苦戦するベトナムの外資系ファストフード

2021年9月22日(水)

ベトナムを旅した方の多くはPHOやBanh Myに嵌りますが、何とこれが日本で大人気。在日ベトナム人が店舗を出すとか、ハノイの有名店が初上陸する等、今やベトナム庶民料理は何処でも食べられる。
しかしベトナムは若い人を中心にハンバーガーやフライドチキンなどが人気。現地物価からすると安くはないけれども、ステイタスなのか、流行りなのか、店内では誕生会や何らかの記念日にはテーブルを囲み、持ち込み可能のケーキを持ち込んではワイワイ・ガヤガヤと楽しんでいる。
買い食いをするのに学生では少々値が張るので、手土産にすると喜ばれます。今ではそうでないが、店舗が出始めた頃はマヨネーズやケチャップが珍しく、初体験という事もありました。今でも慣れない人は多く好き嫌いは激しい。
元々は生野菜を食することはそれほど多くなく、せいぜいトマトやキュウリ。こうした訳でドレッシングなどが発達しなかったと考えます。
私は炭火で焼いた鶏や豚などが載ったComDia(皿飯)に、ベトナム醤油を掛け茹で野菜と一緒に食べる方が断然好みだが。

・外資系ファストフード店の歴史

これまでこのように外資系のファストフード企業が店舗展開を行ってきたが、進出の歴史はそれほど古くない。
私がHCM市内で初めて見かけたのがジョリビー。1995年の進出で、一区の中心部にあったが時期尚早だったようです。

KFCは1996年に初出店したが、ご多分に漏れず黒字計上できたのは7年後だというがましな方かもしれません。全国140店舗と一番多く、唯一黒字を計上。ベトナムならではチキン・ご飯とサラダが付くご当地コンボメニューもある位で、夜は学生など若い人がこのセットで夕食を摂っています。
因みにベトナムではフライドチキンをGA RANGと呼びます。

次に出店したのがロッテリア。最初は日本資本で運営、店内の備品には日本語で表記されたナフキンなどがありました。この時の現地責任者も日本人だったのだが暫くして韓国ロッテに経営権が移ったのはお家の事情か。
この社長はその後に退職してそのままHCM市に残り、不動産の仕事をされていたが、当時はまだ今の様に世知辛くはなく何かしらビジネスチャンスがあると魅力を感じたのでしょう。ある時caféで話をしていて感じたこと。

マクドナルドが初出店したのは2014年と新参の部類。HCM市一区ダカオ、ディエン・ビエン・フー通りのロータリーに初出店したのが2月中旬。
この通りは事務所へ行く通り道。寄ってみようとしたが中々の人気でかなりの時間待ち。まあ何時でも来られると思ったまま、ついぞ行けず仕舞。
この現法社長は当時の首相の娘婿だが、アメリカ留学でこういい事業に慣れているからという理屈だったが、額面通りに受け取る者など誰もいない。

バーガーキングも2012年に初進出。この際に4千万ドルを投資して市場を制覇すると意気込んだが、そんなに甘いものではなく低迷しているという。

・各企業 出店などの動き

急成長をしているが元来外食の傾向が強いベトナム。朝から飲食店は人で一杯。
共稼ぎが多く地方からきた独身者も学生にしても朝食を作らず、露店で麺類や粥を食べるとか、Banh Myと飲み物を社内で摂ることも多い習慣。
ファストフードはその言葉通り、早くて便利。これは市場性があり、行けると踏んで進出したのだが、実際はそうではなかった様です。
調査会社に拠れば、ベトナムの食品産業の年間成長率は10%を超えているとされるが、これ等の企業は思った以上に苦戦し店舗展開も宙ブラリン、利益も出ないような状況とある。

7区PMHのど真ん中。交差点の角にロッテリアとKFCが向き合い、場所が良く外国人が多く住むので客で混雑。だが他の店舗はそうでもない様です。
KFCは140店舗を持ち、2019年の売上げが1兆4980億VND。前年比1%しか伸びておらず、年々増加率が下がっているという。
KFC・VNの粗利益率は13~18%と年度に拠って変動。経費を圧縮する事で何とか税引き後の利益を確保しているというがそれで5%ほど。

最も深刻なのがロッテリア。つい4月に韓国のロッテ本部はベトナムから全店舗115店を閉鎖し事業から撤退を示唆との報道もあったが否定している。
2015年以降は赤字が続く状態。累計損失額は4000億VND(約19,2億円)とされる。
2019年はKFCを上回る1兆6830億VND(約80,2億円)と相当な額の売上げ計上。しかし利益が出るどころか最終的に220億VND(1億1千万円)の損失を計上、改善が見られません。
大きな原因は賃貸料、設備投資、給与、輸送費などの経費が高いとされており、これが圧迫しているとされます。
鳴り物入りで進出したのがマクドナルド。当時の記事には2022年までには100店舗を展開とあったが現時点で23店。ブランドイメージは高いけれども伸び悩んでいます。

バーガーキングは今僅かに9店舗。60店が目標だったが完全に期待外れ。
ジョリビーは2005年以来損失を計上。2019年には115店舗あって、1兆1200億VNDを売上げ(約53,7億円)るが、最終的には100億VNDの赤字となった。

昨年はCOVID-19禍で業績や店舗展開は伸び悩み、ロッテリアの様に撤退を模索してもおかしくない所にまで来ている。
苦戦する理由は食文化だろうと考えられる。一般的にこの業界は店舗が拡大すれば利益は増える筈なのに、簡単に言えば口に合わないのかも。これは多くのベトナム人、しかも若い人が言及していること。
朝マックよりも従来の伝統的で安いベトナム料理。ソースよりニュックマム。お洒落より実質本位、路上店で買い求めるとか食する文化。この辺り独自の食文化と消費者行動をはき違えたようです。
巨大戦艦に駆逐艦が立ち向かって大反撃。追い打ちをかけるのが、このところ肥満児の急速増加に心臓病、脳疾患など成人病が増えたことかもしれません。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生