経済が好調で、国民の所得も向上しているベトナム。かつての世界の最貧国の一つというイメージはなく、街には超高層ビル群が瞬く間に出来、高速道路網が縦横に伸び、一般国道の改修拡幅など社会インフラが整備されて、時間軸が短くなった。人の移動はもっぱら自転車かバイク、これが自動車に代わって、さらに懸案事項である都市鉄道がハノイ、HCM市で開業し、路線がどんどん増える傾向にあります。便利な世の中になった、と感じるのは昔の良き、緩やかな時の流れの中に暮らした外国人のノスタルジーかもしれません。
株式市場が整備されてから20数年、金融資産と不動産を持つか持たないか、で富める者とそうでない者との格差が顕著になり、もはや先進自由主義国以上の富裕層が表れている。一般市民の生活はといえば給与は急速に上昇したが、はて十分と言えるほどの社会的分配を成就できたのかと言えばそうでもなく、企業は大きくなったけれど未だ以って個人商店の延長。なぜか?所有と経営の分離が行われず創業者と一族の懐に富が集中するから。では高度教育が進んだか、と言えばこれも徐々には良くなったけれど、全体としては遅々として進んでいない。まさにエスカレーターを知らずに、勢いエレベーターという感じで社会が進化している。しかし確実に一般家庭が豊かになっているのは消費生活が変化、消費性向が変わって来ていることから見えてきます。
4月に地元有力紙に掲載された記事だが、これにも、絶えず変動する市場と、ますます厳しい消費者基準の中で信頼はブランドの持続可能な強さを示す重要な指標になりつつある。とまさに豊かになって来た生活を象徴するかのような内容。そして顧客は機能に合致する製品や健康への安全を確保するだけでなく、独自のセンスで使う際の実質的な使い易さ、文化的な深み、品質や耐久性などの価値観も重視するようになったとしています。
この傾向は、2026年の高品質ベトナム商品投票結果なるものに反映されているという消費者のトレンドへの基準とは、堅実な基盤を持ち健全なビジネス哲学と継続して発展を追求する企業を指し、現在の消費者は、単に物を買うだけでなく明確な意識を持っている。この状況は商品への認知度が低くても正しいことを主張すれば消費者が付いてきてくれるチャンスでもあるとしている。
随分変わったな、という印象。マーケティングとはモノを売る事。なんて学生が話をしていた時分、何を考えているのかと思った位の時代がつい20年ほど前の話。企業理念という言葉でさえ企業のカタログには無かったのだが、この記事には何とビジネス哲学と書いてあるではないか。驚くばかり。
となれば企業は進化しているけれど、かつては上場企業の留学組の若手経営者が頭を抱えて居たほどで部下の役員でもモノを作れば売れると考えていた。
注文しなくても加工賃が安ければ海外有名企業から受注できる。自社開発とかユーザー志向、時流を観据え小ロット・少量生産で付加価値、との思考など多くの企業家は持っていなかった。
急速に変化してきているのは何なのか。興味があります。
この様な内容なのだが、併せて同じ日の経済(企業)記事に二つの会社が掲載されていました。両社とも覚えがある。
・ミンロン セラミックス
この会社は名の通り陶磁器を生産している。確か工場はビンユン省の国道沿いにあったと記憶しているが、市中心部に販売店と商品展示を行っていた。
17年程の生活で、揃えなければならない物の中に当然のこと器が必要なのでここで買ったのです。一般家庭やコムビンザンではプラスチックの容器を使っているのが当時としてはごく普通の風景。でもせっかくならと見つけたのが、このミンロンだった。上品で歪みもない。良いものは長く使えるし、飽きない。
聞くと多くは輸出しているというのだから驚いた。当時の所得では一般家庭では容易に揃えられるものではなかったのだから納得。
こういう記憶がなぞられるのだが、記事にあったのがこの会社の起業精神。
製品は単なる商品では無く、ビジネスの名誉である。としており、焼き印(多分糸底にある会社や製作ロゴ)は「単なるロゴではなく、国の自尊」とまで言い切り何十年にもわたってベトナム人消費者の心に信頼を築いてきた、とある。
27年間連続で先の高品質ベトナム商品投票で選ばれたのは、この会社の製品が何世代にわたって繰り返して日常的に使われ、購入されてきた消費者の選択の閣下であり、繋いできた信頼のブランド力であるのです。
消費者の視点では、筆者と全く同じだが、知覚可能な価値観であり、これは55年の社歴から伝統的な職人の技と精神から生まれ、現代的な技術を融合させているとしている。原材料から型、絵付け、独自のデザインやモチーフに至るまで厳格に管理され、品質と美的感覚の両面から見ても完璧と評されます。
この思考などまるで京都の老舗企業を見ているような感覚に陥る。というか、何百年も続いてきた一子相伝の技伝承と時流への対応という真髄そのもの。
また欧州基準に沿った焼成技術は他社地場企業では不可能。製品の耐久性、明るくて美しい表面の滑らかさ。これは不純物を除去することに成功した結果であり、長く使用しても健康には全く問題がないという証でもある。普段からの技術革新と努力の賜物。これが真の信頼のブランドになっている。
記事を見て初めてこの様な企業があった、しかも使っていた品物にはこの様な歴史的背景があった訳です。
高品質ベトナムビジネス協会に拠ると、2025年の消費者意識と行動に関する調査結果があり、消費トレンドは安全性と持続可能性に向かっているとある。
消費者の3分の2はグリーン製品の仕様を増やすとし、86%は環境に優しい製品を使いたい。さらに5~10%の費用を支払うとしている。
かつて「ベトナム製品は高品質」というシールがあって、地場企業の製品に貼ってあったが安いけれど速く壊れる。だからベトナム人消費者はこんなシールがあっても買わなかった。
時代はすっかり変わり、消費者の意識も変化が見える。日本人がダクラックで有機栽培野菜をつくってHCM市で売っていた。価格は高かったが、ファンがいて買ってくれたが経費を賄えるまでには至らなかった。余った野菜を貰ったけれど、形が良くないと売れ残るし、輸送距離が長くて保冷が十分できないので鮮度維持への問題があった。このような状況は今浦島になってきました。
・NAGAKAWA
もう一つの記事、ここにとある北部の企業の紹介が出ていた。掲載されたのは今年の夏の新シリーズの商品発表会だとか。これまで20年の経験から、2026~2030年のグループの開発戦略とやらの実施段階で、ブランド刷新と製品多様化を進め消費者二―ズに応えるとしているのです。
イベントでは冷蔵庫、家庭電化製品、キッチン家電などのエコシステムを紹介。
ベトナムの気候風土に性能、耐久性が最適化していると報じている。
当時筆者はHCM市で電気、内装等の会社をしており、ある日本企業の事務所内のエアコンメンテナンスを一手に受けていた。何しろこの国の気候、年間通じて冷房をフルに長く使っていたので完全に壊れたのです。当方ではもちろん日本企業の製品を提案したのだが、予算がないとかで相手からの取り換え指示がこのNAGAKAWA。何やら日本の会社の様でもあり、実はそうでもない。
20年以上前には日本製エアコンも各種あったけれど、品質に定評があっても一般家庭では高くて中々買えない。この当時、ビエンホアにサンヨーが進出し工場で冷蔵庫とかエアコンを製造していた。機能は冷房だけでいいので価格は400ドルくらいからあったけれど、HCM市の極暑に湿度の高さ、また家の構造からみて階高が普通の家でも約3メートルあるから中々冷えないし、一日中稼働させておかなければならないのでフィルターの汚れも酷い。だから日本以上にエアコンの内部と外部の熱交換機の掃除をしなければならない。また壁は煉瓦造りなので遮熱性能は高いが日本の6畳用では間に合わなかった。この信頼のサンユーブランドがベトナムで復活するとの嬉しいニュースがあった。
街の電気街にはOSAKAとか訳の分からない製品が並んでいる。この当時は家電量販店や外資系大型ショッピングモールなど無く、市民が家電を購入するのは街の電気屋。売るだけで修理やメンテナンスをしてくれない所も多かった。
また仮に修理を依頼しても、内部の部品を勝手に取り換えるとか、安物を付けていた事実がある。これは内部を開ける事など無いし、素人では判別など出来ないからやられっぱなし。ある日本人の住宅でこれを発見してけれど、販売店に話をしても通じる訳が無いので諦める。こんないい加減な状況がありました。
なので、新品を購入しても安心できるものでもない。むしろそれなら日本製の中古品を買った方がマシ。価格は100ドル程で安く、まだ十分動いてくれる。
従がってテレビも同じで、エアコンも冷蔵庫も日本製中古品が売れたのです。
だが直接ベトナムに持ち込むのは難しい、然らばとカンボジアを国境超えして人力で運んでいたのだが、税関が見つけても取り締まりは出来ない。これを知っている確信犯、監視の目をしり目に堂々と運んでいたというから恐れ入る。
所でこのNAGAKAWA、日本人が居てこの名前を付けたというのだが?
当方で販売したことがなく、何か怪しいのではと、ベトナム人スタッフに電話を掛けさせて調べた。横でやり取りを聞いていた。日本人の経営ですか?だが一人も居ない。日本製部品を使っている?コンプレッサーを輸入している。
ところが何処の企業の製品とか聞いても、彼方此方からだと話すし、新品なのか、部品取りの中古品なのかも分らない位のいい加減さであったのです。
如何にも新品だが、本当の所中身までは分らない。ましてエアコンの心臓部はコンプレッサー。現在は世界的に品質と機能に定評があるダイキンがベトナムでも人気があって少々価格が高くてもこれを購入するが、この当時は高根の花。
こういう所にもベトナム人の所得が向上した。今まで有れば何でも良いと考えていた家電製品から、デザインが良くて品質も良い、使いやすさと機能の良さが選択肢へと変化しているのが今の消費者の考え方になっている。
全体的に価格が高くても安全で耐久性があるのなら、かえってオトク、これにやっと気が付いた。生活するだけ、家族皆が食べるだけに必死、全くゆとりがなかった時代から大きく転換したということです。
この象徴が先のミンロン社であり、消費者の行動調査にもはっきりと出ている訳です。誰だって良いものが欲しい。心も豊かになって来る。
こういうユーザーの購買心理を確実に吸収し、規格、製品化できる企業が生き残れる。そして圧倒的なブランド力が構成されて行くのです。
安いけれど壊れやすいベトナム製品から一歩も二歩も抜けだし、世界の消費者が認める高品質でデザインも良い、優れた製品が各国に供給される日が近くなったのか!と考えるが、残念ながらその道程はまだ遠い。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生