中国からの投資・工場などの移転に関してベトナムの考え方

2020年10月29日(木)

・サプライチェーンの中国集中から分散の気配

9月7日、フック首相は日本商工会議所や日本企業の代表と会見。日本側からジェトロの「海外サプライチェーン多元化等支援事業」第一回公募でベトナム移転を望む企業が30社中15社あり、継続してベトナムへの投資進出を支援するとの土産話。(第二回目を募集中。最大2億円が貰えるので美味しい話)。このためにはベトナムの信用格付けの向上、公共投資案件の実行率改善(主に資金問題)、外国企業の誘致促進など痛い所を提案しています。
これに対し首相は、インフラ整備、金融サービス、スマートシティーの促進、エネルギー、国営企業株式化と事業への参画、高品質農業、IT、製造業等々で日本企業の便宜を図り、越日間の協力強化を言明。こんな盛り沢山な約束を何処まで実行出来るかだが要、要は進出の要請。日本企業の実力を評価、資金と技術・ノウハウを供与して欲しいのが本音です。中小企業の持つ独自技術や、職人技が裾野産業発展と、世界的部品供給網構築には絶対必要不可欠な要素でまさに日本頼り。それより中央と地方政府の法解釈や行政対応を地域、担当者で齟齬の無い様、また何かと多い制限を撤廃して貰いたいのが現場の気持です。
また日本の経産省、ベトナム商工省の大臣間では二国間での経済回復に関し、ビジネス障壁を取り除くこと、貿易産業・エネルギー分野での協力関係促進。
さらにデジタル化の促進で企業の参加、協力を強化する事で一致しています。
この様に中国から投資移転に伴い、ベトナム誘致に向けた動きが見られるが、経済専門家の提言は、世界的サプライチェーンへの参画は、これまでと異なり慎重に行うべきとある。浮足立つ政府に水を差す様だが、実際に世界の企業が中国以外の第三国へ移転を検討していても、実現に時間が掛かると慎重な構え。ベトナムにとっては有利に作用するが、長期的な視野で技術・品質向上などを進める必要があると強調しています。
統計局でもFDIは回復傾向にあるが、これが必ずしも米中間での貿易摩擦と新型コロナに拠る中国からのシフトではないと明言。
経営者側からも、移転には数年かかるためベトナムが好機を掴むには努力次第と言い切り、撤退や移転を楽観視はならないと釘を刺します。中国は労働力と質に分があり、発注者や市場の様々な要求に対応できるだけの製品力や技術力を持っているなど価値は高いと分析。ベトナムは企業の歴史が浅く伝統がない、自己開発技術の蓄積も無いだけに、基本的な企業力、人材、商品生産力などの向上に注力すべきだと、自国企業の弱みをかなり冷静に判断、身の丈以上の背伸びを戒めています。また政府は周国と競争が激化する中で優遇税率の適用、土地や人材活用上の特別措置など対策と環境創りを実施すべきとしています。

・収束を見越して政府の事業環境整備と民間企業には投資拡大を期待

ベトナムへの投資拡大が期待されており、これは世界的部品製造国に成長できる大きなチャンス。その兆しが見えるけれど試練でもあるのが現実です。
万一この好機に裾野産業の整備が出来ない、企業が競争力を持てずに機会を逃すなら、見せかけの燥いだだけのから騒ぎに終わり兼ねません。
VCCIや経済界などからは、政府の施策と自国企業に関して幾つかの提言が出ていますが、海外事情を熟知しているからこそ、比較的クールな観方をしています。即ち、民間企業が発展して、思うような経済活動ができる良好な環境の創出こそが経済を成功、発展させる決定的な要因であり重要と見ています。
良好な事業環境とは、制度の改革、煩雑で費用が掛る行政手続き簡素化、投資環境の改善の3つだが、過去に各界から何度か要望されている事ばかり。

・ベトナム企業の法人化推進

以前、トイチェ紙の親しい記者から、日本の法人に関して聞かれたことがありました。日本では1円の資本金から株式会社の設立が可能だし、また合同会社では定款認証や登録免許税の負担はさらに少額で済む。設立の日数も僅かだと話したことがあります。彼は新聞に掲載しましたが、一部の海外で生活や留学した人などはそれなりの見識を持っています。

民間企業が経済を牽引するために、ビジネス環境の整備と優遇策を講じる他に改革を加速し、個人事業者の法人化が最も有効な手段として挙げています。
こういう時期こそ政府は満を持して海外の会社制度の改革事例を検証し、実行すべき機会で、時はもはや待てません。
ベトナムは全企業の96%以上が中小または零細企業であり、法人となっていない家族・個人経営の事業所が約500万カ所あると言われます。だが法人化は進まず民間企業が成長する壁になっている、と経済評論家やコンサルタント会社でさえ評しています。
さらにこれらは経営管理能力、資金力、マーケティング力、製品力、研究開発力、国際化、さらに経営理念や法令・倫理の順守など、ほぼ全般に亘って他国の先進企業に劣るのが現実だと分析。こうした中小民間企業の能力を向上させ、外国企業と真摯に向き合い、対等な事業関係を結ぶ事ができる経営能力を備えるための改革が重要です。
また大手とされる上場企業でも経営者と話をすると、一部以外は企業とは何か!さえ分からず意識が弱い。さらに国際化が望めず、大手有名海外メーカーの下請け的存在に甘んじ進歩進化に利益が無いと悩んでいる。社長は海外留学して仕事経験もあるが、社内では思考と能力の落差が相当開いているのが実態。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生