ベトナムの諺①

2019年7月6日(土)

諺は長い歴史から醸成された処世訓であり、英知の結晶です。何れの民族にも戒めや教訓があり、夫々の文化や宗教観、自然・気候風土に拠って表現や言い回しは異なりますが、人間の生き様は時代がどのように変遷しても古今東西、先進国も新興国であっても基本的には変わらないものだと気付きます。
何処の人も様々な局面で岐路や試練に立った時、生き方に迷った時こそぎゅっと詰まった先人の知恵袋。過去から伝わる賢者の心得。凝縮された簡潔明瞭な表現に比喩、含蓄ある説諭は社会生活での潤滑油となる珠玉の一言が諺。教条的だと思われても、例え世の中が進化しても、人の営みが続く限り人生の指針。その叡智や価値は普遍であり、未来永劫引き継がれるべきと感じます。
ベトナムでも様々な場面で使われます。やむを得ないことですが、急速に経済発展する中で人々は物質的な豊かさを追い駆け、その享受を急ぐ余り、外国に統治されつつも救国独立のため生死を懸けて戦った真の英雄の心根は薄らぎ、民族が培ってきた尊大な精神を忘れ、利益追求に流され格差が拡大。かつて物が無かった時代『貧しさを分かち合った、優しさを持つ社会』ではなくなっている現在、何かしら意義を感じる幾つかを読み解きます。
これ等の諺は、皆川一夫さんの著書『ベトナムのこころ』、また皆川さんの恩師でもある竹内興之助先生編『越日語辞典』から引用と参考にさせて頂きました。
 
『廃寺に金の仏:Chua rach but vang』
‘家貧しくして孔子出ず‘貧困の中にこそ立派な得のある人物が育つもの。家庭環境や親の教育が大切で‘氏より育ち‘。‘掃き溜めに鶴‘は必ず居る。表面だけ見て判断や差別するのはいけない、その人となりを見るべき戒め。
 
『困窮は賢明を生む:Cai kho lo cai Khon』
‘必要は発明の母‘困難な状況下でも人は努力と工夫次第で成果が出せるもの。ベトナム戦争中物資が皆無だった状況下、米軍が放棄したタイアで作ったのが有名なホーチミン・サンダル。飛行機の残骸からアルミの鍋釜を工夫した等々、まさに地で証明。切羽詰った窮地の中でこそ人間の生きる知恵が発揮されるもので、モノの豊かさに慣れるとより以上のことを求め際限が無くなるのが人間。知識だけで努力を怠ると精神がひ弱になる一方で知恵や発想は湧いて来ません。
 
『鉄を研ぐ功あれば、いつか針になる日がやってくる:Co cong mai sat co ngay mai kim』
『風を集めると嵐になる:Gop gio thanh bao』
日本ではお馴染みの‘塵も積もれば山となる‘‘雨垂石を穿つ‘‘思う念力岩をも通す‘などコツコツ地道に努力を重ねると自ずと結果は出るものです。「勇気凛々頑張りましょうね。世の中は不条理、理不尽だらけだが、今は辛く厳しくとも明日があるサ!」とポジティブシンキング。何時までもくよくよしないベトナム人の大らかさは鏡かも。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生