・増加するオーガニック栽培だが
ベトナムでオーガニック栽培をしている農地は、農業農村開発省の統計資料から2019年度に237,693Hrであったとされます。これは5年前と比べると、2016年度には53,350Hrであったので、ほぼ5倍に増加しています。また生産者数は農家が17,168軒、企業は97社に上るとあり、またオーガニック作物を栽培している所は46省・市となっているが全国的に普及していません。
生産された農作物は国内で販売される他に輸出され、アメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国など180の国・地域に及んでいて、この年間輸出金額は3億3500万ドル、貿易に関わる企業が60社にもなっているとされます。
・ひとつの実例
数年前、農産物を主にオーストラリアへ輸出している若い女性社長から、在阪ベトナム人コンサルタントを通じ、日本人の農業技術者を派遣して欲しいとの依頼が舞い込みました。2018年・9月の事です。
此の社長はオーストラリアへ留学、帰越してから起業したと言います。農場はHCM市から北東部にあるビン・フゥック省(BINH・PHUOC)。*因みに北部のヴィン・フック省(VINH・PHUC)とは異なるが日本人には同じに聞こえる。
幸い現地に冒頭の農大卒の専門家が移住しているため、この年の10月に市内で会って話を聞きました。
詳しく聞くとこの社長は農業に関して全く知識が無い。農場を持っている訳ではなく委託栽培をして輸出している。どうやら生産物の品質管理をやって欲しいという感じ。まさか現地に有機農法を日本で手掛けたG―GAPの専門家が居るとは想像しなかった様で、こんなに早く会談できるとも思っていなかったらしい。しかし話を進めると段々怪しくなってくる。まず農場を見せて欲しい。現地で従事するスタッフから、栽培状況・種子やポスト・ハーベストの方法、保管・流通方法などを聞きたい。さらに今後の事業展開や、日本の農業視察等を聞いたのです。事務所はビテスコタワービルというが、この1階のカフェで話をしているので、オフィスに行ってみようと話したがはぐらかす。待遇に関して質問するが出来高という始末、事業資金の出所も不透明。考えが見えない。こういう事は最初に確認が鉄則、だが詰めていてもドエライ目にあうのが相場。
ところが農場視察も、訪日の話も決まらず、何時まで経っても話が進まない。
ビジネスに不慣れか、恐れをなしたか、話を打ち切った。嘘でないとコンサル氏は言うが余りにもお粗末。小規模で理念も金もノウハウも無い。こんな程度。
友人の話でも有機農法は簡単ではない。先の資料から急速に普及している数字を見ても実際に認証されたものなのか?緩いV-GAPが基準か?上記の遭遇した件を勘案すると何処まで信用できるか。疑念は払拭できません。
・政策は必要
昨年6月、首相は2030年までの10年間を見据えて、オーガニック農業の発展のため生産者を増やして農業を再構築。付加価値の高い農産物輸出を増やしベトナム農産物の知名度を上げる目的でプロジェクト発足を承認しました。
オーガニック栽培を行う場所の指定、屋内農業の推進、ハイテク化で害虫駆除、化学肥料の減少、収穫量の維持などに行政の支援が必要としています。
これには農家、農業組合、企業への資金支援、税制優遇措置などを検討する他、
人材育成、栽培のための原料・資材の供給網の構築、生産者と市場・消費者間の流通など、戦略的な課題に取り組まなければ拡大しないとしています。
・農業組合
首相決定案ではベトナムの農業協同組合の数を10年間で現在の3倍、約45,000にまで持って行き、農業集団と呼ばれる組織を14万カ所・200万人、協同組合連合を340カ所・800万人に増やす事を目標としました。
協同組合のうち5,000組合でハイテク技術を使用した農産品を作るモデル事業とし、これを契機に農業組合を近代化させる考えもある。
報道では肝心の具体的な内容に触れていないので、むしろどの様に組織化し、何を目的にしてどう維持して行くのか、誰が農家を指導してゆくのかが問題。
また農機具や原材料等々の流通、農作物の保管と市場へ流通販売、品質評価など企画力が大事なのにこれらに関しては要領を得ない。
報道では農業組合の重要性に触れていますが、農村開発局では2020年には国内で17,000の組合と、57の農業生産組合が活動しているという。この内3,913組合が企業と連携し農産物の加工などを行っており、これを強化し、今後は新規農地開拓、バリューチェーン構築などの役割を担って行くとする。これはベトナムが加盟する各国との経済連携協定が追い風。農業が競争力を持ち、生産コストを圧縮し付加価値を上げ世界基準に合格する農作物と加工品を積極的に輸出するための重要な選択です。
かつてメコンデルタのパイナップル生産組合を訪問した。実際は数人の仲間が集まっただけ。共同で倉庫を建てて資材購入、市場へ出荷するが、果実はそのまま都会に出すのみで、マーケティングや加工するなどの考えはありません。しかし僅か数年で変化が起きているのは驚きです。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生