ラム博士は単に企業が多いのが重要でない、現代的な経営力を持ち、技術力があり、グローバルなバリューチェーンに参加し多国籍企業と競争できる経営力のある大企業が必要だと大艦巨砲説を採るが、現状からは理想の域を出ない。
新たな時代に突入する訳だが、ベトナム経済はその成長スピードを維持しつつ、経済的自立性と競争力を促進しなければならない課題に直面しているという。
これは何を指すか。これまで余りにも数多くの外資系企業がベトナムへ進出し操業してきた。だが地場企業はさしたる技術力に資金力が無く、R&Dも劣っているが、ベトナムの輸出は数字で見る限り年々上がり黒字も達成してきた。けれどその輸出内容は外国企業が実に75%を占めており、自国企業は長い間、付加価値の低い一次産品、靴履物に衣料、木工品など二次製品しか作ることが出来ずこれを輸出してきたが、改革すること無く低位に甘んじてきました。
そこへ開発思考における重要な革新が政府から齎され、特に民間経済の役割の明確化、科学技術の推進、イノベーション、DXなど開発分野での制度改革と再編成が行われようとしているが、これは国内企業に新たな機会を齎している。
即ち中途半端だが外資系企業から乳離れをする時期に来たと考えているのです。
しかしそれでもなお問題が残っている。それはベトナムが先進国になるために民間企業に必要とされることとは何かだが、近代的経営力を持ち、先進技術を習得してグローバルバリューチェーンに参加できるか、そして海外の大企業と互角に戦えることが出来るかであり、競争力を持つこと以外にありません。
しかし急速に民間企業の力が増している中で、ベトナム企業の多数はどうしてアジアという地域的、また世界的な企業に成長することが出来ないのか。一部の企業に限られるのか。これはビジネスの能力だけでなく、そのコスト、環境問題があり、さらに多くの企業の歴史が浅いために事業の蓄積、革新力、人材の育成に欠けるし、成長するための十分な条件を作っていないことに関係しているとするのです。筆者はかねがねベトナム企業には理念が無いとしてきた。
これまで各業種のカタログを何社か見たけれど、如何に良い製品を造っているとか写真入りで作っているが、では何のためにこの会社があるのか、その存在意義とは何か、また経営者独自の哲学や行動指針、経営センス、ヴィジョンが見当たらず、多くの企業は歴史が浅く伝統に培われた技など殆ど持ちえない。
また品質に関しては、ベトナム製品は高品質、なんてシールが電気製品に貼ってあるけれど、スローガンは良い。しかしでは本当に自信をもって製品を供給しているのか。これに関しては筆者が現地で行なっていたローカル事業の経験からはっきり言えるけれど高品質なんて言える代物では決してない。この原因は幾つかあるが、自国で品質の高い部品を製造出来ないことが最大の理由です。
厳しい言い方をするけれど、仕事に取り組む意欲や情熱、気概という精神性に欠けるし依存体質そのもの。実例として挙げるなら、Vinグループの自動車にしても研究所を国内には置かずヨーロッパにあるほどであり、何をか況や。
ブランド力を持つ企業も事実ある。世界に高級品を輸出している企業もある。だがブランドを作るための努力は面倒臭くて自社では行わず、製品をバルクで輸出するだけ。それを相手国企業がそのままブランド化している状況にあり、良品なのに付加価値を取れない勿体ない状況を見た。ベトナムが成長する為には様々なビジネスのボトルネックに真剣に向き合う姿勢が必要で、民間企業の発展には各企業の能力を高め、積極的にビジネスセンスを磨くための行動と、労働環境の整備や国際市場の動向に関心を持たなければ、と筆者は考えます。
・ベトナム企業は何故拡大する気が無いのか
一部企業は急速に成長しており、其処から関連企業がどんどん増殖されている。
地場企業は成長への意欲が無いという訳でないけれど、拡大のチャンスが到来した段階で飛躍を目論み、此処という時に長期投資やイノベーションを効果的に実行するだけの判断力や勇気があるのか、あるいはそのような環境に会社のトップや役員が居るのか、国際ビジネスへの見識と参入して組織や業務を改革するだけの資質や能力があるのか無いのかで大きな分かれ道に立つのです。
ベトナムの民間企業は発展の原動力である、との自己認識を持っているけれど、一方では多くの企業が規模の拡大を目指すことに躊躇し、慎重な姿勢を崩さず発展を選んでいるという。この要因はコストであり、リスクを負わないことと経営能力の欠如だが、チャレンジ精神に欠けているという指摘もあります。
となれば、これまでに書いてきたVinマート、ベトジェットエア、マサンなど、海外に居た経営者は対極にあるという訳です。コアになる企業から派生して幾つかの新規事業を開拓しているが、そのために大量の資金投入と人材が必要になるけれど、それ以上に事業意欲と挑戦する勇気が必要ではないかと考える。失敗も多々あるがこれを乗り越えて来たその精神は高く評価して良いと考える。
また中小企業にはそれなりの人材がいるとは思えず、規模の拡大はガバナンス、財務経理、税務対策、さらに消費市場へ向かう傾向にあるとされています。
何れにしても分析が出来るだけの培ってきた蓄積が必要だし、新たなステップに突入するなら個人的経験や勘に依存する手法は通用しなくなる。さらに時流が大きく急速に変化しているうえで対応できる経営力、専門的にマネジメントが出来る要員、企業として長中期の戦略の立案が科学的に大切な要因になる。
それ以上を目指す積りならコンプライアンス、バリューチェーンへ参入できるだけの国際基準での生産設備と製造能力、長期の技術革新と研究開発への投資、ブランディング力も伴う必要がある。しかし幾ら頑張っても独自のコア技術が無く自社ブランドもないのでは、今まで通り付加価値の低い製品を造るだけで精一杯、何時までも海外企業の下請け的存在に終わるだけ。経営資源を集中させてもたかが知れており、考えるだけ無駄な話で終わってしまうのが関の山。
改革を行う知識と実行力があるかだが、背伸びするよりも現状維持で満足する傾向にあるので発展可能な要素は低いが、かと言って成長を望まない訳でない。ならばコスト削減と長期的に投資できる何かに取り組み、徐々に拡大してゆく事業環境を整備する処から始めてゆく姿勢だけでも見せて欲しいものです。
だが大企業であっても、先進国の様な所有と経営の分離という状況にはなく、全ての富は創業者の家族係累に集中。多くの経営者は企業が社会の公器という論理的思考は無く、自分のモノでしかない、新しい経営手法を編み出し組織や分社したという訳でも、一族以外から登用や評価されない未成熟な状況にある。
・ベトナム民間企業に必要とされるもの 中国がお手本で良いのか?
小規模また家族事業者が多く、企業間での連携が取れていないとするベトナムだが、企業が成長と拡大を考えない限り強くはなれない。即ち競争力はない。段階的に資本を蓄積し、技術を修得、さらに何らかの形でバリューチェーンに組み入れられることがステップアップとなり得る。
最近は海外留学組が起業、外国勤務や事業経験から新しい分野に挑戦している。これこそがまさに政府が求めている科学技術の実践であり、IT化とかAI化。
既存の問題はベトナム経済が構造的にリーダーシップを持つ産業が無く、技術基盤を作っていない事だと言う。近年はサービス・小売業など資本の回転が速い産業に集中し、消費者の声に直接触れ、最終需要に応えている傾向にある。
明らかに経済は発展し企業数も増えている。しかし地場企業に品質、生産性、技術力に変化が見られない。産業界と大学、研究機関や行政に組織等との強固なネットワークが見られず、知識や製品の競争力を変える程のこともできない。
外国企業の直接投資や進出の誘致に成功しているけれど、地場企業全体の技術力向上が出来るだけの企業間での連携は旧態依然で、企業が個別に抱えたまま。これでは国全体の技術力が底上げ出来ず成長しない。自分さえ良ければいいというワガママな国民性を反映している。
では何を為すべきなのか。中国の成功例を4つ挙げている。先ずは発展に優先すべき産業、技術を明確にし、政府は研究開発に巨額投資を約束しているとの国家戦略がある。二番目は研究とイノベーションの為のインフラ整備。これはニーズと密接に結びつく研究の再構築。三番目は大幅な技術人材育成で長期的なプロセスがある。最後に企業エコシステムとハイテク開発ゾーン、大企業、スタートアップ、大学、研究所、投資ファンドが同じ開発空間で繋がり、技術、資本、人的資源が迅速かつ効率的にローテーションされる環境を整えている。
これを参考にして、ベトナムが必要とするのは国家戦略、科学技術、教育訓練、産業政策、資本市場、ビジネスが一体として結びつくことで、初めて目的意識のある開発エコシステムを創出できるとしています。
中国を手本として地場企業は長期的な競争力を構築、生産性、革新力を挙げる条件が整えることが可能になるという。ベトナム民間企業は発展期にあって、経済の主要な原動力になりつつあるが、新たな開発段階での要件とは、絶対量から企業の質的発展と能力向上へのシフトである。企業は自己改革を行い、経営スキル向上、技術への投資と成長への志が求められる。そして市場への参加、バリューチェーンの習得を行い、競争力を付けることが必要だが、民間企業が地域とグローバルに存在するための要件は、ベトナムが国家として国際競争力の問題として捉えなければならないとしている。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生