日本企業の海外投資 事業拡大意欲はベトナムがトップ

2025年1月16日(木)

JETROは日本企業の支援のひとつとして、海外進出日系企業調査を各地域で行っています。その中にアジア・オセアニア編があり莫大なコストと人員をかけて詳しく調べ公表しています。
先ずはこのJETROの調査した内容を要約して記します。

12月12日に発表された調査結果に拠ると、2024年は黒字割合、景気感ともに回復したとあるけれど、中国、タイは現地需要が妨げになったと記載されている。またインドは2008年以降で最高の営業利益が黒字になるほか、アセアン始め多くの国や地域でも上昇したのだが、中国は2008年以降最低となっているとある。これはメディアで報じられている通りの状況が数字として表れたけれど、如何に中国経済が不動産の問題から派生して悪くなっているという裏返しでもあります。
景気感も同じ傾向にあり、中国、タイにミャンマー以外で改善され、インドは現地需要が増加して押し上げた。世界一の人口を抱えることとなり、消費においても活気があって需要は旺盛。各国が注目する所となっています。
このため事業の拡大を検討する企業はインドが80,3%で一位。タイと中国は後退し、中国は最低を更新したとあるのだが、これは納得できます。
12月に送付したコラムにある通り、先進国だけでなくベトナムもインドに期待しており、このところ観光客は増えている。だが今になって始まったのではなく、実はインドは早くからベトナムに進出し商売をしていたので下地はある。
しかし競争環境は激しさを増す一方で、ASEANでは主に中国との競合があるけれど、これは予測されていたことです。

多くの新興国が経済発展をしてきた結果、産業構造に変化が見られた訳で5年前と比較して、主力製品とサービスの市場のシェアが増加した企業は37,%、特にインドは6割を超えたとあります。しかし一方で競争相手が増えた企業は48,6%あり、中国では6割を超えたという。
この状況は長年ベトナムに接してきた筆者は、全く同じような状況がベトナムでもみられのですが、これからさらに日本企業は現地企業との競争にさらされるというシナリオが予測されます。
この競争相手は調査報告では地場企業を挙げており、74,2%となって最も多いとあるが、日本企業が62,4%と続いているという。地場企業が力を付けて来たという証左であり、このままだと日本企業の体力、R&Dを強化しなければ同等の企業力や製品力を何れは持つであろうと思っても間違いありません。
ASEANの製造業では競争相手の一番手として中国企業を挙げた割合が相対的に高く、特に電気・電子機械部品、化学・医薬などの分野で競合が目立ったとしています。
これまでに書いてきたけれどベトナムでは急速に中国企業の進出が進み、また政治の分野でも大臣クラスや経済ミッションの動きが活発化している。これに呼応して中国も積極的にベトナムへの進出を始めていることが分かっており、この傾向はさらに強化されると感じているのです。

筆者がベトナムに行った2000年前後、中国企業のベトナム進出は余り無く中国建設と大きく書いた看板が7区PMH地区にあって、アパートなどの建設工事を行っていました。この企業の幹部は共産党から派遣された幹部であったが、筆者がマネージャーをしていたビルを建てた現場の責任者はハーバ-ドを卒業したという触れ込みだったけれど、しかし怪しいという懸念は残ったまま。若い担当者は英語も出来てフレンドリー、仕事の打ちあわせをしたことがある。
また企業では仕事柄、家電関連の企業TCLがエアコンなどを売っていたが、当時価格が安い割には人気が思う程では無かったと記憶するところです。

特にこの調査で、サプライチェーンの再構築が進展。日中からASEANへの生産移管が顕著だとあります。
これは今までにも言われてきたのだが、コスト上昇やCOVID-19を契機としてサプライチェーンの寸断を受けて、直近5年間で新しい調達先を開拓した企業(製造業)は71,5%、今後1~2年で現地調達を拡大方針する企業は39,3%で前回調査よりも上昇している。これは並行して進出した系列企業もあるが、地場産業から調達が増えているのを見ているので間違いありません。
そして直近5年間で他国・地域からの生産移管があった企業(製造業)は15,6%で、日本や中国からASEANへの移管が多く、特にベトナムへの移管が24,8%と最多であったとしています。この理由はコスト競争力の向上、チャイナリスク回避などであると云われる。

調査結果は概ねこれまで書いてきた様な傾向が如実に表れて居ると考えます。
またベトナムへの生産拠点の移転に関しては、同様に問題点も含めて何度か書いています。
確かに現地企業の躍進と進化には目覚ましいものがあるのに間違いありません。だが政府はかつて先進工業国入りを宣言し、外資系企業の投資を積極的に歓迎してきた経緯があるけれど、いまでは物作りからIT化、グリーンビジネス、脱炭素社会に重点を置きこれらの分野への投資や技術移転を求めています。
サプライチェーンに関しても言わば棚ボタ的。中国からの生産拠点移転に付いては、充分な人的資源、能力や技術的課題があり、原材料や生産手段の確保が出来ているかと言えばそうではないと現地発の懐疑的報道さえあります。
さらに研究・開発力に遅れをとっている現実があり、専門技術者の育成が出来ておらず、モノ作りに関して必要なワーカーでさえ確保が困難になっている。
地方からの出身者も都会に憧れ、知識や経験、必要な学力や語学力が無いのに事務職、外資系企業への就職を期待するか、いわゆる3Kの工場勤務を嫌がり、三次産業に勤めたいとの傾向にある。

そうした中で、遅ればせながらも日本の高専制度の導入を日本の支援で行なうようになったけれど、では大学での教育を含めて専門知識を以って享受できる人材が充分備わっているかと言えば、現時点でさえ困難な状況にあります。
さらに労働力輸出と称して若い人材を日本や台湾、韓国などへ実習生として送り出しているが、留まる事を知らず増える一方。結局は先進国へ技術研修という名目であろうが、その実態は単純労働者の派遣でしかありません。
覇権国、受け入れ国共にこの実態を知っておりながら増やそうとし、また年間派遣目標をあげて、今年も10月時点で達成して喜んでいる。
サプライチェーン、即ち部品供給国として名乗り出ておきながら、何ら対策を講じず、他国任せのまま。
それどころか2000年台は裾野産業がこの国の計画投資省でもSUSONOとしてそのまま通用していたが、今も残念だが高度な精密さを要求される製品、部品製造産業だって確立できていません。この多くは輸入に頼らざるを得ないし、素材や原材料の多くが現時点で国内では産出できないという問題がある。
こんな事でサプライチェーンをベトナムに、なんて筋が通りません。
先ずは政府が国策として、この産業構造の変化とか舵取りを責任もって実施しなければ、これまでの様な若くて、手先の器用な労働力があるという作られた神話など何時までも続けられるものではないのです。

この所は半導体立国なんてことで部品生産を増やすなどと言っているけれど、これも自国企業ではなく外資系大手企業の投資によるもので、自国企業が能力を持ったというものではないのです。
こうした実態を、如何にもベトナムがという風にすり替えしているだけで実態などありません。こうしてこれまで以上に外資系企業が清算する製品が、ベトナム製として輸出されるのだが、実は外資系企業の製品輸す津割合が増えているだけのことなのです。国威発揚は良いけれど国民でさえ分らない数字のアヤ。
結局はベトナムの地で労働力の提供に終始するだけの国でしかなくなる。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生