬局とのバトルが話題になる。所でこのココカラさんもマツキヨに吸収とか。
2011年に初進出のオレンジの看板、香港のガーディアン。60店舗ほどを展開。健康と美容アイテムが多く、いつの間にかココカラを抜き去りました。

ベトナムの医薬品市場は年々拡大。2018年には約53億ドルで、来年には77億ドルになるとの予想。さらに26年には161億ドル市場に成長するとの見方。このため日本や韓国などの医薬品企業がマーケットを求めて資本参加や企業買収を行っており、この後も加速するものと思われます。
1人当たりの購入額も2017年の統計だと56ドル。これが年間二桁成長を続け、2025年に163ドルになるというのでは市場参入と開拓は当然です。

・国内薬局チェーンへ地場新興企業参入だが

ベトナムは経済成長に伴って所得が向上。また生活様式の変化などで糖尿病など疾病の事情が変わって健康志向が高まりを見せ、このため医薬品だけでなく健康食品やビタミン類等の売れ行きが急進している。町の伝統的な個人経営のくすりやさんからファーマシーが取って代わろうとしています。
外資系企業の進出に地場企業も黙っていられない。急速に事業を拡大している新興企業が異業種に参入、シェア獲得の競争激化が始まっています。
IT最大手のFPTは現業の薬局チェーン、ロンチャウ社を買収。昨年70店だったのを今年は220店、2022年に700店に増やす計画を持っているが業績は赤字の様相。急激な他業種への参入と拡張はVinグループの二の舞。
比較的早かったファーマシティーは2012年設立。HCM市中心だが、地方展開も視野に入れて今年は350店舗、ファンドからの出資を得て来年は一挙1000店の計画だが、今年でさえコロナ疾病下で達成予想は不詳です。
携帯電話販売で急成長したテーヨイイードンは、2017年にHCM市に本社を置く薬局チェーンに出資。アンカンという名称で500店を目標とする。
何かと話題のVinは2018年に薬局に参入し11店からスタート。同社はバクニン省で100億円を投資して医薬品研究センターも着工の勢い。しかし事業再編成のため不採算の流通部門を譲渡しており今後の展開は崩壊しそう。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生