HCM市初の地下鉄は2024年末、遅れに遅れた結果、ようやく開業に漕ぎついた。だが事業費は膨らみ、会社は日本企業に払えずもめにもめた末、裁判沙汰にまで発展したのだから日本としては後味が悪い。というよりも、この様な事態になるのは筆者からすれば、常日頃、当初から予想できた事なのです。
開業当初、新しいものが大好きなHCMっ子は電車というモノに初めて乗ってみたくて人気を呼んで満員だったが赤字を出し、収益改善の見込みは怪しい。
日系企業が商業ビルを建設した。この時初めて市民に解放したエスカレーターに乗ろうとし、勝手がわからずスピードについて行けずに押し競まんじゅう、ケガ人こそなかったが、寸詰まりで転倒した人が続出したこともあります。
市内の道路は交通渋滞、バイク等の排気ガスは限界まで来ておりこれでは市民の健康に良くない。何れは都市交通を見直さなければならなかったのは必然。バスもあるけれど、朝は早くから動いていても、終バスは早く場所によっては18時台。これでは人や物の移動に機能性を担保できる訳がなく、ならば思い通りの時間に使えるバイクが良いという考えになるのは仕方がありません。
この地下鉄、と言っても地下部分は短く路線の多くは高架を走っている。また
市内1区のベンタンから郊外のスイティエン間なのだが、確かに急速に路線に沿った開発が行われ高層住宅群が出来ている。電車が並行して走るところは元々ハノイ道路と言われ、昔は道幅も狭く交通量も少なかった。
だが経済発展で車の数が急速に増え、中南部の地方からHCM市に入って来る重要な幹線であるため、国道1号線の付け替えとは別に、車線も増え見違えるような大改修が行われたのです。しかし幾ら住宅が増えても地下鉄を毎日使う固定乗客数が伸びなければ意味はない。膨れ上がる都市と都市交通の計画の上で事業が決定されたのか?
・HCM市の計画 10倍に拡張
HCM市は、政治局の2030年まで都市高速鉄道路線を200キロ運行する目標を設定したことで、5年以内に180キロの新しい路線を完成する必要があり、ネットワークを現在の10倍にするとした。これは決議09から発出されたもので、市に対してインフラ整備の優先課題として2045年までに完成するように命じたとある。だが根拠は何なのか全く分からず数字合わせなのか。
いくつかの路線の計画は既に出来ており、建設中のプロジェクトもある。二本目はベンタン~タムルオン間の11キロ、同じくベンタン~トゥティエム間の6キロだが、これは全て地下部分となっているけれどサイゴン川の地下を走ることになるのです。ただでさえこの辺りは沖積地なので地盤は大変柔らかく、支持層まで数十メートになることもある。また地下水脈が走っているけれど、これを分断してしまうと予期せぬことが起きる可能性もあるのです。
一号線の工事の際にも倒壊事故が起きたが、これは養生をしなかったために、ビルや家が傾いたことであるが実際に何件かある。この物件を筆者は見たことがあるけれど、事業者の経験不足に拠るものなのか、工事ミスか、分らない。
計画されている地下鉄の中で最長区間はベンタン~カンザー線、これはVinグループが大規模な住宅開発を行う事業に際し、同社が資金を出して建設しているもので64キロにも及ぶという。2028年に完成予定とされるけれど、さて子会社のビンスピード社、事業経験が豊富という訳でもなく果たして計画通りに完成できるのか。しかし都市交通ではあるが地下鉄ではないし、電車を製造、レール製造技術もない。安全運航にかかるシステムもあるわけがない。
結局は海外から技術移転をするしかないが、これには全く触れられていません。
元々この辺りは貴重なマングローブに覆われたリゾート地でもあり、またエビの養殖池が散在していた。便利な地ではなく、フェリーで対岸に渡って行くのだが、日曜日ともなればHCM市民は海岸に遊びにきた所で、海の家みたいな民間の休憩施設があって一日をゆっくり過ごした。またサイゴンツーリストの経営するロッジもあり、ベトナム戦争中のジャングルでの体験が出来るという教育施設でもありました。
HCM市の人口が増え続け、不動産価格は高騰していて先が見えないので庶民のために住宅開発という命題は分かるけれど、歴史的にも貴重なマングローブ林を埋め立てをしてまでも住宅地を作らなければならないのか疑問です。
まして何処から埋め立てに必要な土を運んでくるのか、泥沼故にしっかり圧密が出来るまでにどれほどの時間が掛かるのか、住宅を建てたのは良いけれど、道路は陥没とか住宅が傾いたなんてことになる可能性は無いとも言えないが、此処まで土木がしっかりと出来るだけの事業経験に技術があるのか。
・新線計画と常に付いて回る資金調達
最も必要不可欠な路線は市内からロンタン新国際空港の約48キロ。サイゴンがHCM市という名称に変えられてから50年を記念する年が今年であって、7月2日までに着工したいという考えがある。空港も開港が遅れる見通しだが、本来は既にこれに併せて工事をしておくのが我々からすれば常識的な感覚だが、目標管理が出来ないのがベトナム流ビジネスなのです。
7区PMH地区から新空港までモノレールを通すと言う計画があり、その為ため道路の真ん中に広い用地を残していたけれど、これはどうなったのか?
有機的なインフラ結合という思考が無いからで後からこじ付け。要するにやりたくても資金がない、マスター計画から抜けているのは所管がはっきりしないからで縦割り行政に問題がある。これに関連して接続道路についてもコラムに書いたが、開港に間に合わせての計画が出来ていなかった。国際空港とあろうインフラが無ければ現タンソンニャット空港から、新旗艦空港へ国際線を移管するが乗客はどの交通手段を取ればいいのか分らない。
市は何とか今年に新路線を開通させると言っているけれど、どうなるのやら。
市の建設担当部署では2030年までに予定されている優先路線の工事費用が総延長187キロ、約170億ドルと試算。Vinグループがカンザー線で、地場民間資本が迅速に動く様子を受け、民間投資家に資金調達を求めるとしているが何時もの資金不足が噴出。
国や市にはこれだけの金は出せない。だから民間にとは如何にも安直な考えでしかない。公債を発行する考えもなない、ならば金があるだろうとしているが、このVinグループがどれだけ巨額の赤字を抱えているのか知らない訳では無かろう。日本円で約10兆円もあるといわれるのだが、メディアには如何にもEV車が売れ、海外でも好評という大本営発表を信じさせられているのです。
経営資源の集中も分かる、だがグループとして利益計上できるのは不動産部門であり、住宅開発という未来への投資戦略も分かるけれど、将来的にHCM市が現在の経済成長を維持し、生産人口が集積する、所得が安定的に向上を続けるなどの要因があってこそ、二度目の不動産バブルが弾けない訳ではない。
このまま続くという保証など無いのだから浮かれてはいけない。万が一コケるとなれば国としても大変な事に成り兼ねないもろ刃の剣である。
当局は2030年までに地下鉄が輸送の20~30%、2035年には35~50%に引き上げると踏んでいる。交通と物流基盤を強化し空港、港湾、工業団地等を繋ぎたいと考えている。この地下鉄線ネットワーク構築に必要とする500人の専門職員を順次養成する計画を発表しています。
だがこの計画に目を付けているのが中国。広州市が保有している広州地鉄は、HCM市に事務所を開設。長期的にパートナーシップを構築しようと虎視眈々と狙いを定めている。HCM市は既にこの企業と協力に合意し、個別案件から都市交通前ポ案にまで戦略的パートナーシップに移行したと述べたとある。
既に手中に収められた訳で開発協力文書に署名したとあり、人材研修や境域にも同社のノウハウが利用されるという。新線のホクモンとニャベー線47キロを担当するとか。HCM市は鉄道分野の技術、投資、建設・運営の専門知識を共有、規則や管理モデル開発、技術の国産化、職員育成に約達とするが、経済関係を深めるというより、何も出来ない事が露呈され隷属化を意味するだけ。
株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生