多くのベトナム人の高齢者は何故戸建住宅よりアパートを選ぶのか

2026年9月16日(水)

筆者が不動産開発の仕事に就いていた昭和50年代、多くの人は出来れば一戸建てに住むことを希望した。だが資金的な事などもあってマンションを購入。大阪市内でもこの当時価格が安くて交通至便、公共施設なども近隣にあった。戸建住宅は郊外でニュータウン開発が行われ其処には学校やスーパー、公園、道路が開発指導要綱に拠って整備され、バス便の運行と、実に提供用地はほぼ50%を占めるに至ったけれど、購入者は憧れの新居に入って満足した。
土地付きの戸建て住宅を日本人が好むのは、遺伝子的に農耕民族だからと唱える人もいるけれど、購入時には広い宅地、空気が綺麗で静かさを優先しても、老いる程に病院や利便施設が最も必要と切実に感じるようになります。
しかしどの街も50~60年を経て建物は老朽化。利便施設も経営者と居住者の高齢化などで廃れる一方。入居時に小学生だった子供は成長して他所で住居を構え、自宅を処分したくても場所によっては売れない状況で、まさに負動産と化した物件を保有する人も多い。果たして自分の住まいする住宅地にどれだけ物件が売りに出されているのか知っている人は少ない。業者は資料を持っていても客に提供するなど滅多にしません。
マンションは郊外型に人気がなくなり、都会の便利な所の超高層マンションが売れ、これがなんと一戸1億円以上で最高価格が10億円であっても完売。
僅か数十年で日本は人口減少期に突入、今では空き戸数は全国で900万戸を超え、あれ程人気があったリゾートマンションも10万円ほど、土地付き戸建別荘でも所によっては価値が無く、売りたくても買い手がつかない。
時代の流れを上手く見て、売るべき時に売ってしまう。理屈だが見極めは至難の技、少しでも高く売りたい一般の人はなかなか出来ないので、結局は全ての相続放棄しなければ負担が大きくなる。購入する際に将来を考えてと言うのは簡単だが先のことなど誰にも分らないし、売る時は思い切りが大切。

ベトナムでも戸建て住宅が欲しいと思うのは同じ農民DNAからなのか。だがこの所ベトナム人の高齢者の考え方が変わってきている。だがベトナムに集合住宅がなかった訳ではありません。HCM市内でも一区に古いアパートがあり、タンダー地区に大きな中層住宅団地があり多くの人が現在でも住んでいる。
設備は殆どないので生活は不便だが、何しろ安いから売れる。
此処に中古物件を買い住んでいる知人もいたけれど、暑くてキッチンにはガス、換気設備も無くとても不便で住む気にはなれなかった。
しかし急速に高層化、超高層化しなければ市の人口は膨れ上がる一方。もはや市内の至る所のジャングルを埋め立てて開発しているのはそういう事情もある

・ベトナムで高齢者の集合住宅購入が増えた背景 価値観の変化

ところがこの所、戸建住宅を離れることなど想像しなかった高齢者、より安全で利便性が高いアパートに住むことを選択する人が増えたという。
ある人は市内の三階建て一戸建てに住むが、陽の光は入らず交通の騒音も絶えない。家族は三世帯だが各人が住む階が違うため会話は殆どない。食事も一緒に摂らないのは珍しいと思うけれど、筆者の記憶では2000年代の初めには結婚しても別居を希望するか、同じ家に同居したとしても全てが一緒でなく、別個に生活するなど意識や形態が変わってきている。
ある方はこれではいけないと、家族全員でアパートに引っ越すことにしたが慣れない共同生活。長い共用廊下とエレベーターにはウンザリすると思っていた。だが2週間も経たないうちに考えが変わった。何と180㎡もある中で祭壇を置き、明るい部屋に広いバルコニーとリビングを家族で過ごせるし、何よりも階段が無くセキュリティーが完璧でよく眠れる。慣れるほどにすっかり宗旨替えとは、これまで喰わず嫌いだったのか。
ベトナムのアパートは何処でも24時間のセキュリティーがついている。だが壁は煉瓦造りで隣室の音が聞こえる。公共心は乏しく共用部分という概念など無いので禁止された変更を勝手にする。掃除は管理会社が行うけれど入居者が綺麗に使おうという気持ちは薄いなど、集合住宅ゆえの問題は山程ある。
区分所有に於ける専有部分と共用部分の概念など全く理解していないし、契約の時にも説明など無かった。だがこれはある意味国民性でもある。
高齢の母は階段で転倒する心配がある。実際に知り合いで向かいのアパートに住む日本人が酔っ払って階段で転倒して帰らぬ人となった実例。クリスマスで飲み過ぎたのは本人の責任、たまさか自宅前だったが、なんと夜中に発見した奥さんにすればいた堪れない出来事だった。

こうした例は国内で増えているとされ、ベトナムに於ける人口増加と高齢化の中で多世代共生を促進。高齢者向け住宅の開発とかアパートという居住空間への移行はある報道に拠ると高齢者をリスクから守ることになるとしています。
不動産会社の調査に拠ると、2026年上半期の住宅購入者のアンケートでは、ハノイでは59%、HCM市で54%がアパートを選択するとしている。
サビルズに拠ると、この傾向は3つの長期的な構造が変化していることで推進されているとしたが、実際には価格など様々な理由があります。
第一に、急速な人口の高齢化があり、安全とケアが出来る住宅需要が強い。
二番目に成長に拠る都市化、また元々共稼ぎが多かったので仕事と育児の二重のプレシャーにより、以前の様に家族が高齢の親を自宅で介護することが出来なくなっている。だがこの国では介護施設が不足、需要に応えられない。
三番目に高齢者住宅は世界では、成熟した規模の資産のある人へ医療や福祉的サービスを併せ持つとあるが、この項は飛躍し過ぎで的外れ。
ベトナムの建築家は日本やシンガポール、その他ヨーロッパなどの先進国では
クリニック、機能回復のため理学療法施設を持ち、さらに公園が一体化されているとしている所から見ればベトナムは遅れているとしている。
これは一般的な集合住宅ではなく、少々先走っておりケア施設とか、アメリカのナーシングホームの部類を指すので、本来的な意味合いと趣旨が異なるが、要は高齢化社会に突入するベトナム、この様な施設がないので多世代の家族が両親をケアするのに必要なアパートとは何かという思考から来ている。
即ち未だに高齢者のケアは家族が行うべきとするベトナムの伝統的考えから来る訳で、核家族的で個人的な家族形態という考え方をする新世代の若者とは方向性や生活意識が異なると思える。
だが同じ家に住むのではなく、例えば隣り合ったアパートの居室という考え方をする人もいる様で、そうであるなら干渉を少なくして夫々の家族が生活出来るとして、この様な人口動態の変化が設計上で影響を与えているという指摘もあります。今後この様な身内同士が一緒に、あるいは隣り合って暮らすためのレイアウトという思想で建築されるアパートが増加する、と不動産アナリストもいるというけれど、ならば進歩していないのは何故。

・ケア施設の重要さ 社会インフラの一環

高齢者のケアという観点、また経済成長が高度に発展してこれまでの事情と異なっていのなら、また家族が高齢者をケアするのに無理があるという視点からすれば、またベトナムがこれから高齢化社会に入って行くとの見方があるのであるなら、介護施設とかグループホームなど先進国の事例研究を行って、その様な施設を政府の行政責任で増やせばいいこと。
既に国内では多くの人が庭のある一戸建てで生活する事など高齢化すれば無理、という事を理解しており、これが他の家族の構成者の足を引っ張る要因となるのであれば、また貧困の時代から生活や栄養状態が良くなり、増々の高年齢化と転倒リスクが増えている現在の状況からして、政策として考える必要があるけれど遅れが目立つ。家族全員でケアするという負担の重さがあり、また機能回復訓練とか作業療法など専門教育を受けている人とか資格が無ければ出来るものではありません。
世界保健機構に拠れば、65歳以上の約30%、80歳以上のほぼ半数は年に一回以上転倒しており、その半数以上は繰り返しているとある。
もはや大腿骨骨折となれば回復は遅れるし、年齢を重ねる程に骨は弱くなり、下手をすれば寝たきりの生活にもなる。家族での介護は何れ必ず限界が来る。
高齢者にはフラットな生活空間だけでなく、出来る限り外出して人との交流、クラブなどの活動で何らかの意識を持つことが大事だと記事は書く。
従がって高齢者向けのコミュニュティーは安全だけでなく孤立から守る助け、精神的な支えにもなるとしています。
だが日本の大学から派遣されHCM市の日本が支援して建設した大病院でも、この様な高齢者向けの訓練ができる器具など無く、作業療法など機能回復訓練が出来る部局すらない現状。此処は教育の一環として看護介護、理学的療法を教える高等教育施設が必要。今実習生として日本に来て国家試験を受けて合格、活躍している看護介護人材が技術を習得して帰国したとしても受け入れ出来るだけの施設は無く、この様な有能な経験と技術を持つ人材を管理できるだけの能力がある人は多くなく数十年遅れている。
設計においても段差がないフラット構造とか手すり設ける、床は殆どがタイルなので滑りやすいなど店頭の危険性があるなどこれまでの伝統的なスタイルを見直さなければなりません。こういう面でも思想が乏しい。
アパートの建設品質に付いては、日本の開発業者が進出してJVで販売をしているが何れも極めて高評価を受けている。生活導線や設備に建材など高くても納得でき得るもので長い経験が大きな差別化となっている。
さらに日本の警備保障会社も随分前に進出しており、緊急時の通報などを導入すれば安全性の高いシステムと評価されるに違いありません。

・隠れたトラブルにストレス

だが快適な面だけではなく、生活をしてゆくうえで思いもよらないトラブルがあり、さらに住民の意識レベルの差や民度に拠ってストレスとなる場合があると専門家は注意する様に語っている。
集合住宅に住むという事が理解できていない住民は多い。法的な問題にも無関心で、そもそも先進国の様に集合住宅で暮らすことに関して権利義務が法律にない。だから好き勝手にする人も居るのは事実です。
記事には超高級アパートに住む人が管理会社から3回も警告を受けたが、その内容とは玄関を開け放しにしたという。一見問題はなさそうだし日本でもよくある事。ところが此処は厳しくて警備員が来てドアを閉める様に注意しに来た。
防犯の問題があるけれど、住人にとっては通風しか考えていない。
ベトナムではこの様なドアの開け閉めまで言われる事が増えている。即ち調理の臭いだとか、本来飼ってはいけないペットが徘徊する事もある。
管理規約が無いかと言えばそうではない。筆者が購入したアパートもしっかりとあったけれど、これは地場業者ではなく、外資系とベトナムのJVであり、ベトナム側にノウハウがなく契約等を纏めたのが外資系だったからです。
このドア開放に関してアンケートを取ったそうだが、これにはまたも驚いた。マナーや安全性で閉めるのを支持する人が多いのはベトナムだから。
様々な要因で高層化が特に都市で行われているが、限られた市内の土地を有効利用するためには必要不可欠、徐々に共用部分に関する意識が出て来たのではと考えます。初めに開発業者がきちんと説明しなければならないが、販売担当者が高層住宅に住んでいないのでは何ともならない。
複数の家族間での対立は中々収まらないけれど、土地付き建物から集合住宅に住まいが変わるなら生活スタイルが変わらざるを得ない。取り分け共用部分の取り扱いに関してのマナーは酷いものがだ、これまで暮していた各家庭の夫々の生活スタイルが衝突するという訳。だが日本人の様に他人に迷惑をかけないという、多くの家庭でごく普通に実践していしている事がこの国では出来ない。自分優先、道徳観の欠如が原因と考える。
理由のひとつにあげられている臭気、これはかつての経験だが、西日本で初の一億円マンションを建設販売した時、この地域には外国の富裕層が多い。
それなら油モノや臭いがある料理をするのではと考えた。そうなるとダクトを通しても油分と臭いを含んだ排気があることが問題、妙案はなかったけれどもふたを開けると案ずるより何も無かった。
今はダクトを使わず、横引きの配管工事で強制的に排気する方法を採る。またトイレも床スラブを貫通しない。実際に階上の部屋から水漏れがあったことがベトナムで暮らしていた時にあったけれどこの様な面でも遅れていた。

・運用上での課題も多々ある

あるアパートはEVを使うたびに料金を払わなければならない。受益者負担的考えだが、これは管理会社の収入。管理費をどう使うのか良く判らない。
管理組合があって購入者が構成員でなく、管理会社が仕切り、公安が会合に割り込んでくるという何ともオカシイ状況であった。セキュリティーは管理会社は24時間しっかりしているが、公安は勝手に敷地や住宅内に入って来る。
権利の侵害でもあるが、この様な社会主義国の一面があって、住民を監視していると思われても仕方がない。もちろん掃除やそのための水道に電気代なども管理会社が支出するけれど、果たして明細は本当なのか分らない。仮に利益が出ても繰り越しをしなかったので総会に出ることはなかったけれど、ましてや外国人、公安に睨まれ痛くない所まで監視されるのは嫌なので大人しくしていました。
住宅法と建設省発行の通達があり、アパート利用者の具体的な条件が定められ、騒音を出すとか臭いに関しても管理者は止めさせることが出来るとしているが、何とも不可解な条文にしか思えない。

株式会社VACコンサルティング 顧問
(IBPC大阪 ベトナムアドバイザー)
木村秀生